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噂話2


 私、五十嵐凪沙はさっきまで幼馴染の仁科白斗と電話をしていた。

眠くて、寝たか?という質問に本当に小さな声で答えたけど聞こえてなかったみたいで電話が切れた。

切れる直前に、白斗が『好きだよ』と言った。

聞き間違いかもしれない。

でも、目が覚めてしまって心臓の鼓動が速くなっている。


深呼吸をして、少し気持ちを落ち着かせてからリビングに行くと弟の秋人がいた。


「姉ちゃんがまだ起きてるとか珍しいな。明日、雨降るかも」

「寝付けなかったの」

「へぇ」


水を飲んで部屋に戻った。

とりあえず、バスケのことだけを考えて眠りについた。


翌朝、本当に雨が降った。

朝のランニングは中止になった。

白斗に会うのが気まずかったからちょうど良かった。

朝ご飯を食べてすぐに家を出て駅に向かった。

駅に着いてから白斗に先に行くと連絡をした。


避けてるみたいになっちゃった。

けど、まともに白斗の顔を見られる気がしない。


学校に行くと、インターハイの取材記事で私のお父さんが元バスケ日本代表だという噂で持ちきりになっていて教室に行くと数人のクラスメートに囲まれた。


その場は笑って流した。


お昼休み、教室の周りに人だかりができていてその中に白斗もいた。

友達に連れてこられたのか少し不機嫌そうな表情をしていた。


白斗と目が合うと、急に心臓を掴まれたみたいになってすぐに目を逸らした。


それから6限目、体育がまさかの3年生と合同で体育館を使っていてまた白斗と会った。

気まずいよ。

てか、気まずいとか以前に心臓が変になる。


そして、部活終わり、白斗に話したいことがあると伝えて駅に向かった。

駅のホームにある椅子に座って、白斗の顔を見上げた。

女子の中では高い方ではあるものの、白斗も背が高いため見上げないと顔が見えない。 


「凪沙、話したいことって?」

「あのさ、白斗。昨日、私に好きって言った?」


白斗は驚いたように目を見開いたあと、私から視線を逸らして起きてたのかと呟いた。

どうやら、聞き間違いではなかったらしい。

白斗の顔を見つめると、白斗は照れくさそうに笑って私の顔を見下ろした。


「俺、凪沙が好きだ。幼馴染としてじゃなく、1人の女の子として」

「白斗、」


なんだろう、これ。

頭がおかしくなりそうなほど、心臓が速くなる。

告白されたの、初めてだから知らなかったけどこんなにドキドキするんだ。


「私は、白斗を好きだけど、恋とかは考えたことがない。恋が分からない」

「いいよ。分からなくて。考えなくて。俺は、幼馴染のままでいるのも悪くないなって思ってたから。それに、考えようとしなくても俺のこと考えるくらい好きになるまで何も言わなくていいよ」


考えようとしなくてもいいの?

告白されても、相手の気持ちに応えようとしなくてもいいの?

白斗は本当にそれでいいの?

優しいから、私に気を遣ってるだけで私といるのが気まずくなったり嫌になったりしないの?


