#15 ペットは飼い主に似る
今日もいるか分からないけど、ケートス先輩の教室に来た。もう平気で教室までいけるようになったし...いなくてもカルキノス先輩に遊ばれてあげようと思ってた。
教室の後ろの扉から教室を見渡す。ガヤガヤしていて僕に気づく人はいない。カルキノス先輩はいるけど、こっちに気づかない。
??「おい!ケートス!!居るか!!!!」
3年生を見てたら僕の後ろから大声で叫ぶ人が現れた。
めちゃくちゃうるさい...。目の前にいる僕が見えてないのか?
その声で僕の存在とケートス先輩を探す誰かさんの存在に気づいたカルキノス先輩がこちらに駆け寄ってきた。
カルキノス「学校きついって言って休んでますよ」
??「明日は?」
カルキノス「多分来ないと思います」
誰かさんとカルキノス先輩の会話を聞いて僕は一気に気分が下がってしまった。ケートス先輩いないなら、この教室来る意味ないや……。そんな僕をカルキノス先輩はちらっと見てきた…気がする。
??「クッソ...あいつめ...仕方ない、お前…からす!代わりに明日の仕事やっといてくれ」
...は!?なんで僕が!!!
そう思って声の主の顔を見た。..ポ...ポセイドン先生...やっぱりか...。僕が何をしたって言うんだ。何の罰ゲームなんだ……。
カルキノス「それは可哀想なんじゃないですか?この子にやらせるぐらいなら、僕が代わりにやりますよ」
急に先輩ムーブをかましてくるカルキノス先輩。"いつもこんなだったらいいのに"と思いつつも、僕はカルキノス先輩の優しさと男らしさに涙が出そうになる。
ポセイドン「お前はバカだし戦えないだろ、それにこいつの方が真面目そうだ」
なんてことを言うんだポセイドン先生ッ!!それを聞いたカルキノス先輩はポセイドン先生を睨みつけていた。足も鳴らしてたと思う。
ポセイドン「じゃあな、明日朝早くに職員室の俺の席に来い、俺はいないからな」
どこだよポセイドン先生の席...まぁいいや。なんとかなるだろう。面倒くさそ…仕事ってなんなのかなぁ…。明日か...。やだなぁ...怒られるかなぁ...
重い身体を無理矢理動かしてその日を終えた。ポセイドン先生のところにいるぐらいならアポロン先生のところにいた方がいいよ...。まだお仕事してもないのにそう思うのはなんでだろう。この日はいつもより早く寝た。
朝になって、一人で学校まで行った。いつもより2時間ぐらい早く学校に着かなきゃ行けないので、そんなのにヒドラさんを巻き込む訳には行かないな。本当に朝から泣きそうになってくる。
アポロン「お、どうした?そんなしょぼーんってして」
学校の入口付近でアポロン先生に会った。元気のなさそうな僕を心配してくれてるのかしらないけど、声をかけられた。
『ポセイドン先生に呼び出されてるんです...』
アポロン先生もなかなか嫌な教師だけど、あまりにもポセイドン先生が嫌すぎてアポロン先生にしがみついて泣いた。
アポロン「今日だけだろ?頑張れよ」
アポロン先生はしがみついて泣く僕をなだめるために、ぽんぽんと頭を軽く撫でた。それでも僕はアポロン先生を離さなかった。だから鬱陶しく思ったのか、アポロン先生が口を開いた。
アポロン「そんなにいつまでもくっつくんなら……」
肝心の部分を聞く前に校内まで逃げて来た。すると目の前を"あの人"が通った。
副委員長「あ、からすくん、一緒に行きますか?」
その声は副委員長だった。彼もポセイドン先生からのお仕事をやらないといけないのかな?ポセイドン先生の席どこかわからないから助かる。にしても僕がケートス先輩の代わりをするの知ってるんだな。
副委員長「そんなに難しいお仕事じゃないので、頑張りましょうね」
そう笑顔で言ってくる。たまに彼を見かける度に思っていたが、この人の笑顔は何となく危ない気がして……。本当は誰よりも誰よりも最低な人物だったり…………なんてな……。そんなわけないよな、失礼だから、変なことを考えるのはやめよう。
そのあとは特に喋らず職員室まで歩いた。副委員長は扉をノックして、開けた。そして、"失礼します"という挨拶と共に足を踏み出して職員室へ入っていった。僕もそれを真似て、職員室へ入った。そして、"おはようございます"と2人で一礼をして、職員室内を歩き始めた。その光景を見ていた社畜のハデス先生が、ため息を吐きながらも、「おはよう」と挨拶を返してくれた。
そして、目当てのポセイドン先生の席には大量の資料と1枚の紙が置かれていた。紙には"この資料を整理しとけ"と書かれてあった。生徒が見てもいいものなのかと思ったが、この学校だから、そんなことは気にする必要は無いんだろうと自問自答した。
副委員長「何かあったら聞いてくださいね」
『はい...』
にしても、この量を2人で...……ふざけるな!!
