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時間が半年ほど飛びます


 3月5日。


去年は色々あった。

凪沙と付き合って初めてのクリスマス。

デートをして、ファーストキス………なんてことはなく凪沙たちバスケ部はウインターカップに出場し、3位になった。

俺は直接応援にいきたかったけど、共通テストの勉強で家から中継を見て応援していた。


そして受験が終わり、今日は卒業式だ。

しかも、卒業式が終わるくらいの時間に俺は合格発表がある。

そのため、割りと緊張している。


3月になり、少しずつ暖かくなってきたが、まだ暑いと言うほどではないちょうどいい気候。

いかにも卒業式日和。だと言うのに、俺と凪沙は朝から大遅刻だ。


別に寝坊したわけじゃなくて、いつもの朝ランニングをしたら、少し暑くなったから川に入って涼んでた。

そしたら、リードを引きずって犬が走ってきて川に飛び込んだ。

それで全身濡れて急いで帰ってシャワーを浴びたというわけだ。

仕方ないからと、高校まで千花さんに車で送ってもらった。


「千花、ホントにありがとう」

「どういたしまして。それに、凪沙から川に入ろうって言ったみたいだし」

「うっ、ごめん」

「白斗が止めれば良かった話なんだから、凪沙は気に病まなくていいよ」


父さんが笑って言うと、凪沙はそっか。とあっさり納得した。

俺は凪沙の保護者じゃねえよ。


千花さんに高校の前で降ろしてもらって、すぐに教室に向かった。

まだ、ホームルームは始まっていないけど全員揃っていて卒業アルバムに寄せ書きをしていた。


「あ、白斗!やっと来た!」

「もう、仁科くん遅いよ」

「卒業式なのに寝坊したのか?」


みんな口々に言うと、俺に卒アルを渡してきた。

それぞれ一言ずつ書いていくと、桜木も卒業アルバムを俺に手渡した。


「小学生のときは書いてって言えなかったから」

「そういえば、言われてないな」

「だって仁科くん、男子にも女子にも囲まれてるから話しかけづらかったし」


確かに囲まれてたな、と笑いながらメッセージを書いた。

それからすぐに花飾りをつけて、体育館に向かった。

体育館の横の渡り廊下から入場して、クラスごとに分かれて席に座っていく。


校歌斉唱や卒業証書授与が終わって、退場の前に卒業生が全員起立して先生の方を見た。


「3年間、ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」


そう言ってすぐに振り返って保護者席の方を見た。


「そして、保護者の皆様」

「本当にここまで育ててくださり、ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

「これからもたくさん迷惑をかけると思います」

「ですが、少しずつ大人に近づけるように頑張るので見守っていてください」


俺は周りを見渡して真っ直ぐと前を見た。

ちょうど、母さんと父さんと目が合って2人とも涙を溜めていた。


「一同、礼」


そう、声を掛けるとビシッと全員が礼をして保護者席や在校生の席から拍手が聞こえてきた。

1人の生徒の合図で舞台の方に体の向きを戻した。


体育館から教室に戻ると、担任も副担任も泣いていた。

あんなサプライズは聞いていない、と。

このサプライズは俺やバレー部のメンバーで考えてこっそりそれぞれのクラスで広めてもらった。

ぶっつけ本番でやったけど、ちゃんと感謝が伝わったなら良かった。


教室で、筒に入れてもらった卒業証書を受け取って最後に先生からの点呼があった。

そして、そのままグラウンドの花道に行くと在校生と保護者が待っていて母さんと父さんがスマホを構えていた。

花道はちょうどそこで終了していたため、俺はスマホを開いた。


合格発表発表の手前のページまでいって、深呼吸をしてから画面をタップした。


「………った。受かった!」

「おめでとう!白斗!」

「白斗の努力の成果だよ」


母さんは俺よりも嬉しそうに笑って、父さんは俺の頭に手を置いた。

