夏
高校最後の夏がやって来た。
凪沙はインターハイに出場して優勝して帰ってきた。
お陰でスカウトがたくさん来て、取材も多いみたいで嬉しそうだけど少し大変そう。
私は声優の養成学校と一般の公立大学でずっと迷っていたけど、声優の養成学校に進むことにした。
将来、声優になれるかも分からないのにママとパパに高い学費を払ってもらうくらいなら安定した職業に就けるように公立大学に進んだほうがいいんじゃないかってアキくんに相談したら思ってたのとちょっと違う方向の答えが帰ってきた。
「大学行ったからっていい場所に就職できるとは限らない。それなら、声優の養成学校行って、無理なら俺のお嫁さんになったら?俺、咲良が家事全然出来ないのも片付け苦手なのも知ってるから幻滅とかないし」
「ちょっと、アキくん?最近は料理出来るようになってきたんですけど?」
「え、意外。まあ、咲良にはちゃんと逃げ道あるんだし夢追いかけなよ」
やだ。何このイケメン。って、私の彼氏か。
しかも、高校生のくせにさりげなくプロポーズしてきた。
本当に去年まで中学生だったのか信じられないくらいなんだけど。
本当は人生2周目なんじゃない?
「ありがと、秋人」
「うん」
私が笑顔で手を広げると、少しためらい気味に私を抱きしめてくれた。
甘えるのが得意なのか苦手なのかよく分からない。
でも、そこが可愛いところでもあるんだよね。
アキの頬に手を当てて顔を見つめる。
ゆっくり目を細めて、唇を重ねた。
アキと付き合って、初めてのキス。
あれ、なんでだろ。
これまでもキスしたことはあるんだけどな。
アキくん相手だとなんでこんなに顔熱いんだろ。
私、もしかしてアキくんのことめっちゃ好き?
慌てて頬に手を当てると、少し熱くなってた。
俯きがちにアキくんの方を見ると、ゆっくり顔を近づけて、今度はアキくんの方からキスをした。
「アキくん、顔真っ赤だよ」
「咲良も顔真っ赤」
「お揃いじゃん」
「そうだね」
アキくんに抱きしめられると、心臓の音が聞こえてきた。
すごくドキドキいってるのになんだか心地よい。
運命の人、なんて思ったら引かれるかな?
でも、本当に心の底からそう思う。
ママ同士が親友でパパ同士も親友で子供たちは幼馴染。
こんなの、少女漫画みたいじゃん。
「大好きだよ、アキ」
「俺も、大好きだよ。咲良」
耳元でその声は死ぬ!
顔を両手で覆うと少し驚いたようにアキが私の顔を覗き込む。
アキから好きになった筈なのに、今は私の方がアキのこと好きって。
五十嵐秋人、恐るべし。
本当に大好きだよ。
さっきのプロポーズはちゃんと心の中にしまっておくから大人になったら今度は私からプロポーズさせてね。
20歳になった。
私は少女漫画が原作のアニメの声優としてデビューを果たした。
しかも、もう一つ嬉しいことがあった。
アキ、私と同じように声優の道に進むみたい。
私が声優の養成学校に入ってから、朗読劇とか全部見学に来てて興味が出たんだって。
将来、声優界のビッグカップルになったりして。
〜〜〜〜〜
高校最後の夏がやって来た。
私たちバスケ部はインターハイで優勝することができた。
そのお陰か、私は推薦がたくさん来るようになった。
でも、決めた。
私はプロからのスカウトを受けることにした。
だって、バスケ選手になりたかったのにプロから、しかも入りたかったチームからスカウト来ててそれを蹴って大学に行く意味って何?
