体育祭
新学期が始まって1ヶ月。
今日は俺の通っている高校で体育祭が行われる。
朝、早めに教室に行って体操服に着替えて、全校生徒がグラウンドに集まった。
全校生徒が揃うと、開会式が始まる。
そして、そのままプログラム1番のラジオ体操も続けて行われた。
それが終わると、やっと退場だ。
自分のクラスのテントに行ってブルーシートに座った。
「白斗、俺の出る100m走応援しろよ」
「はいはい」
悠吾は水を飲むとすぐに入場門の方に走っていった。
すると、隣に桜木が座った。
「仁科くんと斉藤くんって仲良いよね」
「なんだかんだ、3年間同じクラスだったからな」
「そっか」
気まずい沈黙が落ちた。
そのうち、悠吾の出る100m走が始まった。
悠吾は最後の走者で他の人達が走っているのを見ているのかと思っていたら俺の方に手を振っていた。
しかも、ジェスチャーでなんか言ってる。
何を言ってるのかは分からないけど。
悠吾の番になって、スタートラインに並ぶと顔つきが変わった。
さっきまでのヘラヘラ顔じゃなくて、本気で勝とうとしている顔だ。
ピストルの音が鳴った瞬間、悠吾は周りを置いてきぼりにするように走っていった。
1位でゴールすると、係りの人から1位の旗を受け取ってこっちに拳を向けた。
悠吾がモテるのって、こういうところだろうな。
チャラチャラしてても、気が遣えてオンオフがしっかりあってノリもいい。
俺も、顔以外でモテる要素があれば凪沙に好きになってもらえたかもしれない。
「斉藤くん、すごいね」
「ああ」
競技が進行していって、昼休みに入った。
碧と亀井さんが俺と凪沙も一緒にどうだと誘ってくれて、4人で弁当を食べることになった。
教室は、他のクラスメートたちもいるから屋上に向かう階段の踊り場で食べることになった。
持ってきたけど使わなかったレジャーシートを敷いて4人で向かい合って座った。
「「いただきます」」
それぞれの弁当の蓋を開けて手を合わせた。
凪沙は俺の弁当を覗き込んだ。
どうやら俺のおかずを狙っているらしい。
唐揚げを1つ凪沙の弁当の蓋に置いた。
「ありがと、白斗!」
凪沙は笑って唐揚げを食べた。
美味そうに食べるから、可愛くてつい笑ってしまった。
「凪沙って天然タラシだね、ホント」
「栞里、それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「嘘だ〜!」
凪沙と亀井さんは笑いながらくすぐり合っている。
相変わらず仲良いな。
碧と顔を見合わせて笑った。
「亀井さんも凪沙ちゃんも早くお弁当食べないと昼休み終わるよ」
「あ、ホントだ」
ちょっと待てよ?
「碧って、付き合ってからも亀井さんのこと苗字呼びなのか?」
「いや、名前で呼ぶようにしてるけど亀井さん呼びが定着しててよく間違えるんだよね」
「亀井さんは?碧のことなんて呼んでるんだ?」
「私は普通に先輩って呼んでますよ」
付き合ってても、必ずしも名前で呼ぶわけじゃないんだな。
先輩、か。
凪沙に先輩って呼ばれてみたかったけど、幼馴染を先輩呼びなんて普通はしねえよな。
昼休みが終わる10分前のチャイムが鳴って、すぐに弁当を教室に置いてグラウンドに向かった。
俺の出る借り人競争は午後の部の2番目の競技だ。
入場して、第一走者のためすぐにスタートラインに並んだ。
ピストルが鳴って走っていってすぐにお題の紙を引いた。
『1年生のバスケ部員』
こんなの、凪沙以外に一緒に走れる人いねえよ。
紙を持ったまま、1年5組のテントの方に走った。
テントから少し離れたところで凪沙と桜木が話していた。
「凪沙!話してるところ悪いけど、一緒に来てくれるか?」
「え、あ、いいけど」
凪沙は俺の前まで走ってきてお題の紙を覗き込んだ。
周りを見る限り、他の人はまだ借り人を見つけていないようだった。
凪沙の手をとって、ゴールに向かって走った。
1位でゴールテープを切って、旗をもらって他の走者がゴールするのを待った。
「ありがとうな」
「どういたしまして」
「それにしても、桜木と何話してたんだ?」
凪沙はその瞬間、え、と表情を固めて視線を逸らしてまた俺の顔に戻した。
「今度、ちゃんと話すから」
「え、あ、分かった」
結構真面目な話してたんなら、訊かないほうが良かったかも。
他の人がゴールして、それぞれお題を発表し終えるとグラウンドから退場した。
それから、最後の競技であるリレーが始まった。
凪沙が出るのは学年も男女も混合の600mリレーだ。
凪沙は第一走者のため、気合十分で入場していった。
1から5組まで並ぶとよーい、という合図に続いてパンッとピストルの音が鳴った。
第一走者の1年生の女子は一斉に走り出した。
それでも凪沙は頭一つ抜けて早く、すぐに周りと差をつけてバトンを渡した。
………応援する間もなかったな。
リレーが終わると、コーンなどの片付けをして閉会式が始まった。
優勝は凪沙たちの5組。
俺たち3組は準優勝だった。
クラス全員で写真を撮って、着替えてホームルームを終えてから1年5組に凪沙を迎えに行くと碧も来ていた。
窓から教室を覗くと、凪沙たちがトロフィーのリボンに名前を書いて写真を撮っていた。
「なんか、楽しそうだな」
「だね」
「亀井さん待ち?」
「うん。そっちは凪沙ちゃん待ち?」
「ああ。珍しく凪沙の方から一緒に帰ろうって誘ってきたから」
「打ち上げとかないのかな?」
「あっても凪沙は行かないだろうからな。帰ったらすぐにバスケの練習だろうし」
「さすが。ストイックだね」
「ストイックってか、バスケバカなんだろ」
笑って話していると、教室のドアが開いて生徒たちが出てきた。
凪沙と亀井さんはまだ教室で話している。
他の生徒や担任が出て行ってから、1年5組の教室に入った。
2人は小声で何かを話している。
驚かせようと、碧と一緒に2人の後ろにまわると碧が椅子を蹴って2人にバレてしまった。
それにしても、なんでこんなに慌ててんだ?
