秋の散歩道
【秋の散歩道】
いつも車で移動する距離をちょっとそこまで歩いていくことにする
青い空に白い雲
少しだけ冷たい風は歩いて少し温まった頬を撫でてくれる
うん、気持ちがいい
こんなにのんびりとした時間を過ごすのはいつぶりだろうか
いつもは部屋の中に閉じこもっている時間帯
こんな明るい時間に外を歩いているなんてなんだか不思議だ
少しでも自然を感じたて大通りを。
…ではなく、細い道へと入っていく。
車の音が遠ざかり静かな空間
道の両脇に植えられた木々が季節の変わり目を告げる。
道に落ちている落ち葉を踏みしめる。
カサカサと気持ちのいい音ともに
足の裏から伝わる感触
つい先日まで緑だった葉はあっという間に
黄色に、赤に、茶色にと着飾る
「君は誰を想ってそんなに赤らんでいるの?」
見上げた紅葉に呟く。
頭の中に思い浮かんだ人物に思わず、くすり。と笑う。
携帯を取り出し写真を撮る。
少しでも同じ景色を共有したいのだと、撮った後に気づいた。
そう自然に思うくらいには好きらしい。
再び携帯をカバンにしまい歩き出す。
今はこの贅沢な時間を余すことなく堪能したいのだ。
カキーンっ。
「まわれまわれ!」
「そっちいった!まだ間に合う!」
「早く投げろ!」
遠くから声が聞こえてきた。
どうやら学校が近いらしい。
野球少年らしき声が聞こえてくる。
フェンス越しに熱気を感じる。
バットに当たる球の音
走り回る少年
指示を出す監督
応援するチームメイト
繰り広げられる熱い青春
そっと目を閉じて思い出す。
学生時代の日々
一分一秒が勿体ないと笑い、泣き、走り回った。
…それは、もうどんなに恋焦がれても
もう二度と触れることは無い宝物の時間なのだ
フェンスからそっと離れて歩みを進める。
体育館からシューズのきゅっ。という走る音と
ボールの弾む音
校舎から何重にも重なる演奏の音
音に合わせてデタラメな言葉を乗せる
今だけこっそり参加
ちょっとだけ青春にお邪魔させてもらう
大きな公園に差し掛かり
また違う秋の音が聞こえたきた。
公園を囲うようにぐるりと一面の木々
テニスボールの弾む音
鳥の囀り
先程よりももっとはっきり聞こえる落ち葉の音
木々の隙間から日差しが零れる
少し眩しくて目を細める
光に透けて見える葉脈はキラキラと輝いている。
道は色とりどりの落ち葉がびっしりと敷き詰められている
先程よりも大きな音を立てて
秋の演奏と共に歩く
ひらひらと風に合わせて舞い落ちる落ち葉
この景色を独り占めしたくて
ベンチに腰かける。
秋の音を聴きながら読みかけの小説を開く。
突然、風が強く吹いて思わず目を瞑る
先程よりもっと降り注ぐ秋の戯れ
頭の上に違和感を感じて触ると
どうやら1枚、着地に成功したらしい
記念にと小説に挟む
思わぬ君へのお土産ができた
さて、目的地までもう少し。
そろそろ行くとしようかな。
そういえば昼間だからか
虫の演奏が聞こえないのが少し残念に思う
今度は夕暮れ時に会いにこようかな。
大好きな君を誘って…。