文化祭
文化祭2日目がやって来た。
凪沙は今日は劇の最終確認やら準備やら色々あるらしく、亀井さんと先に学校に行くらしい。
制服に着替えて、リビングに行くと咲良も私服に着替えていた。
「おはよう」
「ああ。おはよう」
「まだ行かないの?」
「今日は遅い電車で行くから」
「そっか」
朝食を食べて、時間を潰していると父さんがヘアセットしようか?とワックスを持ってきた。
断ろうかと思ったけど、せっかくの文化祭だし頼むことにした。
父さんはドライヤーとワックスを使ってセンター分けにセットしてくれた。
てか、センターで分けんのは初かも。
鏡を見て確認してみると、結構好きな感じだった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
父さんは笑ってワックスを置いた。
と、思うと急に俺を抱きしめた。
驚いて固まっていると、母さんが父さんの肩を叩いた。
「こら、親バカ。息子を困らせないの」
「だって、白斗が可愛すぎて。照れた顔は咲久そっくりで本当に可愛い」
「パパ〜、私は〜?」
「咲良もめちゃくちゃ可愛いよ」
「ありがとう!」
「咲良はどっちかって言うと俺似だけどね」
父さんは笑って咲良の頭を撫でた。
すると、いつの間にか起きてきていた楓真が何やってんだ?と言いたげな顔でこっちを見ていた。
父さんは楓真も可愛い!なんて言って楓真に抱きつこうとして綺麗に避けられていた。
「可愛いのは分かるけど、寝起きで親バカ発動しないの」
「分かるんだ」
父さんは笑って母さんの頭を撫でた。
そういえば、今日って2人とも休みなんだっけ?
文化祭来んのかな?
どっちでもいいか。
時間になって鞄を持って家を出た。
駅まで1人で行くの、久しぶりだな。
駅に着いて、ホームに行くと碧と晴人が待っていた。
2人とも、部活引退してからこの時間の電車だったんだな。
「おはよう」
「おは、って白斗がセンター分けしてる!」
「いいじゃん。似合ってるよ」
「そりゃ、どうも」
3人で並んで電車を待った。
そういえば、凪沙が入学するまでは3人で登下校してたな。
碧も晴人も家近いし。
電車に乗って、学校に向かった。
教室に行くと既にほとんどの生徒が来ていた。
3年生は9時半まで教室待機のため、俺は9時に学校に着くように来たけど思ってたより早く来てみんなで黒板アートを描いている。
どうやら、クラスの女子が担任に何か思い出を作りたいから黒板アートをしたいと言ってOKが出たため、急遽することになったらしい。
まあ、アートとは言っても真ん中に大きく文化祭と書かれていてその周りをみんなのメッセージやイラストで埋めていってるだけだけど。
「仁科くんも書いて」
「どこに書いたらいい?」
「じゃあ、この空いてるスペースに書いて。身長高いから大丈夫だよね?」
「ああ」
みんな、受験頑張ろう!とか、最後の文化祭を楽しもう!とか書いてたから、"Youth is not a time of life; it is a state of mind." と書いて『青春とは年齢ではなく、心の若さである』と日本語訳を書いた。
中学の卒業式に英語教師をしていた担任が贈ってくれた言葉だ。
文化祭のテンションなら別に痛いとは思われないよな?
下に仁科白斗と名前を書いてチョークを置いた。
全員書き終わってから、1人が黒板の写真を撮ってクラスのグループに送ってくれた。
そんなことをしているうちに放送が鳴った。
『ただいまより、文化祭2日目を始めます。9時50分から1年5組による演劇、眠れる森の美女が上演されます。観覧する生徒は体育館に移動してください』
悠吾や俺の友達は見に行かないらしく、俺は体育館シューズに履き替えて体育館に移動した。
真ん中の少し後ろの席だけど、舞台が高いおかげでこれくらい離れている方が見やすい。
凪沙は見るなって言ってたけど、ここならバレないだろうし。
『9時50分になりましたので、只今より1年5組、男女逆転眠れる森の美女を開演いたします』
アナウンスが入ると、舞台の幕が空いてこの前凪沙と一緒にいた少し小柄な男子生徒がドレスを来てカツラを被って歩いてきた。
劇が進んでいってついにクライマックスになった。
王子役の凪沙が舞台に出てきて姫の方を見た。
『なんて美しい姫君だ』
凪沙がそう言うと、姫の前に行ってバサッとマントを払って膝をついた。
そして、ゆっくりと姫に顔を近づける。
その瞬間、体育館は悲鳴に近い歓声に包まれた。
姫のベッドの周りの花で見えないけど、あれ、演技だよな?