ただ、白斗とは遠距離になる。
だからといって諦めるつもりはないけど、本当に今までみたいにすぐに会える距離じゃなくなる。
だから、本当は嫌だけど覚悟を決めた。
白斗のためだもん。
絶対に心配かけないように笑顔で言うんだ。
部活終わり、そのまますぐに白斗に家の横の体育館に来てもらった。
白斗は練習付き合えばいい?とボールを持ったけど、私はそのボールを持って床に置いた。
身長、172cmまでのびて止まっちゃった。
ちょうど白斗とは15センチ差。
バスケ選手としてはもっと身長高くても良かったんだけど、お母さんがあんまり高くないからまあ、こんなもんだよね。
「白斗」
「ん?」
「別れよ」
「………は?なんで?」
「だって春から遠距離だし、絶対私そういうの無理なタイプって白斗がオーストラリア行ってたときに分かったし。バスケに支障出るなら別れる」
「………絶対不安にさせない、とは言えない」
「でしょ」
なら、と続けようとすると、白斗は私の手を握って目を見つめた。
「でも、2年だけ待ってくれたら、俺、凪沙のとこ行くから。」
「へ、」
「大学卒業して、就職したら凪沙のいるとこ行くから」
「待つって。私、白斗と別れて誰かと付き合うわけじゃないよ」
「なら、2年間、俺のこと好きでいて。それと3月いっぱいまではちゃんと彼女でいて」
「………分かった」
白斗は私を抱きしめてため息を吐いた。
本当は別れたくないんだよ。
俺は凪沙以外と付き合うつもりないし、凪沙と結婚したいって本気で思ってるんだよって。
それはこっちもだけどさ、2年くらい余裕で好きでいるけどさ。
白斗、私以外の誰か好きになっても言ってくれなそうじゃん。
涙が溢れてきて、私は不安を全部口にしていた。
「大丈夫。不安にさせない。絶対に。凪沙が2年間俺のこと好きでいられなくても、また凪沙のこと好きにさせるから。俺が他の人のこと好きにならないし、好きになったかもって思わせないから。凪沙は気にせず夢叶えてな」
「カッコいいね、白斗は。ありがとう。白斗のこと、好きでいる。ずっと」
それから約2年。
私は20歳になった。もう、3月だ。
時々実家には帰るけど、白斗は別れたっていうのに一生私の写真とか動画撮ってるし、帰るギリギリまで抱きしめてるし。
本当に別れたのか疑いたくなるけど、不安には全くならない。
お陰でプレーに支障はない。
しかも、いつも私が寝る1時間前くらいから通話してきて寝るまで繋いでる。
不安、どころか、私のこと好きすぎるでしょってちょっと思う。
就活の時期も面接を言い訳に私の家に泊まりに来てご飯作ってくれてたし。
彼氏どころかお母さんじゃんって思った。
言ったら怒られたけど。
今日は公開練習だったから、客席にはファンの人たちが結構来ていた。
「凪沙、花束持ったイケメンファンが凪沙のこと探してる」
「花束持ったイケメン?って、」
先輩選手に連れられてその花束イケメンのところに行った。
関係者立入禁止のため外で待っていたのは白斗だった。
あれ、もう卒業式終わったの?今日が卒業式だったよね?
驚いて固まっていると、白斗は私に花束を渡した。
「凪さ、」
私は白の言葉なんて聞かずに、白斗に抱きつきに行った。
白斗はお花が潰れないように手を広げて私を受け止めてくれた。
「卒業式は?」
「終わってすぐに新幹線乗った」
「卒業式おめでとう」
「ありがとう」
「白斗」
「ん?」
私は白斗から離れて真っ直ぐと白斗の目を見た。
溢れそうになる涙を堪えた。
「私、2年間、好きでいたよ」
そう言って笑うと、白斗も泣きそうな顔で笑った。
「約束、守ってくれてありがとう。凪沙、俺ともう一度付き合ってください」
「はい」
数日後、熱愛スクープが出た。
まあ当然だよね。
ファンの人たちが見ててもおかしくないし。
でも、スポーツ選手が恋愛しちゃダメなんておかしいでしょ。
というわけで、私は堂々宣言した。
SNSのアカウントで白斗と私が向き合って白斗の背中側から撮った写真をアップしてコメントを付け加えた。
「写真に写っている彼は物心がついたときからの幼馴染で、お付き合いしている方です。今、私がプロの選手として活動できているのは家族や彼の支えが大きいです。どうか温かく見守ってください。」
その投稿はニュースに取り上げられて、熱愛報道が徐々に白斗ファンの増加に繋がった。
後ろ姿なのに。
それ以降、よくあるカップルアカウントのようなものを始めることになるのはまだ誰も知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございました




