入学式
ピピピ
スマホのアラームを止めていつも通り5時半に起きる。
ジャージに着替えてリビングに行くと、母さんがテレビでニュースを見ていた。
「あ、白斗。おはよ」
「おはよう」
「今日もランニング?」
「ああ。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
小学生の頃からずっとバレーをしているため、家から少し離れた河川敷までランニングに行くのが俺の日課だ。
今は4月の頭だから、河川敷にある桜がちょうど満開でその景色を見ながら走るのはすごく気持ちがいい。
俺の通っている高校は昨日始業式を終えて、今日は入学式だ。
天気がよくて良かった。
河川敷に行くと、同じように走っている人がいる。
すれ違う度に挨拶をするから、ほとんどがもう顔馴染だ。
「おはよう!」
「おはようございま、」
聞き慣れた声に驚いて足を止めて振り返った。
そこにいたのは、肩につかないくらいの髪に、長身の女子が立っていた。
俺の家の2軒挟んだ先に住んでいる五十嵐家の長女、凪沙だ。
五十嵐家とは両親同士が中学高校の友人でよく一緒に出かけたり、お互いの家でバーベキューをしたり、お泊り会をしたり昔から親しくしている。
そのため、凪沙とは幼馴染だ。
凪沙は俺の妹の咲良と同い年で、今年で高校1年になる。
そして、俺と同じ高校に合格したため今日からは後輩だ。
「白斗、明日から私も一緒に朝走ってもいい?」
「いいけど。ついてこれなかったら置いていくぞ」
「臨むところだよ」
凪沙は笑って走り出した。
俺も凪沙に並んで、家に向かう。
帰って、軽くシャワーを浴びてリビングに行くと母さんと父さんが朝食を準備してくれていた。
椅子に座ると、咲良と中2の弟の楓真がリビングにやって来た。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう」
「早く朝ごはん食べよう。腹減った」
「そうだね」
朝ごはんを食べて制服に着替えた。
一緒に家からの最寄り駅まで行って改札口で別れた。
咲良の通う高校はうちの高校に向かう電車と逆方向の電車に乗らなければならない。
ホームで電車を待っていると、凪沙と凪沙の母親である千花さんと凪沙の父親で元バスケ選手の亮太さんがやって来た。
「おはよう、白斗」
「おはよう」
「白斗、また身長伸びたか?」
「そうかな?」
「ああ。俺、193だけど、白斗ともう10センチも差ないだろ」
身体測定って、年に1回しかないから今の身長は知らない。
けど、父さんが185でほとんど差がないから去年よりは少し伸びたかもしれない。
凪沙の顔を見下ろすと、羨ましそうにこっちを見ていた。
「いいな。私、168で完全に身長止まったんだけど。」
「女子にしたら高い方だと思うけど」
「バスケしてんだよ?もっと身長欲しいよ。パパも白斗も高いんだからちょっと分けてよ」
「「分けれねえよ」」
亮太さんと声が重なると、凪沙も千花さんも可笑しそうに笑った。
電車に乗って、学校に向かった。
新入生は花飾りを付けてもらってから教室に行くため、昇降口で別れた。
教室に行くと、3年間同じクラスの斉藤悠吾が俺の前にやって来た。
何事かと思っていると、俺の肩に手を置いて何度も瞬きしながら見てくる。
「キモい」
「おい、おはようよりもキモいが先かよ。」
「おはよう」
「おはよう。あのさ、後で新入生の可愛い子探しに」
「行かない」
肩から悠吾の手を払って鞄を机に置いた。
こいつ、チャラ男なんだよな。
何かと合コンに誘ってくるし。
そういうところがなかったガチでいいやつなんだけどな。
チャイムが鳴って、在校生は体育館に向かった。
入学式が終わって俺達もホームルームを終えて、凪沙は昔から方向音痴だから迎えに行こうと思って1年生のフロアに向かった。
まだ、ホームルーム中で終わるまで窓から外を見ていると、教室のドアが開いて新入生たちが出てきた。
1年5組の教室を覗くと、凪沙が出てきた。
「白斗、迎えに来てくれたの?」
「どうせ、昇降口の場所分からないんだろ?」
「ご名答!」
何がご名答だ。
ため息を吐いて昇降口に向かった。
「千花さんと亮太さんは?」
「写真撮ったし、式終わって先に帰ったって」
「じゃあ、帰りにスタボ(※スターボックス)寄る?」
「奢り!?」
「まあ、入学祝いとしてなら」
「やった!」
駅にあるスタボで新作のフラッペを頼んだ。
凪沙はスタボに来ることが初めてでカスタムが分からないと言ってきた。
とりあえず、凪沙は甘党なのでチョコチップやイチゴシロップを追加しておいた。
フラッペを受け取ってテラスに座ると、凪沙は目を輝かせてフラッペを見ていた。
「高校生になってスタボに来るの夢だったんだよね」
「咲良も言ってた」
「あ、咲良に自慢しちゃお。スタボデビューしたよって。白斗、一緒に写真撮ろ」
「いいよ」
凪沙はスマホを取り出してフラッペを持ちながら自撮りをしようとした。
慣れてないからか、写真がぶれている。
俺は自分のスマホを取り出して凪沙とツーショットを撮った。
「すご。白斗、自撮り上手いね」
「どうも。凪沙のラインに送っといた」
「あ、ホントだ。ありがとう!」
凪沙は肩よりも短い髪を揺らして笑った。
咲良に写真を送ったのか、ピコンピコンと通知音が鳴る。
凪沙はスマホを見てニコリと笑っていた。
フラッペを飲み終えて、スタボを出て電車に乗った。
最寄り駅で降りると、咲良が改札口の前で待っていた。
「凪沙!スタボデビューおめでとう!今度、私も連れてって」
「任せて!」
凪沙は胸を張って言った。
「自分でカスタムもできないやつがよく言う」
「だって呪文じゃん。私、覚えんの苦手」
「そんなんでよくうちの高校受かったな」
「白斗先生のお陰でございます」
「そうだった」
笑って、3人で家に帰った。
夜はうちで五十嵐家と一緒に餃子パーティーが開催された。
こうやって集まれるのは楽しくていいな。