少し子供扱いされてるような気がして恥ずかしかったけど、素直に褒められたのが嬉しくて手を振り払うことはせずに笑ってありがとうと言った。

すると、父さんはうっと心臓辺りを抑えた。


「相変わらず天使だ」

「天使はさすがにやめてくれ」


父さんは笑って俺の頭を撫でた。


「いつまでも、俺と咲久の宝物だからな。」

「どうも」


父さんから顔を背けると、凪沙がこっちにやって来た。

凪沙は結果見た?どうだった?と躊躇なく訊いてきた。

合格したことを伝えると、俺に飛びついてきた。


「第一志望のとこだよね!?」

「ああ」

「家から通えるとこ?」

「ああ」

「やった!白斗!おめでとう!」

「ありがとう」


凪沙は笑って俺から離れると、手を握った。


「バレー部の人たちが向こうで呼んでたよ」

「マジか。あ、父さん。鞄持ってて」

「いいよ」


凪沙に手を引かれてバレー部の後輩たちが集まっているところに向かった。

バレー部の後輩たちに寄せ書きをしたバレーボール型の色紙をもらって最後に全員で写真を撮って母さんたちのところに戻った。


「咲久ちゃんと真白くんと白斗で卒業式の看板のところで写真撮るなら私撮ろうか?」

「ありがとう、凪沙。じゃあ、頼んじゃおうかな」

「任せて」


第52回卒業証書授与式と書かれた看板の横に立つと母さんと父さんが両隣に並んだ。

凪沙は撮るよ〜!と言ってスマホのシャッターを押した。

凪沙が母さんにスマホを返すと、母さんは凪沙の背中を押して俺の隣に並ばせた。


「凪沙も白斗も笑って」


凪沙は驚いたように俺の顔を見た。

俺はニッと笑って凪沙の肩を抱き寄せた。

凪沙は唇を噛んで俺の顔を見上げた。

なんで泣いてるんだ?


「やっぱ卒業しないで」

「いや、そんなこと言われても。もう卒業したし」

「分かってるけど」


凪沙はここで写真撮ってるうちに、やっと俺が卒業するって実感が湧いたらしく寂しいから卒業するなと言ってくる。

普段甘えないから、甘えられると少し弱くなる。


「朝のランニングは続けるし、家もすぐそこなんだから変わらねえよ。電車も降りる駅は違うけど、方向は一緒なわけだし」

「ホント?」

「ああ」


頷くと凪沙は笑って俺の腕に抱きついた。

母さんはカシャッとシャッターボタンを押して笑ってスマホを見つめていた。


「結婚式のムービーに入れておかないとね」

「気が早えよ」



俺は凪沙と最後の制服デートをするために、卒業証書の入った筒を母さんに預けてそのまま遊園地に向かった。

チケットは予約して行ったけど、県内の公立高校の卒業式は全部同じ日にあるため学生が多かった。


チケットを購入して、入園してすぐの店でクマのクッキーくんのカチューシャをお揃いで買った。


そういえば、付き合ってからするデートの中では1番まともかも。

デートって言いながら朝にランニングしたり、帰りにちょっとコンビニ寄ったりだったからな。

まあ、凪沙は部活があって俺は受験勉強があったから仕方ないけど。


「まずはやっぱり?」

「やっぱり?」

「絶叫系でしょ!」


凪沙に手を引かれて絶叫マシンの列に並んだ。

俺も凪沙も絶叫系は好きだから、遊園地はマジで楽しい。


順番が来て、カチューシャを外して鞄と一緒に預けてジェットコースターに乗り込んだ。

アナウンスが入り、ジェットコースターがゆっくり進んでいく。

1番上に登ると、ほんの少し止まった。

前のバーから手を離すと、すぐにジェットコースターが落ちだした。



「白斗!早く次のとこ並ぼう!」

「そうだな」


別のジェットコースターにも乗って、昼はホットドッグとチキンとチュロスを食べた。

次何に乗るか凪沙に訊くと、凪沙はニヤッと笑って俺の手を引いて走り出した。

そして、着いたのはホラーハウスという看板が掲げられた建物だった。


「俺、これ入ったことねえわ」

「新しくできたみたいだからね。でも、白斗ってホラー映画とか大丈夫だしいけると思うよ」

「確かに。じゃあ、入るか」



今すぐ、数分前に戻りてえ!

ホラー映画はテレビから出て来ないから怖くても平気だけど、追い掛けて来るなら話が別だ!

てか、凪沙はこの空間でよくそんな笑ってられるな!


