ライバル登場!?
6月になり、梅雨に入るとジメジメと嫌な空気が広まり始めた。
白斗とは、付き合って1年8ヶ月が経った。
相変わらず一緒にいて楽なのは楽なんだけど、急にドキッとすることをしてくるからそれは慣れない。
でも、やっぱり幼馴染ということもあって少し照れがあって素直に甘えられないことが多い。
白斗なんか甘えてきたことがない。
まあ、別に、いいんだけどさ。
インターハイ予選が始まって居残り練習禁止令が敷かれてしまったため、いつもより早めに帰る。
最寄り駅まで行って電車を降りて改札を出ると、白斗がこっちに向かって手を振っていた。
駆け寄ると、白斗は缶のコーンポタージュをくれた。
「おかえり」
「ただいま」
「今日バイト昼からだったから早く終わった」
「そうだったんだ」
駅のベンチでコンポタを飲んでから、駅を出るとちょうど雨が振り始めた。
傘がなかったから、白斗が持ってきてくれた大きめの傘に入れてもらった。
「凪沙、濡れてないか?」
「大丈夫。それよりさ、明日学校午前で終わりだし部活オフだから栞里と出掛けるんだ」
「言ってたな。どこ行くんだ?」
「お昼食べてどっか遊びに行く」
「まだ決まってないのかよ」
「うん」
笑って頷いた。
私と栞里が遊びに行く約束するのって、基本的に前日か当日だから行きあたりばったりなんだよね。
まあ、それはそれで楽しいんだけどね。
翌日、授業を終えてすぐに栞里のクラスに行った。
栞里のクラスはホームルームが長引いたらしく、ちょうど号令をかけていたところだった。
礼をすると、一斉に生徒が出てきて栞里は後ろの方でこっちに手を振っていた。
「お昼ごはんどうする?どこで食べる?」
「モールのフードコートで各自好きなの食べない?」
「そうだね。そうしよ」
定期内の駅から徒歩5分ほどの場所にあるショッピングモールに行くことにした。
ショッピングモールに行くと、同じ制服を着た生徒たちがチラホラといた。
みんな、考えることは同じなんだな。
フードコートに行って、私はカレー、栞里はハンバーガーを食べてからモール内の映画館に行った。
若手俳優主演の映画を観ることにした。
チケットを買ってシアターに入ると、前に座っていた女子大生らしい人たちの話し声が聞こえてきた。
「そういえば、バイトの仁科くんとは最近どうなの?」
ん?
「白斗くん、年下の彼女いるんだって」
あれ?
「じゃあ、諦めたの?」
「まさか。彼女いようが、彼女より私のことを好きにさせればいいだけなんだから。そう簡単に諦められる相手じゃないでしょ」
「恵那はそういうタイプだよね」
「うん。明日、バイト被ってるから告れたら告る」
「行動はやっ!」
笑い声が聞こえて栞里と顔を見合わせた。
私の聞き間違いでなければ、仁科と白斗って単語が聞こえた気がするんだけど。
栞里は声を潜めて私の耳元で話し掛けた。
「前の人たち、仁科先輩の知り合い?」
「分かんない。碧先輩以外でバイトの人の話あんまり訊かないから」
「私、後で碧くんに訊こうか?」
「お願い」
映画は面白かった。
けど、前の人たちの会話がずっと気になってあんまり集中して観ることが出来なかった。
映画を観終えて、シアターを出ると前にいた大学生らしい人たちはパンフレットを買っていた。
「碧くんからバイト先の人たちの写真送ってもらったよ」
「え、見せて」
碧先輩は白斗と同じカラオケでバイトをしているため、親睦会のときの写真を栞里に送ってもらったのを見せてもらった。
前にいた人たちの話してた仁科白斗は私の彼氏の仁科白斗で間違いなさそうだ。
彼女(私)より自分のこと好きにさせるって。
自信満々だったな。
私はそんなこと言えないけど、あれだけ可愛くて明るい人ならできそうだな。
