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インターハイ予選


 新学期に入って、いよいよインターハイ予選が始まった。

俺達は3回戦を突破し、準決勝に進んだが対戦相手は去年の決勝戦で負けた高校で2、3年は絶対にリベンジするぞ、といつも以上に練習に気合が入っている。


放課後、部活が始まると、6対6の紅白戦を行う。

その後に基礎練を行って、それぞれの課題を練習している。

俺は、主にサーブとブロックだ。


速攻のとき、ブロックの手の出し方が雑になっているから、スパイク練習をしている部員たちのブロックをしている。


休憩中、女バスの方を見ると、向こうも練習に熱が入っている。

特に凪沙は1年生でスタメンに選ばれて気合が入っている。

休憩中も水分補給をしたらすぐにシュート練に戻っている。

俺も頑張ろう。



部活を終えて、着替えて顧問と話をしていると同い年のマネージャーと後輩マネージャーがやって来た。


「仁科」

「ん?」

「これ、莉乃ちゃんが部員みんなに作ってくれたミサンガ」

「試合、頑張ってください」

「ありがとう。頑張るよ」


ミサンガを受け取って、先生と話を終えてから女バスの方に行った。

凪沙は先輩たちと気合入れをしていた。

明後日、女バスはインターハイ予選の決勝戦があるからさっきまでミーティングをしていた。

俺達も明日の夕方に試合があるため練習前にミーティングをした。

もし負けたら、3年にとっては最後の公式戦になる。


凪沙に応援に来てほしかったけど、試合の前日に応援に来るのは難しいだろう。


ミーティングが終わったのか、凪沙がこっちにやって来た。


「お腹空いた〜」

「凪沙」

「なに?」

「ミサンガ、つけてくれない?自分で腕につけられないし」

「いいよ」


凪沙にミサンガを渡して、左手を出した。

明日の試合、勝って最後の夏こそ全国に行きたい。


「ありがとう。勝てる気がする」

「そっか。一緒に勝って全国行こうね」

「バスケとバレーは会場違う県だけどな」

「あれ?そうだっけ?」


凪沙のお陰で少し緊張がほぐれた。

笑って駅に向かった。



翌日、試合は夕方からだから会場に向かったのは昼過ぎだった。

母さんも父さんも咲良も楓真も総出で試合を観に来るらしい。

前の試合が終わって、コートに入ってアップを始めた。


あっという間に試合開始のブザーが鳴った。

いよいよ、インターハイ県予選の準々決勝が始まった。


先攻は俺達で最初のサーブは俺が打つ。

深呼吸をして、ボールを投げる。

ジャンプをして思いきりボールを相手コートの端に向けて打つ。


ライトのスパイカーが拾おうと腕を伸ばしたが、威力が弱まることがなく後ろに飛んでいった。


1発目から気持ちよくサーブを決めれて、安堵と興奮が緊張を覆い被せた。


2本目、さっきよりも威力が上がった。

だけど、今度はコントロールが悪くリベロの正面に飛んで行った。

リベロに拾われたが、こっちに帰ってくる。

晴人がボールを上げて同じ3年の(あお)がスパイクを打ち込む。


2年連続決まって、3本目。

サーブはさっきよりもコントロールを重視して打った。

けど、相手チームのセッターに拾われてそのまま相手に攻撃を決められてしまった。



そこから1セット目を取られて、2セット目はなんとか取り返した。

だけど、3セット目が始まって相手が20点代に乗ると、後輩たちの気力が少しずつ減っていくのが分かった。

3点差。

でも、まだひっくり返る点差だ。


ふぅ〜、と息を吐くと後ろの応援席から誰よりも大きい声が聞こえてきた。


「なに下向いてんの!?まだ、負けてないよ!」


驚いて振り返ると、部活Tシャツにハーフパンツの凪沙が立っていた。

俺は相手コートを見てニッと笑った。


「1本取るぞ!」

「「おお!」」


相手チームのサーブをうちのリベロが上げて、綺麗に晴人の頭の上にいく。

晴人はトスを上げた。

俺は助走をつけてネット際で全力のジャンプをして腕を力いっぱい振り下ろす。


ボールは相手のブロックを弾いてラインの外に出た。


「っしゃあ!」