ガチでキスしてるわけじゃないよな?
凪沙が体を起こすと、姫も起きた。
『君に一目惚れした。美しい姫君、俺と結婚してくれ』
『はい』
凪沙と姫役の男子生徒が手を取り合うと周りの生徒たちは立ち上がって拍手をした。
すると、凪沙と姫役の男子生徒の周りに他の演者や制服を着た生徒たちが集まってきて礼をした。
さらに大きな拍手が巻き起こる中、俺は体育館を出て裏側に行って凪沙が出てくるのを待った。
他の生徒たちがざわざわと出てきた後、凪沙の声が聞こえてきた。
振り返ると、衣装を着た生徒たちが出てきていた。
凪沙は俺に気付くと、焦ったような表情を浮かべてこっちに走ってきた。
俺の手を引いて校舎の屋上の手前の階段まで来ると、そのまま俺の顔を見上げた。
怒って、るのか?
凪沙は少し目に涙を溜めているように見えた。
「凪沙、どうしたんだ?」
「………ったのに」
「え?」
「来ないでって言ったのに!」
「悪い。」
「白斗に、キスシーンとか見られたくなかった」
凪沙は涙を溜めたまま、俺の顔を睨みつけてる。
「一応訊いとくけどさ、キスシーンってフリだよな?」
「あたりまえじゃん!」
「良かった」
笑うと凪沙は俺の頬を引っ張った。
こんな怒るほどキスシーン見られたくないって、俺が凪沙のこと好きだから気を遣ってるんじゃなくて俺に勘違いされるのが嫌、とか、さすがに自惚れ過ぎだよな。
凪沙の手を頬から離してそのまま抱きしめた。
「やっぱり凪沙は王子より姫の方が似合いそうだな」
「バカ白斗」
「悪いって。凪沙が好きなのなんか奢るから許せよ」
「じゃあ、2年3組のラーメン奢って」
「ああ」
「着替えてくる!」
凪沙は走って階段を駆け下りて行った。
凪沙が制服とクラスTシャツに着替えてから、凪沙の友達のクラスに行くことになった。
凪沙の友達がいる1年3組は顔はめパネルを作って教室に飾っていた。
凪沙は写真撮ろ!と俺の手を引いて教室に入った。
教室に行くと、クラスTシャツを着た女子生徒が凪沙に気が付くと走ってきて凪沙に抱きついた。
「来てくれたんだぁ!」
「うん」
「ホントに白斗先輩と来た。凪沙〜、」
「ちょっと来て!」
凪沙は女子生徒の手を引いて、教室の端に行った。
何を話したのかは聞こえなかったけど、女子生徒は凪沙の言葉に何度も頷いてはニヤニヤしていた。
顔はめパネルの中にあった、狼と赤ずきんの写真を撮ってクラスを後にした。
昼になるまで、時間を潰そうと他のクラスを回っていると咲良と京平くんに会った。
「友達、紹介してもらえたのか?」
「お兄ちゃん、余計なこと言わないでくれない?京ちゃん、今のことは忘れてね」
「咲良って結構、兄弟仲いいんだな」
「まあね」
咲良たちと話していると、悠吾がやって来た。
悠吾は咲良を見て凪沙と見比べて俺の顔を見た。
「綺麗系と可愛い系………?」
「お兄ちゃん、何言ってんの?この人、」
「ほっとけ」
「白斗さんって面白い友達がいるんですね」
「変な友達だ」
京平くんが笑うと、フリーズしてた悠吾がえ!と俺と咲良を見比べた。
「お兄ちゃんって、この子白斗の妹!?」
「ああ。隣がその彼氏」
「彼氏持ち!?って、そんな驚きでもねえわ」
悠吾と話していると、そのうち女子生徒が集まってきて悠吾はその女子生徒たちと文化祭を回ると言って歩いていった。
俺と凪沙も咲良たちと別れて2年3組に向かった。
2年3組は教室でラーメンを作っていて、教室内に飲食ブースもあるため俺たちもそこで食べることにした。
「ラーメン2つください」
「はい。少々お待ち下さい」
指定された席に座って待っていると、ラーメンを運んできてくれた。
結構本格的なんだなと、凪沙と話していると今にも食べたいという顔で俺の方を見てきた。
「食べるか」
「うん!」
美味しそうに食べてる凪沙が可愛くてつい、頬が緩む。
