プロローグ:そして、ここから
月が地面を照らす頃、大通りから一つ外れた道を往く。
軽快な者たちが酒を手に賑わう中、被り物で目元が見えない男が一人。
一見綺麗とは言えないような身なりだが、その歩調からは高貴な様相を醸し出す。
「ようやく見つけた。10年も掛かってしまったか・・・」
そうポツリと呟いた男は、街頭の灯りすら避けるかのような暗い店の扉を開ける。
他の客や店員は誰も居らず、最低限の物しか飾られていない殺風景な内装だ。
「いらっしゃい。注文はメニューからどうぞ」
薄暗い店内で目も合わせず、高齢の店の主人が出迎える。
入店した男は迷わず店の主人の向いに位置するカウンターに腰を掛ける。
「ある人物の話が聞きたい。あなたがよく知る男だ」
そう言いながら、男は被りものを取って素顔を晒す。
銀色の髪で整った顔立ちをした眼鏡の男だ。
店の主人は未だ目も合わせないが、男は真剣な表情を浮かべ続けて言葉を放つ。
「10年前の真実が知りたい。この国がまだ機能しているうちに」
一瞬だけ目が合い、言葉が返ってくる。
「・・・その人物の名は?」
「ランドルフ。かつて共に魔王討伐の旅をした勇者アランを裏切り、殺害した者だ」
その名を聞いて少しの笑みを浮かべた。