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噂話1


 インターハイ出場決定後、ネット記者から凪沙に取材が申し込まれた。

1年生でスタメン入りして、決勝で1人で二桁得点をしたためその取材らしい。

しかも、両親にも取材するらしい。

学校に記者がやって来て凪沙を取材をしてから、亮太さんと千花さんは家で取材をするらしい。


凪沙は取材が嫌らしく、俺に同行してほしいなんて頼んでくる。


「同行してほしいって言われても、そもそもいいのか?」

「いいよ!1人で取材を受けにくいなら、友達を連れてきてもいいって言われたし」

「友達、か?俺」

「友達、ではないかな。まあ、けど誰かいてもいいんだし来てね」


凪沙は俺の顔を見上げた。


「まあ、いいけど」


好きな子に上目遣いで頼まれて断れるわけがない。


放課後、応接室に行くと凪沙と記者の人がいた。

凪沙は緊張しているのか、記者を睨んでいて記者は少し気まずそうにしていた。

俺は凪沙の頬を引っ張って顔を見下ろした。


「睨まない」

「あ、白斗!てか、私睨んでた?」

「睨んでた」

「うっそ。すみません」


凪沙の隣に座ると、早速取材が始まった。

いつからバスケを始めたのか、とかインターハイへの意気込みはとかから好きな食べ物の話に移っていった。

凪沙がお母さんの作った唐揚げと答えると両親についての質問を投げかけてきた。


「そういえば、五十嵐さんのお父上は元バスケ日本代表の五十嵐亮太選手だと言われていますがそれは本当ですか?」


ああ。なるほど。

凪沙への取材は、元バスケ日本代表の娘への取材なんだ。

凪沙はその質問を聞いた瞬間、表情を曇らせてはい、と答えた。

記者は高校生相手だからと気にせず質問を続ける。


「お父上は、インターハイ出場についてなんと言っていましたか?」

「両親共におめでとうと」

「何かお祝いはされたのですか?」

「幼馴染とバーベキューをしました」


凪沙は本当はこうやって自分じゃなくて“五十嵐亮太の娘”である五十嵐凪沙についての取材だって分かっていなんだろう。

悔しそうに唇を噛んで下を向く。

俺は凪沙の頭に手を置いて記者の方を見た。


「取材って、4時半まででしたよね?もう10分も押してるんですけど」

「すみません。では、最後に。あなたは五十嵐さんの彼氏なのですか?」

「幼馴染です。凪沙、部活行こう」

「今日はありがとうございました」


俺は凪沙の手を引いて応接室を出た。

応接室の前には他の生徒たちが集まっていた。

どうやら、取材に聞き耳を立てていたらしい。

体育館に行く途中で、凪沙は急に立ち止まった。


どうしたんだ?と振り返ると凪沙は泣きそうな目で俺の顔を見上げた。


「私、お父さん好きだけど、こういうときは好きじゃなくなる。私自身はまだ、興味を持たれるほどの実力はないって分かってるけど突きつけられるのはしんどい」

「………しんどいな」


俺は凪沙みたいに比較対象がいるわけじゃないから、分からないけど俺も凪沙を見ていてしんどくなった。

軽く凪沙の頭を叩くと、凪沙は悔しそうに唇を噛みながら涙を堪えた。


「あの人たちは分かってないみたいだけど、バスケしてるときの凪沙は誰よりもカッコいい。だから、インターハイで見せつけてやれよ」

「うん」


俺はまだ引退していないため、一緒に部活に向かった。

試合は終わったけど、今月末までは引退しない。

少しダラダラと残ってしまう分、ビシバシ後輩たちを鍛えるつもりだ。


部活を終えて、凪沙と一緒に家に帰った。

取材はすでに終わっているようで、凪沙の家にさっきの記者たちがいることはなかった。