そのまま点差は縮んでいき、デュースとなった。

そして、お互い30点代にのって相手チームがリードしていた。

相手チームのサーブのターン、俺達と同じように疲れている筈の向こうのエースがこの試合で一番のサーブを打ち込んできた。

ボールは俺の目の前に飛んできて、レシーブで上げようとしても腕に当たっても威力を殺すことができずそのまま後ろに吹き飛んだ。

そして、ボールが床に着くと、試合終了の合図が鳴った。


晴人も碧も、他の部員たちも、みんな泣きながらネットの前に並んだ。

相手チームの選手たちと握手を交わして、応援席に礼をしてボールを片付けてコートを後にした。


最後のサーブ、俺が取っていれば負けなかったかもしれない。

深く息を吐いてベンチに座ると、晴人や碧やマネージャーが俺の肩を叩いた。


試合、あっという間だったな。


ベンチに座って呆然と天井を見上げていると、凪沙がやって来た。

お疲れ、と昔俺が好きでよく食べていた駄菓子を差し出してきた。

フッと笑いが溢れて凪沙の顔を見上げた。


「なんだよ、これ」


声が震えてしまった。

凪沙を見た瞬間、さっきまで我慢していて涙が一斉に込み上げてきた。

なんでだよ。意味分かんねえ。


手で、目を覆って下を向いた。


「見るなよ」

「見てないよ」

「泣いたこと、咲良たちに言うなよ」

「言わないよ!」


ホントカッコつけたがりなんだから、と笑い交じりに俺にタオルを手渡した。


「母さんたちに先に帰ってって伝えといて」

「オッケー」


タオルを顔に当てて、ゆっくりと息を吐いた。


ベンチの周りに集まって先生からの講評を聞いて、それぞれ解散となった。


「白斗、凪沙ちゃんじゃない?」

「あ、マジだ。凪沙、母さんたちと一緒に帰ってなかったのか?」

「私、お父さんに迎え来てもらったから。白斗も一緒に乗ってくでしょ?」

「ああ。お疲れ様でした」


部員たちと別れて、亮太さんの車に乗った。

亮太さんはお疲れとだけ言ってエンジンを掛けた。

こういうとき、母さんとか父さんとかじゃなくて亮太さんとか千花さんに頼ることが多い。

実の両親だと恥ずかしくて甘えられないときとか、この2人がいてくれて良かったって思う。


いつの間にか寝てしまっていて、目が覚めたときにはもう近所まで来ていた。


「凪沙、明日の試合、応援行ってもいいか?」

「うん」


家に着いて、車から降りた。


「亮太さん、ありがとう。」

「いいよ。おやすみ」

「おやすみ」



翌朝、8時過ぎに咲良と一緒に家を出た。

千花さんは仕事があるみたいで、亮太さんと待ち合わせて車で試合会場まで送ってもらった。


亮太さんは目立たないようにとキャップを被って、サングラスをつけている。

顔はバレないだろうけど、絶対に目立ってる。


うちの高校の応援席は制服を着て応援に来ている生徒たちも多いため、私服の俺達は少し浮く。


「亮太さん、座る?」

「いや、俺は立ってる」

「お兄ちゃんは?」

「俺も」


応援旗の前に立って体育館を見ると、凪沙たちがアップをとっていた。

9時半になると、整列してコートに入っていった。

ジャンプボールで先攻はうちの高校だ。


凪沙は誰よりも速くゴール前に走ってパスを受けてシュートを決めた。

相手チームがエンドラインからコート内にボールを投げると凪沙はそのボールをカットして、味方にパスを回した。

そして、凪沙はゴール下まで走ってパスを受けてシュートを決めた。


連続得点。

凪沙、やっぱ強いな。


エンドラインからの相手のパスをキャッチしてそのままシュートに向かった。

向こうはこれ以上連続で点を取らせるわけにはいかないと、凪沙を止めようとしてファールになった。

凪沙はフリースロー3本、全部綺麗に入れた。


「やっぱ凪沙ヤバ。カッコいい」


第1クォーターが終わって、第2クォーターが始まると相手が調子をあげてきた。

けど、凪沙たちもノリに乗っていく。

第2クォーターで、凪沙たちと相手チームで14点差が開いていた。

ハーフタイムを終えて、第3クォーターが始まった。


凪沙は深呼吸をして集中したような表情でコートに足を踏み入れた。

