文化祭開始
体育祭が終わって、2週間。
2日後、文化祭が行われる。
俺たち3年は有志発表以外参加しないため、放課後残ったりはしない。
自習室で勉強しようにも、周りがうるさくてなかなか集中できない。
そのため、最寄り駅の近くにある市内の図書館で勉強することにした。
ホームルームを終えてから、鞄を持って昇降口に向かう。
その途中で凪沙と亀井さんとクラスメートらしい男子生徒たちに会った。
「白斗、もう帰るの?」
「ああ。凪沙たちは劇の練習か?」
「うん」
眠れる森の美女。男女逆転バージョンをするらしい。
しかも、凪沙は王子役をするらしい。
背が高く、声は低くはないけど高すぎないため皆から推薦されたそうだ。
凪沙は部活で忙しいからと断ろうとしたが、台詞が少なくラストシーンしか出ないため引き受けたらしい。
それを聞いたとき、眠れる森の美女ってどんな話だったかと凪沙に訊くと、白斗は知らなくていい!見に来ないで!とすごい勢いで言われてしまった。
こっそり見に行くつもりだけど。
「じゃあ、駅着いたら連絡して」
「分かった」
「また後でな、凪沙。亀井さんたちも練習頑張って」
「はい」
昇降口を出て駅に向かって電車に乗った。
凪沙と帰らなくなると、一気に静かになる。
一緒に帰ってるときにずっと喋り続けてるわけじゃないけど、隣にいないと少し落ち着かない。
間違えて話し掛けそうになる。
考えないように、暗記帳を取り出して駅まで勉強する。
駅に着いて、徒歩3分ほどの位置に市立図書館がある。
図書館の端にある自習スペースに行って、参考書とノートを取り出す。
静かで落ち着く。
高校受験のときも、塾に通っていなかったから家と図書館の往復で俺にとって図書館は居心地のいい場所になっている。
しばらく、勉強して疲れて休憩しようとスマホと財布を持って席を立つと、中学のバレー部の後輩で咲良の元カレに会った。
「久しぶりだな」
「あ、お久しぶりです」
自販機でミルクティーを買って渡して、俺は自分用のブラックコーヒーを買ってベンチに座った。
後輩は日向夏也という名前で今はバレーをやめて芸能の道に進むために芸能コースのある高校に進んだと風の噂できいた。
「夏也、アイドルになったんだってな」
「はい。まだまだ駆け出しですけど。白斗先輩は大学に行くんですか?」
「ああ。経営の勉強してみたいなって」
「白斗先輩らしいですね」
夏也は笑うと、少し目を伏せた。
元気なさそうだな。
「どうかしたのか?」
「俺、アイドルになる覚悟全然できてないんです」
「なんでそう思うんだ?」
「アイドルになりたいから別れようって、俺から咲良に言ったんです。なのに、咲良が新しい彼氏と楽しそうに歩いてるの見て後悔したんです。覚悟が足りないから、まだ引きずってんのかなって」
「そんなことはないと思うぞ」
コーヒーを飲んだ。
もう秋がきて少し肌寒い。
缶コーヒーも冷めてきて温くなっている。
そんな缶を両手で握って夏也の顔を見た。
「俺からしたら、夢のために好きな人と別れることを決めたっていうのは十分大きな覚悟だと思う。それに、別れたからって好きでいるのをやめる必要はねえよ」
って、元カノの兄貴に言われるのは気まずいよな。
夏也の反応を伺うと目から鱗というように俺の顔を見ていた。
自分から振ったから、好きでいるのをやめなきゃいけないと思っていたのだろう。
「ありがとうございます。俺、白斗先輩の後輩になれて良かったです」
「そりゃどうも。じゃあ、そろそろ勉強に戻るわ。またな、夏也」
「はい」
自習スペースに戻って、勉強を続けた。
8時前に、凪沙から駅に着いたと連絡がきた。
きりの良いところまで問題を解いて、参考書とノートを閉じてリュックに入れた。
図書館を出ると、ちょうど凪沙が図書館の前の横断歩道にいた。
凪沙は俺に気付くと大きく手を振った。
信号が青に変わると走ってこっちにやって来た。
「おかえり、凪沙」
「ただいま、白斗」
「帰るか」
「うん」
凪沙と並んで家に向かった。
家に着いて凪沙に手を振ってドアを開けた。
部屋に鞄を置いてからリビングに行くと、風呂上がりらしい咲良がテレビを見ていた。
「あ、お兄ちゃん。おかえり」
「ただいま。そういえば、図書館で夏也に会った」
「アイドルは順調そう?」
「多分」
「それは良かった」
咲良は淡々としていて、元カレの話に全く興味を示さない。
夏也と付き合う前の彼氏(初彼氏)と別れて夏也を好きと言っていたときも咲良はこうだった。
咲良は別れてすぐはもちろん傷ついたりするけど、強いというか意外とドライというか。
「相変わらずさっぱりしてんな」
「まあ、今は京ちゃんが私の彼氏だからね」
「そうだな」
「そうだ。今週の風花北の文化祭、京ちゃんと行くね」
「ああ」
「京ちゃんの友達も風花北に通ってるんだって」
「そうなのか」
咲良は紹介してもらうんだ〜!と嬉しそうに笑っている。
秋人も、咲良を好きになるなんて少し災難だなと思ってしまった。
翌朝、いつも通り凪沙とランニングをして一緒に学校に向かった。
駅で電車を持っていると、凪沙がチラチラと俺の顔を見てきた。
「どうした?」
「あのさ、」
「ん?」
「文化祭の2日目、一緒にまわらない?」
「え、」
「もう他の人と約束してるなら、別にいいけど」
「してない。俺も凪沙と一緒に回りたいって思ってた」
驚きつつも嬉しくて笑うと、凪沙はすぐに顔を背けた。
なんか、最近こういうの多いな。
俺、気付かないうちに凪沙になんかした?