「は、ははは白斗!?なんで!?」
「なんでって。凪沙が昨日、一緒に帰ろうって誘ってきたんだろ?」
「あ、そうだった」
そうだった、じゃねえよ。
こっちは凪沙から誘ってくれたことにめちゃくちゃ舞い上がってたってのに、何忘れてんだよ。
凪沙の顔を覗き込むと、凪沙はすごく驚いたようにのけぞった。
ヤベ、汗臭かったか?
慌てて自分のブラウスを嗅いだ。
「碧、俺臭い?」
「別に臭くないけど」
凪沙の方を見ると、何故か敵から庇うように亀井さんが前に出てきた。
「私と凪沙ちゃん、ちょ〜っと話があるので先輩たちは昇降口で待っててもらえますか?」
「ああ」
「急ぐので」
「ゆっくりでいいよ」
碧と一緒に教室を出て昇降口に向かった。
昇降口に来て30分ほど経つと、凪沙と亀井さんがやって来た。
「ごめん、白斗」
「お待たせ、先輩」
「大丈夫だよ」
「話は終わったのか?」
「一応?」
凪沙と亀井さんは顔を見合わせ首を傾げた。
駅まで行って電車で最寄り駅に向かった。
碧とは駅で分かれて凪沙と家まで帰った。
「白斗」
「ん?」
「今日、栞里と話してたの聞こえてた?」
「いや、聞こえてないけど」
「そっか。じゃあ、お疲れ」
「ああ。また明日な」
「うん」
凪沙に手を振って家に入った。
なんか、今日の凪沙ちょっと様子が変だったな。
✳ ✳ ✳
体育委員会の仕事が終わって、テントに戻ると白斗の小学校ころの同級生だったという桜木さんに会った。
こんにちは、と頭を下げると桜木さんは私の方にやって来た。
「凪沙ちゃん、競技まだ残ってるの?」
「はい。最後のリレーに出るので」
「そうなんだ。じゃあ、今ちょっと話せる?」
「?はい」
頷いてテントの少し後ろの方に並んでグラウンドを眺めた。
桜木さんはふぅ、と息を吐いてゆっくり話し始めた。
「仁科くんって、凪沙ちゃんのこと好きだと思うんだ」
桜木さんはバレバレだよね、と笑って真っ直ぐ前を見ていた。
私はそうですねなんて答えられる筈もなく、はい、とだけ答えた。
「驚かないんだ。もしかして、告白された?」
「………はい」
「凪沙ちゃんは、仁科くんのこと好きじゃない?」
「分からないです」
私と白斗は友達じゃない。
友達とは、なんか違う。
幼馴染だからだと思ってたけど、白斗に告白されて考えるようになったら楓真と白斗に対する気持ちも違うなって思い始めた。
楓真は本当に弟みたいな感じだけど、白斗をお兄ちゃんみたいなんて思ったことがない。
私にとって白斗ってなんなんだろう。
「ドキドキしないことは、ないんです」
「仁科くんに?」
「はい。けど、安心感があるっていうか、一緒にいると落ち着くんです。少女漫画とかだと好きな人と2人でいるとドキドキしてるシーンが多いのに、私は違うから。」
白斗の好きとは違うんじゃないかって。
桜木さんはう〜ん、と少し考えて私の方を見た。
「じゃあ、仮に仁科くんが誰かと抱き合ってるところを見たら凪沙ちゃんはどう思う?」
「それは、」
白斗が誰かとハグ?
目を閉じて想像してみる。
うちのクラスの白斗のファンの子がハグしてたら、ちょっと、見たくないかも。
小さく息を吐いて首を振った。
「嫌かも、です」
「それって、仁科くんを誰かに取られたくない、一人占めしたいって思うからじゃないのかな?」
「え、」
一人占めしたいとか、告白断っておいてわがまま過ぎて恥ずかしい。
なのに、妙に納得しちゃった。
え、待って。私って白斗のこと好きなの?