相手ボールから始まって、うちの高校の選手がボールをカットしてゴールに向かう。

ディフェンスに止められると、凪沙が後ろに回ってパスを受ける。

そのまま、ゴール下まで走ってドリブルをつきながら立ち止まった。

目の前のディフェンスから距離を取るように一歩後ろに下がってシュートを打った。

ガシャンッとリングに当たったけどネットをするりと通って得点が入った。


それでも、第4クォーターで10点差に縮まっていた。


だけど、第4クォーターが始まると、これまで30分も試合をしていたのかと思うくらい凪沙は軽々と飛んで走ってシュートを決めている。


最終的には22点の差をつけてうちの高校が勝った。


応援席の前で礼をした後、表彰式があった。

表彰式を終えて、凪沙たちが応援席にやって来た。


「白斗!咲良!お父さん!」

「「おめでとう、凪沙」」

「ありがとう!」


凪沙は亮太さんに今日の試合の良かったところと改善するべきところを訊かれて、答えていた。

改善すべきところは分からないと凪沙が答えると、亮太さんは周りを見るのは大切だけど自分でシュートを打てる場面でパスを回すところだと言った。

凪沙は鞄からバスケノートを取り出して、改善点と今日の試合の点差と自分の得点数と感想を書いていた。


凪沙はめんどくさがらずにこういう振り返りをして、それで練習メニューも亮太さんに聞きながらだけどほとんど自分で考えて実行しているから他の人たちに比べて頭一つ抜けているんだろうな。

これだけ何かにのめり込むのも一種の才能だと思う。


「あれ?咲良、身長伸びた?」

「ヒール履いてるから。今は凪沙よりちょっと目線高いね」

「ホントは私より2センチ低いくせに」

「2センチなんて誤差だよ。ね、お兄ちゃん」

「2センチは大差だよ。だよね?白斗」


凪沙も咲良も俺を睨んだ。


「どっちでもいいだろ」

「「良くない!」」


まあ、俺からしたら168も166も大して変わんねえけど、凪沙は身長のことになるとすぐにムキになるからな。

とりあえず、沈黙を貫こう。


凪沙たちは特に打ち上げもないようで、それぞれ帰って行った。

俺達も亮太さんに運転してもらって、家まで帰った。

明日は普通に学校があるから、来週の土曜日に凪沙のお祝いパーティーという名のバーベキューをすることになった。



あっという間にバーベキューの日が来た。

うちの庭にバーベキューコンロなどを広げて、リビングのドアを開けて冷蔵庫に食材の取りに行けるようにしている。


「お肉〜、お肉〜」

「焼けたぞ」

「やった!」


凪沙は紙皿を俺の手に渡した。

焼けた肉と野菜を入れて渡すと、隣にスッと紙皿が差し出された。

凪沙の弟、秋人(あきと)だ。

楓真と同い年で中学2年生の秋人は、凪沙と同じくバスケをしていてバスケ部に所属しながらクラブチームにも通っている。

凪沙同様バスケバカだ。


「はく、玉ねぎとカボチャ入れて」

「ああ」


凪沙と違うところは肉より野菜が好きなところだ。


「はっくん、はっくん。私、ウインナー食べたい。取って」

「いいよ」


凪沙の6歳年下の妹、杏奈(あんな)が俺のTシャツを引っ張る。

杏奈は五十嵐家で唯一、バスケをしていない。

体を動かすことは好きな様だけど、遊びでしたいらしい。


「はい」

「ありがとう」


杏奈に紙皿を渡した。


「白斗、そろそろ代わるよ」

「ありがとう、千花さん」


俺も肉と野菜を紙皿に入れて縁側に座った。

うっま。

さすがは近江牛。

美味いわ。


父さんと亮太さんは一緒に焼きそばを作っていて、母さんと千花さんが今肉を焼いてくれている。



凪沙は食べ終わって満足したのか、ふわぁ〜とあくびをして俺の肩に寄りかかった。

秒で値落ちした。

一瞬、心臓が跳ねた。

小さく息を吐いて、凪沙の顔を見下ろした。

結構美人系だけど寝顔は子供みたいだな。

まあ、性格はいつも子供っぽいけど。


他の男にもこうやってもたれかかって寝たりすんなよ。 


「お疲れ、おめでとう、凪沙」

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