幼馴染から恋人
凪沙とバスで家に帰った。
お兄ちゃんとアキは置いて私と凪沙の2人だけで。
アキと一緒に帰るとか今日は絶対無理だから。
家に入ってリビングに行くとママが帰ってきていて、お茶を持っていったらと準備してくれた。
「ありがと、ママ」
「いいよ。凪沙はちゃんと千花に連絡した?咲良に連れてこられたなら私から言っておくけど」
「お願い、咲久ちゃん」
「分かった。あんまり遅くならないようにね。咲良、時間を少しは気にしてね」
「は〜い」
私は部屋に行って、ママの準備してくれたお茶を一気に飲み干した。
凪沙は驚いた顔でこっちを見てる。
けど、本当に今はムカつきすぎて行動が全部荒くなる。
ふぅ、とため息を吐いて凪沙の顔を見た。
「凪沙って、その、お兄ちゃんとキスできる?」
そう訊くと、お茶を飲んでいた凪沙はむせてしまった。
訊くタイミング間違えたかも。
凪沙は落ち着いてから少し赤くなった顔で頷いた。
「付き合って、もう1年半は経ってるし」
「キス以上も?」
「まあ………。てか、なんで急に」
「私、京ちゃんともその前の彼氏とも自分からキスしたことないんだ。そもそもしたいって思わなかったし」
凪沙は何も言わずに頷いて話を聞いてくれた。
「ちゃんと好きだったんだよ。でも、思わなかったの。なのに、アキにはキスしたいって思っちゃうっていうか。しようとしたの。」
凪沙は気まずい話だと思うのにしっかり聞いてくれる。
だから、私も凪沙に相談しちゃう。
「アキ、嫌だったのかちょっと後ろに下がったの。別に人前じゃなかったから、本当に嫌だったんだと思う」
「………」
「どうしよう。アキに嫌われちゃったかな。キモいって引かれてたらどうしよ」
私は思わず泣いてそのまま凪沙に抱きついた。
凪沙は何も言わずに私の背中を軽く叩いた。
アキに会いたくない。
会うのが怖い。
アキに嫌な思いさせてたらどうしよう。って色んな気持ちがごちゃ混ぜになっててしんどい。
ホント、いつもは向こうからキスされて嫌じゃないからいっかとか思ってたのに。
なんで、アキには自分からキスしたいって思っちゃったんだろ。
そもそもそんなこと思わなかったらこんなことにならなかったのに。
「私、明日学校休む。アキの顔見れない」
「受験生が何言ってんの?」
「休む」
「起こしに来るからね」
凪沙はそう言って帰ってしまった。
休むって言ってるのに。
翌朝、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
本当に起こしに来たんだと思いながら布団に潜った。
でも、また扉がノックされた。
「休むから!」
「入るよ」
「それはいいけど」
ってあれ?声低かった。
お兄ちゃん?楓真?
いや、待って。
その声。
「アキ!?」
驚いて起き上がると、アキも驚いたような顔をしてすぐに顔が真っ赤になった。
なんだろうと思って、顔色を伺っていると私に背を向けた。
「咲良、ちゃんとパジャマ着なよ。風邪引くよ」
アキに言われて全身鏡を見た。
いや、部屋着着てるんだけど。
もしかして、キャミソールのブラトップを下着と間違えてる!?
「アキくん、これ、部屋着なんだけど」
「ほぼ下着じゃん。絶対それで外出ないでね」
「出ないよ」
「制服着替えないの?」
「休む」
「ダメ。咲良、元気じゃん」
「誰かさんのせいで心が元気じゃない」
薄めのカーディガンを羽織ってソファに座った。
てか、なんで凪沙じゃなくてアキくんが起こしに来てんの?
意味分かんないんだけど。
アキから顔を背けてスマホで凪沙にスタ連した。
てか待って。まだ6時なってないじゃん。
凪沙、絶対にランニング中じゃん。
「咲良」
「なに?」
「昨日のことだけどさ、俺、嫌だったわけじゃないよ」
「………じゃあ、嫌いになってない?」
「咲良のこと嫌いになんてならない」
「じゃあ、なんで?」
「昨日、弁当だけじゃ足りなかったから食堂で唐揚げ食べてニンニク臭かったらどうしようって。ごめん」
アキは気まずそうに目を伏せた。
なんだ。そんなことだったんだ。
てか、食べたのお昼なのに帰るときにも気にするって可愛いんだけど。
少し可笑しくて笑ってしまった。
「好きだよ、アキのそういうとこ」
「褒めてる?」
「もちろん。アキは可愛いね」
「可愛いって言われるのは複雑なんだけど」
「可愛いってイコール好きって意味だよ」
「なら、まあ、いっか」
アキは仕方なさそうに笑うと、私の肩に頭を乗せた。
「咲良の方が可愛いけどね」
「っ、それは、どうも」
「咲良、可愛いって言われ慣れてるくせにすぐ照れるよね」
「アキくんの声で言われると無理」
正直、アキくんって声優になれそうなくらいイケボだし。
普通にめっちゃイケメンだし、なんか甘えられるとほんと弱い。
いつも甘えてた側だからかな?