副委員長「じゃあ...この資料を別の場所に運んで、そこでやりましょうか」
どこなのか分からないが、副委員長について行けばいいだけだし、特に気にせず資料の山に手をかけた。……重いな、これ。重量を感じると共にポセイドン先生への怒りが込み上げてくる。
副委員長「ケートスくんがいつも知らない間にこれを運んでくれてるので……やっぱり重たいですね……」
そうやって副委員長は呟くが、涙を流しながら働くケートス先輩を想像して、僕の心の中がぐちゃぐちゃになってきた。
『最近休みがちですよね…。副委員長は…?嫌じゃないんですか、ポセイドン先生』
副委員長「んー…自分で言うのもおかしいですけど…ポセイドン先生、僕のこと気に入っているみたいなので…」
なるほど…ひいきされてるんだろうな。少し副委員長を恨んでしまう。もちろん、ポセイドン先生が悪いんだってわかってるんだけど……。
副委員長「もっと助けてあげられればなぁとは思うんですけどね…ポセイドン先生に嫌われないようにするには現状で精一杯なんです…」
副委員長は苦笑いしつつ、ちょっと申し訳ないような顔をする。やっぱり違うな、副委員長は悪い人じゃないな。恨むべきじゃない。
そう考えていると、例の場所に着いた。あぁ……なんだ……反生徒会の人達が集まる教室か……。
副委員長「あ!」
副委員長が教室に入った途端に何かを思い出したかのような声を出す。なんなんだろうと、見ているとこちらを振り返った。
副委員長「僕はいるかって呼んでください、あと…タメ口でお話するね」
『あぁ……はい……』
そういえば、先輩のわりには後輩の僕にまで敬語だったな。ならば、ケートス先輩のように、いるか先輩と呼ばせてもらおう。
そうして僕らは資料を教室にある机に置き、そのまま作業を始めた。なんでこんな資料バラバラなの…ちゃんと管理しろ!!