感心していると、白斗を好きだと言っていた人がお釣りを受け取って財布に入れるタイミングで小銭を落とした。
私の目の前まで転がってきた。
拾って顔を上げると、お姉さんが目の前まで来ていた。
さっきも小柄だなって思ってたけど、近くで見ると思っていた以上だった。
154か5センチと言っていた栞里よりも少し低い。
「ありがとうございます」
「どう、いたしまして」
小銭をお姉さんに渡すと、私の方に一歩近付いて私の顔を見上げた。
「背高いね。何cm?」
「ちょっと、何聞いてんの?」
お姉さんの友達が慌ててすみませんと謝った。
「170です」
「私より20cmも高いよ。何かスポーツしてるの?」
「バスケ部です」
「ちょっと、美矢。なんで急にそんなこと訊いてるの?高校生困らせたら可哀想でしょ」
「白斗くん、あ、私の好きな人ね?その人の彼女も背が高くてバスケやってるって言ってたから。急に身長訊いたりしてごめんね」
「へぁ、はい」
驚いて声が裏返ってしまった。
こっちはヒヤヒヤして心臓バクバクなのに、栞里は他人事だからか楽しそうに笑っている。
最低ー。
咲良がいたら、いや、咲良も栞里と一緒になって笑ってるだろうな。
お姉さんたちはごめんねと笑って帰っていった。
バレなかった。
安心、していいのかな?
お姉さんに勝ち目ないって思っちゃったせいで、隠さなきゃって思っちゃった。
白斗に自己肯定感低いとか言っておきながら私も相当なんだよね。
気分転換のためにも体を動かしたい。
あぁ、バスケがしたい。
栞里は塾の時間だから別れてそのまま家に帰った。
私も受験勉強しなきゃなんだよね。
家の隣にあるハーフコートサイズの体育館でしばらくシュート練習をして、自分の部屋に戻った。
参考書を開いて受験勉強をすることにした。
でも、数学の問題でどうしても分からない問題があったからそこは飛ばした。
明日は土曜日だし、白斗もバイトないって言ってたし私も部活午前で終わりだから教えてもらおうかな。
次の日、部活が終わって駅まで帰ってくると白斗が迎えに来てくれていた。
「凪沙、おかえり。お疲れ」
「ただいま」
今日も曇ってるなぁ。
家に帰ってお昼ごはんを食べてすぐに白斗の家に行った。
咲良は私の弟である秋人と出掛けてて、楓真は部活で真白くんと咲久ちゃんはお仕事で家には白斗1人しかいない。
「最近、咲良と秋人仲良いよね」
「多分だけど、あの2人付き合ってるぞ」
「え、うそ。咲良から何も訊いてない」
「俺も訊いたわけじゃねえよ。咲良たち、バレるまで言うつもりないんだろうし」
「そういうもん?」
まあ、言われてみれば距離が近くなった気がしなくもないけど。
隠してるんだとしたら、咲良、絶対楽しんでる。
いつバレるんだろうねとか話してそう。
なんかムカつくから気付いてないフリしとこ。
「それで?分からないとこってどこだ?」
「あ、この問題」
「それは、」
白斗の解説を聞いて問題を解いていく。
他にも分からなかったところを教えてもらっていると、白斗は眠そうに欠伸をして目を擦った。
昨日、11時までバイトだったって言ってたのにわざわざ時間空けてくれたんだよね。
「しばらくは自力で頑張るからちょっと寝てなよ」
「そうさせてもらうわ。分からないとこ出てきたら起こして」
「うん」
白斗はベッドに横になって数分も経たないうちに寝てしまった。
疲れてたんだな。
白斗を横目にもくもくと勉強を続けて、今日終わらせようと思っていたページを終わらせた。
白斗を起こそうとベッドの横に行くとすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
めっちゃ寝てる。
前髪伸びたなぁ。