とりあえず、これまで元彼3人いたけど、アキくんタイプってか年下がいなかったから慣れてないんだよね。
ホントにアキくんは沼でしかないよ。
制服に着替えている間にアキくんは楓真を起こしに行って楓真が着替え終わってから一緒にリビングに行った。
話を終えたからとアキは帰っていった。
パパとママには付き合ってすぐにちゃんと話したんだけど楓真には言ってないからなんで来てたのか不思議そうにしてる。
鈍感にも程があるな。
朝食を食べてゆっくりしていると、今日休みのパパとママが私とお兄ちゃんを呼んだ。
なんで楓真を呼ばなかったんだろうと思っていると2人とも真剣な顔でこっちを見ていた。
「楓真にはタイミングがあったからもう話してるけど、2人とも自分で責任が持てるようになるまで子供は作らないようにね」
「2人がちゃんとしてるのは分かってるけど、もしもを考えるようにしてね」
「うん」
「分かった」
家では結構ちゃんと性の話をされる。
キスは好きな人以外としちゃダメだよとか、知らない人に体を触らせたらダメだよとか。
小さい頃からよく話されてた。
嫌だなって気持ちなしでちゃんと性についての話を聞けるのは小さい頃からのパパとママの努力だろうなって思ったりもする。
家を出る時間になると、凪沙とアキが一緒に迎えに来る。
お兄ちゃんは今日はもう少し遅い時間だからとまだ行かないらしい。
パパとママとお兄ちゃんに手を振って家を出た。
「ちゃんと来たんだね、咲良」
「アキくんの可愛さに免じて」
「秋人のどこが可愛いんだよ」
「楓真はアキくんの良さをわかってないね。それでも親友?」
「秋人は俺の弟みたいなものだからさ」
「誕生日ほぼ一緒だろうが」
「俺の方が1日早い!」
「生まれた時間は2時間しか変わらないだろ!」
「2時間は長い!」
いつもの喧嘩だ。
別にどっちが兄とか弟とか関係ないのに。
あ、けど。
「私とアキくんが結婚したら、アキくんがお兄ちゃんだね」
「いや、姉ちゃんと秋人が結婚って。何言ってんだよ」
楓真の言葉に驚いたアキと凪沙は振り返った。
はい。うちの弟は驚くくらいの鈍感です。
ため息を吐いてアキの手を握って自分の方に引き寄せた。
朝ごはん食べてちゃんと歯磨きしたから大丈夫な筈。
アキの頬にキスをするとアキも凪沙も楓真も驚いたような顔をした。
「こういうこと」
「つまり、」
やっと分かったみたい。
「姉ちゃんが秋人のこと好きってことか」
「そうだけど!そうじゃない!」
「てか楓真、俺が咲良のこと好きって知ってるだろ」
「あ、そうか。じゃあ、両思い?」
「付き合ってんの!」
「なるほど。って、え!いつから!?」
「アキくんの卒業式前」
隠す気だったけど、まさかここまで気付かないとなるといいたくなっちゃった。
負けた。
楓真が思っていた以上に鈍感すぎた。
自分の弟の鈍感さに呆れているとアキは私の手を握って顔を見下ろした。
あ、まだ照れてる。
もしかして、てか、私のことずっと好きでいてくれたらしいから頬であってもキスは初めてだったのかな?