頭がこんがらがって、とりあえず落ち着こうと深呼吸をしていると、キャー!と悲鳴が上がった。
顔を上げると白斗がこっちの方に走ってきていた。
「凪沙!」
「はい!」
「話してるところ悪いけど、一緒に来てくれるか?」
「え、あ、いいけど」
白斗の方に行ってお題の紙を覗き込むと、『1年生のバスケ部員』と書かれていた。
なに期待してたんだろ。
白斗に手を引かれてゴールした。
お礼を言われて、どういたしましてと答えると、さっき桜木さんと何を話していたのかと訊かれた。
今、話す内容じゃないよね。
「今度、ちゃんと話すから」
白斗は少し驚いたように目を見開いて頷いた。
放課後、ホームルームが終わって栞里に相談することにした。
周りに聞こえないように、栞里の前の席に座って、小声で話した。
「私、白斗のこと、好きかもしれない」
「うん」
「驚かないの?」
「だって、ずっと凪沙は仁科先輩が好きなんだろうなって思ってたから」
「なんで?」
何度も瞬きをして栞里の顔を見た。
栞里はクスッと笑って頬杖をついた。
「だって、嬉しいことあったら『白斗にも教えたい!』っていつも言ってるし、話すことも大体『今日、白斗がさ〜』って仁科先輩のことばっかりだし。これで好きじゃないとか有り得ないじゃん」
そんなに白斗の話ばっかりしてないよ、と反論しようとすると栞里は「白斗が〜は凪沙の口癖みたいになってるもんね〜」と笑った。
少し拗ねて栞里の顔を見ると、栞里はごめんごめんと笑った。
「それで?いつ仁科先輩に告白するの?」
「白斗に告白なんて、」
と言いかけたとき、後ろからガシャっと椅子に当たった音がした。
驚いて振り返ると、白斗と栞里の彼氏である碧先輩が立っていた。
まさか、この話を聞かれてないよね?と思っていると一緒に帰らないのか?と首を傾げていた。
いつも通りだ、良かった。
それにしても、話に夢中で他の皆が帰ったことに気付かなかった。
教室を見渡していると、急に視界に白斗が入ってきた。
顔を近付けるから、驚いてのけぞってしまった。
白斗は自分が汗臭かったと勘違いしてブラウスを臭っている。
ホントは臭いどころか、いい匂いだけど黙っとこ。
とりあえず、栞里が機転をきかせてくれて白斗と碧先輩には昇降口で待ってもらうことにした。
「びっくりした〜」
「ホントにね。普通に声掛けてくれたら良かったのに」
「確かに。それにしても、凪沙、さっきの反応はダメだよ。仁科先輩にはバレてないだろうけど、碧先輩には確実にバレたよ」
「だって、白斗が急に顔近付けるから」
栞里はさっきの凪沙面白かったよ、なんて笑っている。
栞里だって、碧先輩の話するときいつも表情筋ゆるゆるのニヤニヤ顔してるくせに。
「とりあえず、告白はしないの?」
「告白、してもいいの?」
「ダメなわけないじゃん」
「でも、だって、ズルくない?白斗の告白断っておいて、やっぱ好きだから告白するとか。しかも、私は白斗の気持ち知った上でだよ?」
「それの何がズルいの?むしろ、また仁科先輩から告白されるのを待つ方がズルい気がするけど」
確かに。
頷いて栞里の顔を見ると栞里は仕方なさそうに笑った。
「別に告白しろって強制してるわけじゃないよ。ただ、凪沙はちゃんと気持ちを伝えたいって思ってるでしょ?それなら協力するよって話」
「ありがと、栞里」
笑って栞里を抱きしめると、栞里は苦しい〜!と言って私の背中を叩いた。
慌てて栞里を離してリュックを背負って、教室の戸締まりをして職員室に向かった。
鍵を返して昇降口に行って白斗と栞里と碧先輩と4人で帰った。
家に帰って咲良に電話をした。
咲良はちょうどスマホを触っていたのか、すぐに電話に出た。
『凪沙?どうしたの?』
「恋バナしな、」
『する!すぐにそっち行く!』
「バスケコートで待ってる」
私はバッシュを持って、家の隣にあるバスケコートの鍵を開けて電気をつけた。
すぐに咲良がやって来て私は持っていたボールをパスした。
咲良はボールをそのままゴールに向けて放った。
綺麗にシュートが決まったボールを拾ってドリブルをつきながら、咲良のところに行った。
咲良はニマっと笑って私の顔を見た。
「それで?恋バナ、するんでしょ?」
「うん」
「どうしたの?好きな人でもできた?」
「えっと、それがさ」
私はボールをつくのをやめて、ベンチに座った。
「私、白斗が好きみたい」
「だと思った」
「………そんなに分かりやすい?」
「うん」
「咲良の方が恋愛経験豊富だし、色々相談すると思うけどいい?」
「もちろん!任せて!」
「ありがとう」
咲良は笑って頷いた。