「白斗」

「ん?」

「10時に電話していい?」

「まあ、起きて勉強してるだけだろうしいいよ」

「ありがと」


凪沙はまた後で、と言うと家に入っていった。

俺も家に帰った。

すぐにシャワーを浴びて、夜ご飯を食べた。

部屋で勉強していると、10時ちょうどに凪沙から電話が掛かってきた。


『もしもし』

「ん?」

『私が寝たら切って』

「ああ」


凪沙は何か嫌なことがあったり、気持ちが落ち着かないときは時々こうして俺に電話を掛けてくることがある。

咲良は夜はドラマを観てることが多いから暇な俺に頼むらしい。

別にいいけど。

むしろ、電話してる方が勉強のやる気が出る。


『白斗、大学生になったら家出るの?』

「さあな。第一志望に受かったら家から通うけど、第二志望の学校だったら一人暮らしになるだろうな」

『じゃあ、絶対に第一志望の大学受かってね』

「そのつもりですよ」

『そっか』


凪沙の声に元気がないと、複雑な気持ちになる。

凪沙の好きなものの話でもしようか。


「もうすぐ夏休みだな」

『うん』

「プールでも行くか?」

『行きたい』

「花火大会は?」

『行く』


声が少し明るくなってきた。


『浴衣着たい』

「いいな」


絶対に可愛い。見たい。


11時手前になると、凪沙の声がしなくなった。


「凪沙、寝たか?」


返事がない。多分、寝たんだろう。


「好きだよ。………おやすみ、凪沙」


電話を切って、俺もワークを閉じた。

そろそろ寝よう。

朝、ランニングもあるし。


電気を消してベッドに入った。



翌朝、雨が降ったためランニングは中止にして自分の部屋で筋トレをした。

リビングに行って朝食を食べて、制服に着替えるために自分の部屋に戻った。

ちょうど、通知音が鳴った。

見ると、凪沙からメッセージが来ていた。


『今日は先に行くね』


スタンプを送って、勉強机の椅子に座った。

今日、特に朝練があるとか言ってなかったよな?

凪沙だし、気まぐれに今日は1人で行こうってなっただけか。


凪沙が入学するまでいつも、1人で電車に乗っていたのに凪沙がいないと静かすぎて落ち着かない。

悠吾とか晴人が同じ方向ならな。


学校に着いて、教室に行くとざわついていた。

どうやら、凪沙に取材が来たという噂が校内に回ったらしい。


昼休み、悠吾が俺の席までやって来た。


「なあ、白斗。バスケ部の1年が取材受けたって知ってる?」

「知ってる」

「しかも、五十嵐亮太の娘らしい。見に行かね?」

「俺は別に、」

「いいから行くぞ」


悠吾は俺の返事を聞く気もないらしく腕を引っ張って1年のフロアまで連れてきた。

1年のフロアは5組の前だけが人だかりができている。

悠吾はその人だかりの方に突っ込んでいって教室のドアの前を陣取った。


「あの子だ」

「おい、」


悠吾は凪沙の方に手を振った。

凪沙は俺を見た瞬間、教科書で顔を隠した。

可愛い。じゃなくて、俺、なんか避けられてる?

ショックを受けていると、バレー部の後輩が教室から出てきた。


「白斗先輩?元気なさそうに見えますけど、どうしたんですか?」

「あ、いや、何でもない。帰るぞ、悠吾」

「俺、まだ話せてないし」

「いいから」


教室に戻って、午後の授業が始まった。

今日は6限までで、6限目は体育だ。

雨が降っているため、グラウンドではなく体育館で体育をすることになった。


女子は第二体育館で男子は第一体育館に行く。

第一体育館は1年と合同で使うらしく、真ん中にネットが引かれている。


そういや、凪沙もこの時間は体育だよな?