けど、凪沙から文化祭回ろうって誘ってくれると思ってなかったからマジで嬉しい。
学校に行って、自習室で勉強してから教室に向かった。
席に着くと隣の席の桜木が話しかけてきた。
「仁科くん、ご機嫌だけどなんかいいことあった?」
「え、俺そんな顔に出てる?」
「出てる。バレバレ」
「マジか。今日の朝にさ、凪沙に文化祭2日目一緒に回ろうって誘われたんだよ」
「そうなんだ。良かったじゃん」
「ああ。めちゃくちゃ嬉しい」
って俺、桜木に凪沙のこと好きとか言ったっけ?
いや、言ってねえよな?
なんで驚かないんだ?
それもバレてたってことか?
別に隠してるわけじゃないからいいけど。
昼休み。
悠吾と弁当を食べ終えて喋っていると、教室に知らない2年生の女子がやって来て呼び出された。
階段の踊り場に行くと女子生徒の友達っぽい子が待っていた。
確か同じ委員会の、
「奥野さん、だよな?」
「名前、覚えててくれたんですか?」
「同じ委員会だろ?」
「はい」
奥野さんが頷くと、俺を呼びに来た女子生徒は大丈夫と言って奥野さんの背中を軽く叩いていた。
「仁科先輩、文化祭、私と一緒に回ってください」
「ごめん。先約があるから」
「分かりました。急に呼び出してしまいすみません。お時間をくださりありがとうございました」
「ああ」
なんて言えばいいか分からなかったため、とりあえず頷いて教室に戻った。
教室に戻るとクラスメートは告白か?といつものノリで茶化してくる。
けど、あれって告白ではないよな?
好きなんて一言も言われてないし。
放課後、昇降口に行って靴を履き替えてからこっそり体育館を覗いた。
ちょうど、凪沙のクラスが衣装を着て劇の練習をしていた。
凪沙も王子の衣装とか着てんのかな?と思っていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、王子姿の凪沙が立っていた。
肩につかないくらいの長さの真っ直ぐな髪は後ろで結んでいて、めちゃくちゃ可愛い。
「今から練習?」
「うん。衣装合わせも兼ねて」
「見学してもいい?」
「絶対ダメ。白斗が帰るまで私、練習しない」
「はいはい。帰ります」
凪沙、そんなに演技下手なのか?
いや、中学の文化祭で桃太郎やってたけど別に下手でもなかった気がする。
単に恥ずかしいだけか?
昨日と同じように最寄り駅近くの市立図書館に向かった。
自習スペースで参考書とノートを開いて勉強して、昨日よりは早く凪沙から連絡が着た。
7時過ぎに図書館を出て、駅の方向に向かうと図書館に向かって歩いてきていた凪沙を見つけた。
「凪沙、お疲れ」
「白斗も勉強お疲れ」
「明後日、凪沙のクラスの劇って朝一だよな?」
「うん。終わったら一緒に回ろうね」
「ああ」
「そうだ。絶っっ対に見に来ないでね」
「早く帰るぞ」
家の方向に歩き出すと、凪沙は返事は!?と言って追いかけてきた。
明日はまだ文化祭1日目だから有志発表と部活発表だけで、一般の人は来られない。
咲良は2日目に来るらしい。
翌朝、教室に行くとクラスTシャツを配られた。
そういえば、作ってたんだっけなと思いながらTシャツを着ると悠吾と女子がやって来てイェーイなんて言って写真を撮った。
クラスTシャツを着たまま、体育館に向かった。
第一体育館に全校生徒が揃うと、開会の言葉があり、トップバッターの吹奏楽部の演奏が始まった。
それから有志のバンドやダンスやコントが終わって昼ご飯を食べてまた体育館に戻った。
午後からはダンス部の発表とコーラス部の合唱があり、1日目は早めに終わった。
1年生と2年生は放課後に明日の文化祭の準備があるらしい。
凪沙はリハーサルを行うらしく、今日も図書館で勉強をすることになった。
桜木と電車の時間が被って、最寄り駅まで一緒に帰った。
「桜木、今日のピアノすごい良かった」
「ありがとう。今度のコンクールの課題曲なんだけどすごく綺麗な曲だからみんなに知って欲しかったんだ」
「桜木らしいな」
駅に着いて、桜木と別れて図書館に向かった。
いつもの自習スペースに行って勉強した。
「………と。白斗。起きて」
「ん、?」
目を開くと凪沙が待っていた。
ヤバ。俺、気づかないうちに寝落ちしてた。
スマホで時間を見るとまだ6時過ぎだった。
「早いな」
「うん。リハーサルだけだったから早く終わったの」
「お疲れ」
「白斗もね。お母さんが車で迎えに来てくれてるから一緒に帰ろう」
「ああ」
リュックを持って凪沙の後に続いて図書館の駐車場に行くと、千花さんが車で待っていた。
凪沙の隣に座って、ふわぁ〜、とあくびをした。
気が付いたらまた寝ていた。
目を開けると、凪沙の肩によりかかって寝ていた。
「悪い。肩痛くなってないか?」
「う、うん。大丈夫」
凪沙はすぐに顔を背けて窓の外を見た。
やっぱり、凪沙の様子が少し変な気がする。