目にかかりそうになってる。
ゆっくりと手を伸ばして白斗の顔にかかっている髪をよけると白斗が眠そうな声を寝返りを打った。
起きたのかと思って驚いて白斗の方を見ると、変わらず寝ていた。
まつ毛長いな。
肌綺麗だな〜。
眉毛の形整ってるな。
そう思いながら無意識のうちに顔を近付けていた。
キス、したいな。
「キスしてもいいですか?」
本当に小さな声でそう訊いた。
寝ているから、当然返事は返ってこない。
でも、起きてるときに私からキスしたことないし練習っていうか。
自分に言い訳をしつつ、唇を重ねた。
目を開けて白斗からそっと離れようとすると、白斗は目を覚まして私の首に手を回した。
「勉強は?」
「………終わった」
「じゃあ、続きしよ」
白斗、いつから起きてたんだろ。
夕方になると、咲良や楓真が帰ってきた。
私もそろそろ帰ろうと参考書たちをまとめていると、白斗に後ろから抱きしめられた。
「今は変なやつに狙われたりしてないか?」
「してないよ」
「本当か?困ってるならいつでも言えよ」
「困ってないって」
「凪沙は鈍感だから気付いてないだけだろ」
いや、ホント、白斗のこういうところ面倒くさい。
自分で訊いておいて信じないし。
なんか、ムカついてきた。
「狙われてるのはそっちでしょ!」
「は、なんで?」
「映画館にいたもん。白斗と同じバイトしてる人で、白斗のこと好きって言ってる人。同姓同名なだけかと思ったけど碧先輩から栞里に送ってもらったバイトの親睦会の写真にその人も写ってたから絶対そうだし」
そう言うと白斗は口を閉ざした。
心当たりがあるのか、逆に全くないのか。
分からない。
ただ、驚いた顔をしている。
「そもそも、私のこと好きとかいう物好きな人そうそういないから心配しなくていい!」
白斗はまだ驚いたように固まっている。
私はもう言いたいことを吐いたからいいやと思って参考書たちを持って白斗の部屋を出た。
そのまま走って帰りたかったけど、白斗の部屋を出てすぐに咲良に拘束されてそのまま部屋に連行された。
「何怒ってんの?」
「私、咲良にも怒ってるから」
「へ、なんで?」
「咲良、秋人と付き合い始めたの隠してたでしょ?」
「あれ〜?凪沙には一生バレないと思ってたのに。よくわかったね」
「………白斗から聞いたけど。てか、隠すの面白がってたでしょ」
「途中からは飽きてたよ〜」
やっぱり最初は面白がってたんだ。
まあ、別に咲良はいいけど。
秋人は許さない。
私の親友と黙って付き合い始めるとかない。有り得ない。
後で誓い立ててもらわないと。
咲良は無理矢理話を変えてさっきの話の内容を訊いてきた。
「私が狙われてないかとか絡まれてないかとか訊いてくるくせに、大丈夫って言っても信じてくれないから。じゃあなんで訊くの!?って感じ」
「なるほど。お兄ちゃんの悪い癖だ」
「しかもさ、白斗の方がお姉さんに狙われてるのにさ」
「あ〜、昨日言ってた人ね」
咲良はポンッと手を叩いた。
私はため息をついて咲良の部屋のソファの背もたれに体重をかけて上を向いた。
「白斗のこと好きだけど、時々面倒くさい」
「今さら何言ってんの。ちゃんとお兄ちゃんのこともらってよ」
「それは喜んでだけど」
面倒くさいって言いながら、それがちょっと可愛いって思うこともなくはないんだよね。
自分でも矛盾してるなって思うけど。
「本当に可愛い人なんだ。あのお姉さん。身長150しかないって言ってたのに大人っぽくて可愛かった。白斗とお似合いだなって思っちゃった」
咲良はえ〜、と不満そうに言っていた。
それから数日、気まずくてあんまり白斗と話していない。
それでも白斗は駅まで迎えに来てくれる。
別に来なくていいって言ってるのに。