体育館を見渡すと、凪沙の姿があった。

1年生はドッチボール、2年生はバレー。

それぞれ試合形式の練習を行うため、試合に出ない人は2階から試合を見る。


階段を昇って2階で悠吾の地味に上手いレシーブを見ていると、1年も2階に上ってきた。

凪沙は目が合うと、すぐに逸らした。

俺、マジで何したんだろ。

ため息を吐いてまた悠吾に視線を戻した。

すると、隣に1年生マネージャーがやって来た。


「白斗先輩、体育一緒だったんですね」

「そうだね。そういえば亀井(かめい)さんって5組だっけ?」

「そうですよ」

「そっか」


凪沙と同じクラスなのかと思っていると、亀井さんは凪沙に視線を向けた。


「凪沙ちゃんと、何かありました?今日、先輩も凪沙ちゃんも少し変ですし」

「凪沙に避けられてる気がする」

「何かしたんですか?」

「心当たりはない」


凪沙の方に視線を向けると、目が合ってまた逸らされた。

避けてるくせに、なんでこっち見てんだろ。

凪沙の方をじっと見ていると、凪沙がチラッと視線を向ける。

そして、また逸らす。


そのうち試合が終わって、今度は俺が試合に出る番になった。

どうやら、凪沙たちもそうらしく階段を降りていった。


試合が始まってジャンプサーブを禁止されているため、フローターサーブを打った。

まあ、それでもコントロールをして取りにくいところに打ったけど。


2本連続サーブを決めて、交代させられた。


試合形式とはいえど、初心者だらけのためルールは少し違っている。

俺も、トスの位置が低いからスパイクをいつも通りには打てない。


試合が終わって凪沙の方を見ていると、凪沙が相手コートの生徒にボールを当てていた。

凪沙は強くなかった?痛くない?と心配している。

可愛すぎてつい笑みがこぼれる。


体育が終わって更衣室に向かう途中、凪沙は俺のクラスと体育で合同のクラスの奴らに囲まれていた。

俺はその人だかりの後ろから少し大きめの声で話しかけた。


「早く着替えねえと、担任にキレられるぞ」

「あ、ヤベぇ!」

「急げ!」


凪沙の周りにいた奴らはすぐに走っていった。

俺も追いかけるように走った。


着替えて、帰りのホームルームを終えて悠吾に引っ張られてまた1年5組に連れてこられた。

凪沙と目が合うと、凪沙はリュックサックを背負ってこっちにやって来た。


「白斗、五十嵐亮太の娘来たぞ」

「うるせぇ」


凪沙の目を見ると、凪沙は何も言わず俺の手を引いて体育館まで走った。

抜け出すのに都合がいいとでも思ったのだろうか。


体育館に入ろうとすると、近くの渡り廊下から女子生徒たちの話し声が聞こえてきた。


「女バスに元バスケ日本代表の娘いるらしいよ」

「知ってる!インハイ予選の決勝でめちゃくちゃ活躍したって子でしょ」

「そう!あの子、他の人よりずば抜けて上手かったけど父親がバスケ選手とか上手くて当然だよね」


気がついたら、凪沙の止める手を払って女子生徒たちの前にでていた。


「父親とか関係ねえよ。練習で手を抜くってことは一切しないんだよ。こっちがもうやめろっていうまで練習してんだよ。お前らが知らなくても凪沙は努力してんだよ。凪沙のこと知らねえくせに元々天才みたいに言ってんじゃねえよ」


そう言い終わると、女子生徒たちは俺から視線を逸らした。

その瞬間、顔が強張っていた。

振り返ると、凪沙が立っていた。

女子生徒2人は凪沙に謝ると、すぐにどこかに行った。


「私、ダメだね。スポーツやってんのにメンタル激弱とか」


凪沙は悔しそうに唇を噛む。

抱きしめると、凪沙は顔を俺の胸に埋めた。

スポーツやってる限り、メンタルは強いに限る。

だけど、どれだけバスケが強くても凪沙はまたわ16歳だ。

自分の努力して身につけた力をあって当たり前と言われて悔しくないわけがない。

涙を我慢できるほど、我慢強くある必要もない。


「ダメじゃない。スポーツ選手にとって諦めないことは大事だけど、悔しい気持ちを我慢する必要はないんだ」


凪沙は少し落ち着いてから体育館に入っていった。

俺は、鞄を教室に忘れていたことを思い出して教室に戻った。

悠吾や他のクラスメートが何人か残っていた。

悠吾は俺に気付くと驚いたようにこっちにやって来た。


「白斗、五十嵐亮太の娘と知り合いだったのか?」

「凪沙とは幼馴染なんだよ。それと、その言い方やめろ。凪沙は凪沙であってそんな肩書きいらねえんだよ」

「悪い。てか、お前彼女いたのか?」

「彼女じゃねえよ」

「けどお前、凪沙ちゃん好きだろ?」

「………俺の片想いだ。じゃあ、帰るから。またな」

「おう」


悠吾はニヤニヤしながら手を振っていた。

俺、そんなに分かりやすいのか?


凪沙にもバレてたり………ってそんなわけ無いか。


体育館に戻って部活を終えて、片付けていると凪沙がこっちにやって来た。


「白斗」

「ん?」

「話したいことがあるんだけど、ちょっと帰り遅くなってもいい?」

「いいけど」

「ありがとう」


凪沙はそう言い去るとモップを持って走っていった。

話したいこと?ってなんだ?

頭をぐるぐる回しながら片付けて着替えた。

恋愛相談、だったりはしないよな?

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