ここまで照れられると、こっちもちょっと恥ずかしくなってくるんだけど。
「楓真〜、先行こ」
「え、なんで?」
「こんな甘々な空気纏ってる2人と一緒に行けないでしょ」
楓真は凪沙に連れられて先に行った。
私はどうしたらいいか分からずアキくんの手を握り返して顔を見つめた。
「急にごめんね」
「嫌だったわけじゃないよ。俺、慣れてなくて。ごめん、ダサくて」
「ダサくないよ。慣れてないとか全然気にしないよ。むしろ、私が初めての彼女なんだってめっちゃ嬉しいし」
アキはそっか、と呟くと嬉しそうに口の端を持ち上げた。
やっぱり可愛い。
「そろそろ学校行きますか」
「うん。行こ」
「大好きだよ、アキくん」
「………俺も咲良が好きだよ」
「ありがと!」
アキの腕に抱きついて駅に向かった。
少しムスッとした楓真がホームで待っていた。
いつからシスコンになってたんだろうと思っていたら、俺の親友なのにと拗ねていた。
そっちか。
学校に着いて教室に行くと、同じクラスの友達の叶海が扉の前に走ってきた。
「咲良ちゃん!咲良ちゃん!」
「なに?うるさいよ」
「おはよう!」
「おはよう」
「今日、五十嵐くんと手繋いで登校してたよね!?」
「うん」
楓真にバレないように学校でも隠してたからなぁ。
別に付き合ってることバラしてもいいかな。
にへっと笑って実は〜と話を切り出した。
「秋人と私、付き合ってるんだよね」
「えっ!五十嵐くんと付き合ってる!?」
復唱せんでいい!と心の中でツッコミを入れたところでクラス全体に知れ渡った。
わーい、人気者だ〜!じゃないよ!
秋人、モテてるからそこまで広めるつもりなかったんだけどな。
噂が広まるのはあっという間だ。
忘れ去られるのもあっという間………というわけにはいかなかった。
あれから2週間、7月に入った。
まだ、私と秋人が付き合ったという噂は健在だ。
しかも、嫌なことに京ちゃんと時期が被ってたなんていう噂まで流れてる。
お約束通り、昼休みに2年生の女子に呼び出された。
中庭に行くと、開口1番に出た言葉は最低だった。
結構心に来るなと思いながらも笑顔を浮かべた。
ごめんねって。
「でも私、堀本先輩と別れたのは9月で、アキくんと付き合い始めたのは3月の中頃だよ?全然被ってないんだけど」
「3月って、五十嵐くんまだ中学生だったんじゃ」
「そうだけど。2歳しか変わらないんだし関係なくない?」
「いや、中学生に手を出すって」
「やだな。その言い方。ちゃんとアキくんの両親に許可取ったんだけどな」
中学生高校生の肩書きを気にしすぎでしょ。
別に関係なくない?
親が許しててお互いが気にしてないならさ。
別に迷惑かけてないんだし。
「顔がいいからって調子乗ってんじゃねえよ!」
「一応私、先輩なんだけど」
「関係ない!五十嵐くんも二股するようなやつって知ってたら絶対別れるのに」
「だから二股してないって」
「てか、五十嵐くんとあんたじゃ釣り合わないし」
うん。そうだね。それは反論できないよ。
私がアキと釣り合わないなんて自分で一番わかってるよ。
私みたいに面倒くさくてワガママなタイプとアキみたいに面倒見がいいタイプは相性が良くても明らかアキの方が我慢してるように見えて釣り合ってるとは言いきれない。
黙り込んでいると女子生徒たちは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
気付かないうちに人だかりができていた。
アキ、いるかな?
校舎の方を見上げると、ちょうど楓真と白斗が窓側にやって来た。
人だかりに気が付いた楓真が窓を開けた。
「姉ちゃんじゃん!何やってんの?」
「分かんない!楓真!アキ!来て!」
私が大声で呼ぶと2人は走って廊下からいなくなった。
女子生徒たちは慌て出した。
「ちょっと、なんで呼ぶのよ!」
「私に言われても困るから。アキに言ってくれないかなって」
そんなこと言ってるうちに楓真とアキが走ってきた。
「咲良!」
「アキ、汗だくじゃん。大丈夫?」
「3階から駆け下りたから」
「ごめん。別にそんなに急がなくても良かったんだけど」
アキは何もなくて良かったと笑って私の顔を見た。
ちょっと息切れしてたけどもう大丈夫って、さすが元バスケ部。
やめてからもバスケをしてはいるみたいだから体力は落ちてないのかな。
走ってきてくれてありがとう、とアキの頭を撫でると女子生徒たちが少し怒ったような顔をしてこっちを見ていた。
「人前でいちゃついてんじゃねえよ」
「あ〜、ごめんごめん。てかアキ、顔赤いよ。走りすぎた?」
「違うよ。咲良のせいだよ」
アキは私の手を握って私の肩に頭をを乗せた。
「秋人、ちょっと後にしよ。もうすぐ昼休み終わるし」
「咲良も照れるんだね」
「て、照れてないけど」
「ふ〜ん」
アキは笑って顔をあげると、私の髪先に触れて笑った。
この笑顔はズルい。
その日以来、私とアキはラブラブだという噂が流れて文句を言いに来る生徒は居なくなった。
むしろ、私とアキをカップルで推すオタク生徒が続出したという。
本当かな?