ゾンビから逃げて目の前にあった部屋に入ってドアを閉めた。


「白斗、ビビりすぎ!」

「逆になんで怖くねえんだよ」

「いや、白斗といるのに怖いとか思うわけないじゃん」

「凪沙、」


そんなニヤけた顔で言われても、説得力がねえよ。

まあ、ひとまず休憩できたし部屋を出て恐る恐る歩いていると、凪沙が俺の前に出た。


「怖かったら目閉じてていいよ」

「ありがとう」


後ろから凪沙を抱きしめるようにして、目を閉じた。

これはこれでヤバい気がするけど、こうでもしないと怖いものは怖い。

心臓の音、絶対聞こえてるだろうな。

とりあえず、変なことは考えないようにして凪沙に抱きついたまま歩いた。

途中、叫び声や走ってくる足音が聞こえたのは気のせいだろう。


「白斗、着いたよ」

「ありがとう。てか、凪沙も怖かったのに悪いな」

「え、怖くなかったけど」

「強がらなくていいって。ドキドキしてただろ?」

「それは、白斗が抱きついてたからだし」


凪沙はそう言うと、俺から目を逸らした。


「凪沙って俺にドキドキしたりするのか?」


つい、思っていたことが口からこぼれた。

凪沙は俺の頬を手で挟んで自分の顔に近付けた。

そして、そのまま頭突きをしてきた。

驚いて凪沙の額に手を当てると、凪沙は俺の手に自分の手を重ねた。


「もう、付き合って5ヶ月経つんだけど。私、好きって何回も言ったんだけど!」


凪沙は拗ねたようにムッと頬を膨らませた。

怒ってるのは本当らしいけど、可愛くてついニヤけそうになる。


「悪い。凪沙も俺みたいにドキドキしてるんだなって実感したのは始めてだったから」

「ふ〜ん」

「別に凪沙の気持ちを疑ってたわけじゃないから」

「それならいいけど」


凪沙は笑って俺の手を握った。

機嫌が治ったみたいでよかった。


気が済むまでアトラクションを乗って、最後に観覧車に乗ることにした。

列に並んで、順番が来るとゴンドラに乗り込んだ。

向かい合って座った。

それにしても、観覧車とか久しぶりだ。


「凪沙」

「なに?」

「遠距離恋愛、できる自信あるか?」

「え、なんで?大学受かったんじゃないの?」

「受かった。だから、訊いたんだ」

「どう、だろ。やってみないと分かんないけど、」


俺は凪沙の隣に座って凪沙の手を握った。

急に隣に来たことに驚いたのか、凪沙は目を見開いて俺を見ていた。


「まだ先の話だけど、夏休みにオーストラリアに住んでる父さんの弟夫婦のところにホームステイしようと思ってる」

「どれくらい?2週間とか?」

「予定だと1ヶ月半」


凪沙はふぅ、と小さく息を吐くと、俺の手を握った。

俯いたまま俺の手を握る力が強くなっていく。

やっぱり、留学は辞めようか。

海外ってどんな感じなのか知りたいって思ってたけど、別に今じゃなくてもいいし。

英語が話せないわけでもないし。


「やっぱ、今の話なし。忘れて」

「え、」

「もうすぐ着くな。降りようか」


ゴンドラを降りて、凪沙の手を引いて歩いていると凪沙が急に立ち止まった。

そして、俺の手を振りほどいて顔を上げた。


「1ヶ月半も会えなくなるのは嫌だけど、白斗が我慢する方が嫌だよ」

「そうだよな。凪沙はそう言うよな」

「分かってたならなんで聞くかな」

「可愛く引き止められるのもいいなって」


ニヤッと笑うと、凪沙はフンッと鼻を鳴らして先々歩いていった。

悪い悪いと、凪沙の後を追って行った。


お土産を買ってから遊園地を出て、駅に向かった。

駅から電車に乗って最寄りまで向かった。


最寄りまで母さんが迎えに来てくれていて車で家に帰った。

今日は食べに行くため、帰って少しフォーマルな服に着替えた。

食べに行くのは、母さんの弟と妹の運営しているレストランだ。

ちなみに、叔父の蒼空兄は俺が昔からずっとカッコいいと憧れてた人で口調も蒼空兄の真似をしているうちに移った。


叔母の莉久姉の息子は俺と同い年で同じく県立の高校に通っていたため、今日が卒業式だった。

そのため合同のお祝いだ。

レストランに着くと、同い年の従兄弟の叶斗(かなと)がこっちに走ってきた。

後ろには、叶斗の弟で咲良と同い年の伊澄と、小学6年生の妹である星奈(せな)もいた。


「白斗、さっきまで凪沙ちゃんとデートしてたんだろ?」

「なんで知ってんだよ」

「咲良に聞いた」


叶斗は凪沙と付き合ってから、一度会ったから知ってるけど伊澄たちは誰?と首を傾げていた。


ディナーを食べ終えて、伊澄と星奈から質問責めに合った。

2人は俺が凪沙と付き合い始めたどころか、彼女ができたことすら知らなかったためなんで叶斗には言ったのに自分には言わないんだと怒っていた。

俺としてはただ忘れてただけだけど、忘れてたって言ったら余計めんどくさくなりそうだから笑って流した。


もうすっかり春だ。

新生活が始まって、凪沙と一緒にいる時間も少し減るだろう。

けど、なんか大人に近付くって感じがして少し嬉しい。

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