*アンドロイド
「あたしの名前は光。」
「あたしはロボットなんかじゃない。人間として生まれてきたんでしょ...」
どこからか聞こえる自分の声で目が覚める。
これまでの朝とは違う、こんな町の中に居ても心が軽やかに動く感じだった。
あの声は...?
ロボットって、感情なんてあるのかな...?
あたし、まだ自分がロボットだなんて信じたくない。信じられない。
「セツ...聞こえますか?」
プツッ...「コウ?よかった...昨日は返事が返ってこなかったから心配したよ。」
「ごめんね、寝てた...の。ところでロイドには感情なんてないのよね?」
「...俺にはある。」
「そう...あたし、自分がロイドだなんて信じたくない。」
「まだわからないよ。俺が君のことをもっと知れたら...」
「あなたはあたしの話し相手。望んだ形でなくても、もう寂しくない。」
「そうか、もっと知れるのか。」
もう、寂しくない...
あなたと話せるだけでいい...
『ギュルルルル~…』
「うっ...」
「コウ?今の音はなに?大丈夫?」
腹部がぐるぐるとなっている...
痛い、空っぽ、なにかがほしい感覚...
これって空腹?
「お腹空いた...」
「え!?コウ、今までなにも食べなくてもよかったんじゃ」
「おかしいの、お腹が。急にからっぽになった感じ...」
「...人間かもしれないね。」
「じゃあなんでテレパシーが通じるのかな。何か食べないと...」
「何か探して食べなきゃ!死んでしまうかもしれないよ。テレパシーのことはいいから、お腹を満たしてくれ。」
「わかった...」
セツとこうやって話せるのも何かの縁。
失うわけにはいかない。
だけどここには植物なんか生えていない。見渡す限りコンクリートのかけらと切り立ったビル、曲がりくねった鉄。
遠い過去に食べたことのあるものはない。
動物さえもいない。
「何もないよ。」
「...その廃墟からは出れないの?」
そうか、いつかきっとここから出られるのなら、出口までそのまま歩いてここから出よう。
「そうすれば、何かあるかな。」
ここから出たことはない。
だけど過去の町の風景を未だに覚えている。まったく別物のよう。同じ町だなんて信じられない。
みんなはしゃぎまわって公園や何かの店だってあった。
町の真ん中には大きな噴水。暑くなるとみんなで噴水の周りに集まっておしゃべりした時の楽しみを急に思い出した。
「楽しかったな...」
「コウ、どうしたの?」
「昔の楽しみを思い出してね...」
どこかへ出口を見つけるために歩きながらセツに昔の町のこのことをはなした。
「いいな。俺もそんなことしてみたい。コウの感情もどんどん戻ってきてるみたいだね。」
「戻ってきた...?」
「うん、いつか昔みたいに戻れるかもしれないよ。」
そうか、感情はまだ失ってないんだ。
このままいけば、廃墟の出口に着かなくたっていつか何かの出口に着けそうな気がする。
ふと目の前のレンガで出来た何かに目がいった。
これ、見たことのある形...昔の噴水だ。
「今、町の真ん中にいるよ。」
「っていうことは噴水?」
「うん、古くなったからっぽの噴水だよ。」
「出口も近いかもしれないね。」
「がんばってみる。」
ガンバル...?
自分で言ったのになぜか意味がわからない。
「がんばれ。」
「ありがとう。」
アリガトウ?
2つとも、なんだか温かい...
あたし、これからもちゃんと生きていけるような気がするよ。
穏やかな気持ちになれたようで、しばらくその噴水に座っていた。
いつか昔の町を取り戻したいな...
「もうそろそろ歩こうっと。」
「足は大丈夫?」
「うん、ぼろぼろだけど痛くない。」
痛みなんてあたしにはない。どんなに頭をコンクリートの角にぶつけて血を付けたとしても、長く伸びきった汚い爪で自分の腕をひっかいても。
「いずれ痛みもわかるようになるんじゃないかな。急にクると思うからしばらくは自分を傷付けたりしないで。」
「わかった...」
そしてまた歩く。まっすぐビルの連なる道を通って。
空腹を紛らわすためにセツと話をしながら。
話すことがこんなに楽しいことを改めて実感する。これもセツがいるから...
町の出口を目指してどれくらい経ったのかな。
いつのまにか振り返っても噴水は見えなくなっていた。
外の世界ってどんなのだろう。昔のこの町のように穏やかなのかな。
はやく、昔のあたしに戻りたい。
胸でどんどん膨らむ期待。はやく、はやくとあたしを急かすと足がリズムを踏んで軽やかに走り出した。
この足は止まらない。どんなにきつくても、つまずいても。
歩くよりも断然早い。これだったらすぐにここから出られるのかもしれない。
だけど急に速度が落ちる。息がすっかり荒くなったとどうじに前を見上げる。
この町で見たことのない高い塀。ここを乗り越えれば、新しい世界が待っているのかな...
「ねぇ、塀を見つけたの。きっと町はここで終わり。ここを越えれば出られる...」
「おお!塀か...大丈夫?」
「うん。」
なかなか高い塀。あたしを通さんとばかりに立ちはだかるもろくなった壁。
「もろいから壊せるかもしれない。」
近くにあった太く重い先の尖った鉄の棒を手に取る。
「気をつけろよ。」
勢いよく塀に向かって振りかざす。
『ガチャンッ!ガタ。。ガタガタ...』
大きなヒビが入った。けれど...崩れそう。
「きゃぁ!!」
『ダダダァッッ...』
「コウ!?」
「う...ん...」
「大丈夫!?」
崩れて降ってきたコンクリートが体を覆う。
「だいじょ...ぶ...」
イタイ、イタイ、イタ...イ...
「んー!」
思いっきり力を入れてコンクリートをどかす。足はキズだらけ。
「痛い...怪我しちゃった。」
「痛いのか...水はない?洗わないとだめみたいだよ。」
「ありがとう。」
立ち上がれるからそれでいい。痛くても我慢くらいできる。
塀を見ると穴が開いて向こう側が見れるようになっていた。
「なに...これ。」