こんな顔、父さんとか母さんに見られたら絶対にからかわれるな。
そう思いながらもラーメンをすすっていると、教室内がざわつき始めた。
気にせず食べていると、凪沙が驚いたような顔をしてこっちを見ていて後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、父さんと母さんと楓真が並んでいた。
箸が手から滑り落ちると、楓真が慌ててキャッチした。
父さんは可笑しそうに笑って、楓真の頭を撫でながら俺の顔を見た。
まあ、楓真は父さんの手を避けようと奮闘してるけど。
「驚きすぎだよ、白斗。それにしても、ずいぶん楽しそうな顔してたね」
「うるさい」
「照れるとすぐうるさいって言うの、ホント咲久みたい」
父さんは笑って母さんの方を見た。
母さんは母さんで私、そんなこと言わないけどな〜、なんて首を傾げてる。
「そうだ、凪沙のクラスの劇観たよ」
「え、咲久ちゃんたちも観てたの?恥ずかしすぎる」
「なんで?凪沙王子カッコよかったよ」
「そう?ありがとう」
「でも、やっぱり凪沙は可愛いね」
「咲久ちゃんに言われると嬉しいな」
凪沙は笑って母さんの方を見た。
つまり、俺に言われても嬉しくないってことかよ。
凪沙の目を見ると、あ、と言ってすぐにラーメンのスープを飲んだ。
ちょうど俺達が食べ終わる頃に、母さんと父さんと楓真の分のラーメンが出来上がったらしく入れ替わるように席を経った。
「凪沙、遅くなるなら連絡してって千花が言ってたよ」
「うん。分かった。ありがとう、咲久ちゃん」
2年3組の教室を出て、うちのクラスに向かった。
教室には数人クラスメートがいたけど、俺たちが入ると入れ替わるように出て行った。
もしかしたら、気を遣ってくれたのかもしれない。
後で礼を言っておこう。
「3年生は何もしないんじゃなかったの?」
「急遽、黒板アートすることになったんだよ」
「へ〜」
凪沙は黒板に視線を向けて、1人ずつ書いたメッセージを読んでいた。
読み終わったのか、凪沙は俺の顔を見上げた。
「ねぇ、白斗」
「ん?」
「ちょっとついてきて」
「ああ」
凪沙についていくと、運動部の部室棟の前にやって来た。
この辺はテントも何もないため、人が全くいない。
何しに来たんだ?
凪沙の顔を見ると少し緊張したような表情をして深呼吸をしている。
ちょっと待て。
2人きりで、緊張してるって。
「凪沙、今から告白でもするのか?………ってそんなわけ、」
さすがにないよな、という言葉は口から出ずに留まった。
凪沙は小さく頷いて俺の顔を見上げた。
マジ、か。
「なんで気付くかな」
「悪い」
「いいけど。ちゃんと訊いてくれる?」
「ああ」
凪沙は俺の顔を見上げるともう一度深呼吸をした。
「私、白斗に好きって言われていっぱい考えた。白斗といるとドキドキするけど居心地がいいっていうか落ち着くんだよね。だから、幼馴染として好きだっ思ってた」
そう言うと、凪沙は笑って俺の手を取った。
「でもね、こうやって白斗に触れたいって思うのは幼馴染だからじゃなくて白斗だからだと思うんだ。白斗、大好きだよ。気付くのが遅くなってごめんね」
俺、マジでダサすぎかも。
ちょっと泣きそうだし、絶対に顔赤いし、変な顔してる。
ふぅ、と軽く息を吐いて凪沙の顔を見た。
「俺も、凪沙のことが好きだ。凪沙、俺を彼氏にしてくれるか?」
「当たり前じゃん」
凪沙は笑って俺の顔を見上げた。
俺はすぐに凪沙を抱きしめた。
マジで、これまでで1番の文化祭だ。
両想いってこんなに嬉しいものなんだな。
笑って凪沙の顔を見ると、少し照れくさそうに笑っていた。
「そういえば、俺にキスシーン見られたくなかったって」
「フリでも好きな人に別の人とキスしてるところ見られるのは嫌じゃん」
「好きな人。ヤバい。今、めっちゃ響いた」
凪沙は思い出したからかムッとした顔をしている。