聞けば、いいのに。

聞けなかった。


「白斗、」

「俺が凪沙に好意があるって分かっても、一緒にいてくれる?」

「うん」

「俺、凪沙のことめちゃくちゃ好きだぞ。多分、凪沙の想像以上に」

「気付けなくてごめん」

「気付かせないようにしてたんだよ。だから、謝んな」


白斗は眉を寄せて私の顔を覗き込んだ。

切ない顔をしている白斗を見ていると、辛くなってきて頰に涙が伝った。

慌てて涙を拭ってもなかなか止まらない。

自分でもなんでか分からなくて戸惑っていると、白斗が私を抱きしめた。


告白を断ったくせに、私は白斗の胸に顔を埋めて泣いていた。

でも、安心してすぐに涙が止まった。

白斗の顔を見上げると、笑って私の頭に手を置いた。


「そろそろ帰らねえとな。千花さんと亮太さんが心配する」


駅に着いたときにはもう既に8時半を過ぎていた。

一応お父さんとお母さんに連絡はしていたけど、駅に着いてから思い出して連絡したから遅すぎるって怒られたらどうしようと思いながら、家に向かった。

白斗は自分の家を通り過ぎて私の家の前まで来た。


白斗が家のチャイムを鳴らすとお母さんが出てきた。


「凪沙、白斗も、おかえり」

「千花さん、凪沙をこんな夜遅くまで引き止めてしまいすみません。連絡が遅くなったのは俺と話していたからなので凪沙のことを叱らないでください」

「白斗、顔を上げて。理由があったのは分かったから凪沙のことを怒るつもりはないよ。わざわざ教えてくれてありがとう」


お母さんは微笑んで白斗を見た。


「咲久が心配してるよ。白斗も早く帰りな」

「ありがとう、千花さん」


白斗は私に手を振って帰っていった。

お母さんは私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「凪沙、いい幼馴染をもったね」

「うん」



 ✽ ✽ ✽




家に帰ると、母さんと父さんと咲良と楓真が揃ってリビングで待ち構えていた。


「心配掛けてごめん。凪沙と話してて遅くなった」

「どうせそんなことだろうと思ったよ。」

「夜ご飯食べる?」

「食べる」


鞄を自分の部屋に置いてから、リビングに行った。

晩飯を食べ終えて、風呂からあがると楓真と咲良はもう自室に戻っていた。


母さんと父さんは俺を待っていたかのように、ココアを3人分準備していた。


「凪沙と話って時点でなんとなく察しはつくけど」

「振られた」

「そっか」

「分かってたから言わなかったけど、いざ振られるとしんどいわ」

「伝えたこと、後悔した?」


母さんが首を傾げた。

俺は笑ってマグカップを握った。


「それが全く。自分でも驚くぐらいスッキリしてて、むしろ告白して良かったなって思ってる」

「そっか。良かった」



翌朝、起きてジャージに着替えて軽くストレッチをして家から出ると凪沙も家を出てきた。

てっきり来ないと思ってたから驚いていると、凪沙はいつも通りとはいかないけど少しぎこちなくも笑顔でこっちにやって来た。


おはようと笑うと、凪沙も笑っておはようと答えた。


朝ランニングを終えて、家で朝食を食べて咲良も一緒に家を出た。

咲良は凪沙と俺を見比べて、凪沙と腕を組んだ。


「明日から7月だね」

「俺は今日でバレー部引退だ」

「あ、そっか」

「え〜、凪沙、帰り一人になるじゃん。私心配だよ」

「学校の図書館とか自習室で勉強するから帰る時間は変わんねえよ」

「なんだ。それなら安心」


駅に着いて、咲良と別れた。

咲良のやつ、俺と母さんたちの会話聞いてたな。

まあ、いいけどさ。


学校に着くと、相変わらず凪沙は注目を浴びていた。

背中をポンッと軽く叩いた。


「なんかあったら俺のクラス来いよ」

「ありがと」


凪沙は笑って靴を履き替えた。

手を振ってそれぞれの教室に向かった。



教室に行くと、クラスメートが俺の方をチラチラと見ていた。

凪沙と仲良いからってなんか聞きたいのか?

首を傾げていると、悠吾が俺の席にやってきた。


「白斗、凪沙ちゃんに告って振られたってマジ?」

「………誰から訊いたんだ?」

「誰からって、噂流れてんだよ。昨日の夜にうちの生徒が白斗が凪沙ちゃんに告白して振られるところを見たって」


じゃあ、凪沙は亮太さんの娘としてじゃなくて、俺を振ったとして注目を浴びていたのか?

悠吾曰く、無駄に目立つ見た目のせいで俺は2、3年生のほとんどに名前が知られているらしい。

俺はすぐに凪沙のクラスに向かった。

教室に凪沙の姿はなく、リュックサックもなかった。

亀井さんに声を掛けた。


「凪沙、どこにいるか知ってるか?」

「凪沙ちゃん?まだ学校に来てないんじゃないですか?」

「それはない。昇降口まで俺と一緒に来たから」


誰かに呼び出されたのか?