部活帰り、今度は私が白斗のバイト先に迎えに行くことにした。
白斗のバイト先は途中の駅の近くのカラオケだ。
電車を降りて、改札を通ると白斗を見つけた。
声を掛けようとすると、この前のお姉さんが一緒にいた。
「白斗くん、やっぱり好き」
「彼女がいるって言っただろ」
「もし彼女と別れたら付き合ってくれる?」
「別れねえよ」
「そんなの言いきれないよ」
「言いきれる」
白斗がそう言うと、お姉さんはムッと頬を膨らませた。
「じゃあ、彼女の方から別れを切り出してきたら?」
「もう1回好きになってもらって付き合う。俺は本気で凪沙以外と付き合うつもりはない」
お似合いとか、関係なかったんだな。
白斗はただ私を好きでいてくれて、だから側にいてくれるだけ。
気にするだけ無駄だった。
てか私、勝手に拗ねてて恥ずかしいな。
白斗、子供っぽいって呆れてるよね。
チラッと白斗たちの方から視線を逸らすと、お姉さんがあっ!と声を挙げてこちらを見た。
「映画館の子!」
「凪沙!?」
白斗とお姉さんの声は重なって、白斗もお姉さんも驚いたように私とお互いの顔を見比べた。
いや、お姉さんが驚いてるのは分かるけど白斗には言ったじゃん。
そう思いながら白斗たちの方に行った。
「映画館ぶり、ですね」
「え、白斗くんの知り合い?てか、もしかして白斗くんの彼女?」
「ああ」
白斗は私の肩を抱き寄せた。
お姉さんと目が合って少し気まずいと思っていると、白斗が私の顔を覗き込むようにして近付けた。
そして、私の額にキスをした。
ホント、この人は。人の目を気にしなさすぎる。
しかも、口にもキスしようとしてる。
さすがにそれは止めたけど。
「白斗くんが彼女さんラブなのは分かったから。もう諦めるよ」
「ああ」
「彼女さんも不安にさせちゃってたらごめんね」
「いえ」
今は不安よりも恥ずかしさが勝ってるから。
お姉さんと別れて改札を通ってホームに行った。
白斗は嬉しそうにニコニコ笑っている。
「凪沙、俺のこと迎えに来てくれたのか?」
「まあ、たまには。」
「俺、面倒くさくて呆れたよな。もうちょっと大人にならないと思うけど、凪沙のことになると大人ぶれないんだよな」
「別にいいよ。私も拗ねて全然話さなくなってごめん」
白斗はいいよ。と笑って私を抱きしめた。
いつもなら早く離してって言ってたと思うけど、今日は白斗がめちゃくちゃ嬉しそうにしてるからいいかな。
「白斗、私が白斗のこと振ったらまた好きにさせてさせて付き合うって言ってたでしょ?」
「そこも聞いてたのか」
「あんな大声で話されちゃね。でも、私、白斗のこともう1回どころかもう何回も好きになってるよ」
照れて笑いながら白斗の顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。
白斗は目が合うと慌てて顔を両手で覆った。
なんかめっちゃ照れてる。
ちょっと可愛いかも。
笑っていると、ちょうど電車が来た。
白斗は気付いていないのかまだ顔を手で覆っていた。
あ~!電車逃した〜!
「白斗!聞こえてる!?」
「聞こえてるけど」
「電車逃しちゃったよ」
「マジか」
聞こえてなかったじゃん。
まあ、5分後に快速来るからいいけど。
電車で帰って駅まで行くと、改札を出たところで咲良に会った。
咲良は私を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「仲直りしたんだね。良かった」
「うん。それで、」
「いいから話聞いて!うち来て!」
「わ、分かった」
咲良に手を引かれてバス停まで行ってバスで帰った。
しかも、白斗と咲良と一緒にいた秋人は置いてきぼりで。
咲良、秋人となんかあったのかな?




