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6.聖女のお披露目



 とりあえず、10日ほど放っておかれたと思ったら、急に外へと連れ出されることとなりました。その時はガイルさんがいなかったので少し心配ではありましたが、事前にガイルさんが言っていたことを信じて、黙って付いていくことにしました。


 ガイルさんが言うには、『彼らは君に今すぐ直接害を与えようとは思っていないから、基本的には大丈夫のはず』とのこと。ただ、本当にそうであれば、食事の内容があれほど低いレベルだったりはしないはずだとは思うのですけれどもね。

 そう言うと、ガイルさんはいつも悲しそうな顔で『ごめんね』と謝るので、あまり言わないようにはしているのですが。

 だって、ガイルさんは全く悪くないじゃないですか。私が召喚されたことも、今こんなに理不尽な目に合っているのも、謝ってくれているのは幽霊であるガイルさんただ一人。こんなに善なる心を持った人が過去の王族だというのに、いったい今の王族は何考えているのでしょう!



 目隠しをされたまま、黙って手を引かれていきます。以前手を引いた人とは違い、かなり太めのがっしりとした手で手首をつかまれております。全体的にかなり指が硬い気がするので、軍人さんなのかもしれませんが、足が速くて困ります。私一般人ですので、もうちょっと歩みをゆっくりにしていただきたいのですが。

 外へ向かっているのでしょうか。何を言っているかはわかりませんが、段々と人の騒めきが聞こえてきました。けれど、外といっても地上では無いようで、階段を上らされております。

 あの、階段を上がるとき、そして階段の終わりの時は、そう声がけしていただかないと転びそうになるので、引っ張るときには気を付けていただきたいです。事実、階段があると分からないで、段差に足をぶつけて転びそうになりましたからね!

 さすがに倒れる前に抱きとめてもらえましたが。すみません、と言いましたけど、謝る必要があるのは私だけかしら、という気になったのは内緒です。


 さて、最終的にバルコニーみたいなところへと連れて来られたようです。顔に当たる風が気持ちいいです。

 これってもしかして、天皇陛下の新年一般参賀とかのイメージでしょうかね?

 そうすると下にいるのは民衆の方々でしょうか。下から沢山の方々の声が聞こえるのですが、あまりにざわざわとしていて何を言っているのかが全く分かりません。


 そうしたら、私の手を引いていた人でしょうか、すぐ隣からそれこそ拡声器でも使っているかのような大声が聞こえました。これが地声ってすごい。


「異世界からこの地を憂いて、聖女様がわざわざ降臨されました。この降臨に際して、聖女様はご自身の眼を対価として差し出されたのです」


 はい? 降臨って、女神様みたいなこと言っちゃってますよ。勝手に誘拐してきたくせに。いやー、堂々と嘘八百を当人の前で言えるってある意味すごい図太さですよね。どんな顔して言っているのか、本当に見てみたい! これを言っている人の顔が見えないことが、残念で仕方ありません。


「彼女が、地の果ての魔獣たちを殲滅してくれるのです!」


 うわぁ、言い切っちゃいましたよ、この人。本当に勝手すぎます。私がどうやって殲滅するっていうんですか。何考えているんですかね、この人。こんな勝手なことを言ったくせに、今度は小声で私に向かって、下に向かって手を振れ、とか指示してきますし。


 とりあえずやりましたけどね、客寄せパンダ。だって、どう考えてもこの隣の人、腹式呼吸の達人ですもの。下にいるのはかなりの人数だと思います。聞こえてくる声が本当に騒音ですもの。なのに、その声を物ともせず、それ以上に皆を黙らせるほどの声量を出せるなんて信じられない。

 本当なら今すぐ否定したいところですが、私がこの声にかき消されないような、大声を上げられる自信なんてまったくありません。結局流されるままの私。すみません。大きな声を近くで出されると怖いのです。委縮してしまって、大人しく従ってしまう自分が情けない。

 


 どっと疲れたまま、部屋へと連れ戻されました。

 部屋にはガイルさんが帰ってきていたので、先ほどあったことを伝えました。


『聖女の巡礼費用のため、増税するって法案出してたからなぁ。とりあえず聖女をお披露目しよう、ってことになったんだろうね』


 ガイルさんは溜息をつきながら私に説明してくれます。


「私が魔獣を殲滅する、って言い切ってましたけど、いいんですかね?」


 ガイルさんはご存じだと思いますが、私には何の力もありませんよ?


『その場面見ていないから何とも言えないけど、話を聞く限り、あずさの隣にいた奴は騎士団長だと思う。あいつは本当にクズな王族で、名誉職として長になってるだけのヤツね。そんな奴だから、口先だけで勝手なことを言ってるんだよ。ただ、この国の中でも生贄に反対している奴はきちんといて、それでずっと揉めてはいるんだけどね。おそらく地の果て巡礼にはいくことになると思うけれど、付いていく騎士団の連中はもっと善性がある奴らのはずだから、彼らについて地の果てまで行ってくれるかな。絶対に守るから、本当に彼らが最終的に君を生贄とするのかどうかを、確認させてほしいんだ』


 ガイルさんは、自分の子孫たちの善性をギリギリまで信じたいのでしょうね。その気持ちは分からないでもありませんが、私はそれ以上に世の中甘くないって知っています。きっと彼らはサクッと私と生贄にすると思いますよ。ま、ガイルさんが助けてくれるというので、あえて言わないでおきますが。


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