そう思った途端、背筋が凍った。

昔のトラウマとか言ってる場合じゃねえよな。

人気の少ない階段裏に向かった。

凪沙と2年の女子生徒数人が一緒にいた。

俺が凪沙の元へ駆け寄るのと、女子生徒があげた手を振り下ろしたのはほぼ同時だった。


背中が痛い。

結構強い力で叩こうとしてたんだな。

凪沙に当たらなくて良かった。


「白斗先輩!すみません、私、」

「言い訳とかいらねえよ」

「すみません、」


凪沙の手を引いてその場を立ち去った。

なんで、告白断っただけの凪沙が嫌な目に合うんだよ。

中学の頃なんか、仲良くしてるだけで嫌がらせされたりしてたし。

なんでだよ。なんで、俺が好きな子と仲良くしてるだけで好きな子が傷付けられるんだよ。


別にアイドルでも俳優でもねえんだし、いちいち邪魔してくんなよ。


「凪沙、何もされてないか?」

「されてないよ」

「怖い思いさせてごめん」

「白斗が来てくれるって分かってたし怖くなかったよ」

「そういうとこだぞ」


凪沙は本当に幼馴染として俺を信頼してくれている。

それが嫌ってわけじゃないし、むしろ少し嬉しかったりもする。

でも、上目遣いで今の台詞を言われたら落ちるだろ、誰だって。


凪沙を教室の近くまで送り届けて俺も教室に戻った。



放課後、俺達3年は今日で引退するため、3年対1、2年で試合をすることになった。


無事、3年チームが勝利して最後に挨拶をすることになった。

晴人から後輩たちに向けて挨拶をしていく。

俺の番が回ってきた。

マネージャーや後輩がないているのを見てつられて泣きそうになる。


「俺は高校でバレーを辞めるけど、卒業しても時々見に来るからサボったりすんなよ。それと、俺をエースだって慕ってくれてありがとう。エースって呼ばれるほど頼りになる存在だったかは分からないけど、その名に恥じないように頑張ろうって思えた。それと、マネージャー。3年間、支えてくれてありがとう。マネージャーがいたから決勝、準決勝に進めた」


そう言って頭を下げると、他の3年たちも頭を下げた。

マネージャーは涙を堪えながら笑っていた。

最後にマネージャーから後輩に向けてのメッセージがあって、部員たちから寄せ書きと花束をもらった。


凪沙と同じクラスの亀井さんと2年生のマネージャーが花束を渡してくれた。

2人とも泣いているせいで少しつられそうになった。


「白斗先輩、受験勉強頑張ってください」

「3年間、お疲れ様でした」

「ありがとう」


花束を受け取って、3年全員で記念撮影をした。

その後は各々仲が良かった者同士や後輩と写真を撮っている。

で、なんで俺の前に列ができてんだよ。

俺はアイドルかよ。


「白斗、相変わらずモテてるな」

「晴人、笑ってないで助けてくれよ」

「もう全員で撮れよ。白斗を真ん中にして」

「そうだな」


晴人にスマホを渡すと、2年生マネージャーと2年生ウイングスパイカーが俺の右隣を奪い合い始めた。

左隣では他の後輩たちが奪い合ってる。

なんでそんなに隣に立ちたいんだよ。


はぁ、とため息を吐いて晴人に視線を向けると、晴人はスマホを顧問の先生に渡して俺の右隣に来た。

もう一人、同じミドルブロッカーの廉也(れんや)を呼んで左隣に立ってもらった。


「じゃあ、撮るぞ」


先生が何枚か写真を撮ると俺にスマホを返した。

バレー部のグループに写真をのせた。

部活が終わって着替え終わると、2年生のマネージャーにスクイズを洗うのを手伝ってほしいと頼まれた。

水道の方に行くのかと思ったら、体育館裏で立ち止まった。


「スクイズは洗わなくていいのか?」

「すみません。嘘です。もう洗ってあります」


2年生マネージャーの東峰さんは深呼吸をして俺の顔を見上げた。


「私、白斗先輩のことが好きです」

「………ありがとう」

「最後に、一つ質問してもいいですか?」

「なに?」

「白斗先輩が五十嵐さんに振られたって噂、ホントですか?」

「………ああ」

「ありがとうございました」


東峰さんは頭を下げるとさっさと歩いていった。

俺も凪沙と合流して、一緒に電車に乗って最寄り駅まで行った。


家に帰る途中、凪沙が少し気まずそうに切り出した。

どうやら、女バスの先輩たちに質問責めにあったらしい。


「なんで白斗のこと振るの?って先輩たちみんな言ってた。分からないって言ったらお試しでも付き合ってみればって」


俺はふぅ、と息を吐いて凪沙の顔を見た。


「凪沙はどうしたいんだ?」


周りがどう言おうと、大事なのは俺と凪沙の意思だ。


「考えなくていいって言ったけど、考えちゃうし、このままうやむやにしてたら白斗の気持ちまでなかったことになりそうだから私はお試しで付き合いたいって思うよ。もちろん、白斗が良ければだけど」

「じゃあ、お試しで付き合ってみよっか。周りには内緒で」

「うん」


嬉しいような嬉しくないような、なんか複雑な気持ちになる。

まあ、これで振られたら諦めがつくかもしれない。

小さく息を吐いて、凪沙の指に自分の指を絡めるように手を繋いだ。

凪沙は驚いたような少し照れたような表情で俺の顔を見上げていた。


「お試しでも付き合ってるんだから手くらい繋ぐだろ?」

「そ、そっか。」

「嫌なら離すけど」

「嫌じゃ、ない」


恋人繋ぎはオッケーか。

いや、幼馴染だからっていうのもあるのかもしれない。

キスをするわけにはいかないし、どうやって凪沙の気持ちを確認しよう。


「お試し付き合いだけど、期間設けようぜ」

「そうだね」

「夏休み最終日に、凪沙が俺の事好きならそのまま付き合う。そうじゃなかったら幼馴染に戻る。それでいいか?」

「うん」


家の前で凪沙と別れて家に入った。

夏休みまであと1週間。

頑張って振り向かせよう。

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