これはこれで可愛いな。
文化祭はあっという間に終わって、それぞれのクラスの片付けが終わると各自下校をする。
凪沙のクラスは打ち上げがあるにはあるけど、急遽決まったことらしく、凪沙は断ったらしい。
鞄を持って凪沙と昇降口に向かうと、碧と亀井さんに会った。
「栞里、碧先輩。アドバイスありがとうございました」
「てことは、」
「凪沙、仁科先輩と付き合ったの?」
「うん」
「おめでとう!」
「ありがとう」
凪沙と亀井さんは手を取り合って喜んでいる。
俺は碧の方を見てアドバイスって何?と訊いた。
碧は凪沙と俺に視線を向けてニヤニヤと笑みを浮かべている。
「凪沙、なんのアドバイスもらったんだ?」
「え、言わない」
凪沙は笑って亀井さんの腕に抱きついた。
可愛いからいっか。
駅まで行って、碧と亀井さんとは別れた。
2人は駅のゲームセンターでプリクラを撮るらしい。
凪沙がプリクラに全く興味を示さなかったため、俺と凪沙は通常通り家に帰る。
ホームで電車を待っていると、凪沙が俺の肩を叩いた。
「咲良に、付き合ったこと言ってもいい?」
「いいよ。どうせすぐにバレるだろうし」
「確かに」
電車が来て、最寄り駅まで帰った。
いつも帰る時間よりも早いから、少し寄り道して帰ることにした。
小学生のときに遠足のお菓子をよく買いに行っていた駄菓子屋に寄って、棒アイスを買って半分に割ってベンチに座って2人で食べた。
「そういえば、白斗っていつから私のこと好きなの?」
「………気付いたら好きになってたんだよ」
「そ、うなんだ」
凪沙はシャクシャクとアイスを食べてアイスの棒をゴミ箱に捨てた。
俺もアイスの棒を捨てると、凪沙は俺の手を取って照れくさそうに笑った。
「付き合ったんだし、恋人繋ぎしたい。いい?」
「当たり前だろ」
凪沙から手を繋ごうなんて言われると思っていなかったため、少し驚きながらも嬉しくてすぐに手を握った。
これ、夢じゃないよな。
浮かれたまま、家まで帰った。
家に着くと、ちょうど咲良も帰ってきていた。
咲良は俺と凪沙を見比べて、手に視線を落とした。
離したほうが良いかと思って、凪沙の手を握る力を緩めると、凪沙は俺の手を握って咲良の方を見た。
「なるほど。まあ、お兄ちゃんが凪沙のこと好きなのは分かってたからそんなに驚かないけど、おめでとう!」
「ありがとう、咲良」
「明後日はデートでもするの?文化祭の振替休日でしょ?」
「決めてないけど、私午前は部活だし」
凪沙は俺の顔を見上げて首を傾げた。
俺も、別にデートに誘おうとは思ってなかったな。
「午後も練習するつもりなんだろ?俺も付き合うよ」
「さすが白斗!ありがとう!」
凪沙は楽しそうに笑っている。
別にデートじゃなくても、凪沙といられればいいし。
「お母さんたちにも言うの?」
「俺はすぐにバレるだろうから言うつもりだけど、凪沙は?」
「私も。お父さんはまだしも、お母さんはすぐ気付いちゃうから言うよ」
「確かに」
それから凪沙に手を振って、咲良と家に入った。
鞄を部屋に置きに行ってリビングに戻った。
どのタイミングで言おうかと思ったけど、母さんと父さんが一緒に夕飯の準備をしていたからキッチンの前に行った。
「俺、凪沙と付き合うことになった」
「おめでとう」
「おめでとう。やっぱり咲久の言う通りだったね」
「白斗、こういうときは真白そっくりだからね」
どうやら、帰ってきたときの俺のテンションでバレていたらしい。
〜〜〜〜〜
「ただいま〜」
「おかえり。文化祭楽しかった?」
「うん。………あのさ、私、白斗と付き合うことになったから。一応言っとく」
お母さんは驚いたように瞬きをして、ゆっくり微笑んだ。
「おめでとう、凪沙。わざわざ教えてくれてありがとう。亮太には私から伝えておくね。多分、凪沙から訊いたら卒倒しちゃうかもしれないし」
「うん」