いるか「時間はあるし、ゆっくりで大丈夫だよ」
そうして、2人で資料の作業にとりかかった。紙を掴むのが上手くいかなくてイライラすること以外は、全然僕でもできる内容だった。手の水分足りないのかな。
すると、急にこの教室の扉が開いた。
女「いるかくん?あの約束は……?」
いるか「……?」
全く知らない女の子が、教室の扉から顔を覗かせて、いるか先輩に向かって話す。その声を聞いたいるか先輩は、彼女の方を向いて、ちょっと考える素振りを見せたあとにまた、何かを思い出したかのような反応をした。
いるか「……えっと…………からすくん……ちょっと、席外すのでやっててくれませんか?」
『え?はい…………』
そうして、いるか先輩は女の子とベッタリくっつきながら去っていった。……えぇ?待って、待って、あの人……僕に仕事押し付けて遊びに行った!!!???くそっ……くそっ……。
半泣きで作業にとりかかる。本当は、本当は……僕の仕事なんかじゃないのに……。この今持っている資料をぶん投げたいくらいイライラしたし、悲しかった。
と、思っていたが、すぐに戻ってきた。
いるか「ちょっと色々あって、ごめんね、早く終わらせよっか」
僕が硬直しているところをガン無視して、作業に取り掛かり始めた。態度の変わりようが意味不明すぎて、しばらく混乱していた。なにか急いでるのかな。
『「…」』
お互いに黙りこくって、作業にとりかかる。いるか先輩の作業が早すぎて焦る。本当に何も話さない。急に冷たい人になった感じがして、怖かった。そして、僕が残りの1枚を取った瞬間……
いるか「じゃあ僕戻るね、整理した資料はそこに置いといて大丈夫、後で僕が運ぶよ」
そう言い残してから、びっくりするぐらいの速さで教室を出てった。忙しいのかな……なんなんだろ……
とぼとぼ教室を出た。時間はいつも僕がヒドラさんと校内に入るときぐらいになっていた。眠いな……。
教室に行こうと、玄関の前を通ったとき、ヒドラさんとカルキノス先輩がいて、2人が駆け寄ってきた。
カルキノス「もう終わったの?」
カルキノス先輩がそうやって問いかけてくるので、1回だけ頷いた。てか!!今日はちゃんと起きたのか!!
そう思っていたら、それを察したかのように僕に近寄ってコソコソと話しかけてきた。
カルキノス「ヒドラを独りにしたくないの」
それを言ってから、カルキノス先輩はすぐに僕の方を向くのをやめた。
ヒドラ「大変だった?」
『……うん……まぁ……あの、いるか先輩が…なんか挙動不審で……』
ヒドラさんは不思議そうにしていたが、カルキノス先輩は、うんうんと目を閉じて頷いている。
カルキノス「あいつやばいよ、いるかって生き物はね、人間みたいで気持ち悪い」
あの人にそんな面影がなかったから、"何言ってるんだこの人"というような視線をカルキノス先輩へ送る。そして、カルキノス先輩は続けて話してくれた。
カルキノス「まさにポセイドン先生みたいな感じ、浮気だってするしいじめだってするような生き物なの」
ヒドラ「そうなの?」
ヒドラさんも、イマイチ理解してなさそうにカルキノス先輩の話を聞く。彼は神の使いで神聖な生き物という括りでもあるので、やっぱり考えつかない。確かになんか変だったけどさ……。
ヒドラ「あ」
何故か急に、ヒドラさんが声を漏らした。どこかを一直線に見ているので、僕とカルキノス先輩はヒドラさんの見ている方向を見る。
カルキノス「噂してたらね……」
まさかの、僕らの目線の先にはいるか先輩がいたのだ。しかし、廊下の壁にもたれて倒れているみたいだった。何事!?
僕とヒドラさんは一斉に彼に駆け寄って行った。その後ろを、カルキノス先輩は冷静に歩いている。死んでたらどうしよう!!
ヒドラ「大丈夫!!??」
ヒドラさんが焦った表情で彼の体を揺する。するとはっと目を覚ました。
いるか「…あ……あは…効きすぎちゃったかな……」
『だ……大丈夫ですか?』
いるか先輩は僕の質問に対して、若干とぼけた顔をした。そして、自らの右手を差し出してきた。なんと、その手には何故か大きめのフグが握られていたのだ。
いるか「からすくんもやる?これ気持ちいよ、フグの毒が脳みそを揺らしてるみたいで……」
フグの毒!?テトロドトキシンか!?あの……危ない毒を……?何やってるんだこの人!!
すると、いるか先輩は僕の後ろで黙って見ているカルキノス先輩を見てにやにやし始めた。
いるか「やってみますか?カルキノスくん」
カルキノス「……そんな馬鹿なことやらない」
そう言ってカルキノス先輩は自分の教室がある方向に向かっていった。いるか先輩は、そのカルキノス先輩の後ろ姿を少し口角をあげながら見つめていた。
どうやら、フグの毒でいるかは遊ぶらしい。いるか先輩はそのフグをそこら辺に投げ捨てて立ち上がり、早歩きするカルキノス先輩の後ろを追いかけて行った。