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4.幽霊さんは盗み聞きがお得意



 折角この世界のことに詳しくて、尚且つ嘘で塗り固めたことを言わなそうなガイルさんがいるので、今のうちに色々疑問に思ったことを聞いてしまいましょう。


「私って本当に聖女なんでしょうかね。聖なる力とかないと思うのですが」


『聖女っていう言い方は彼らが勝手に決めたものだけど、魔法陣は正しく作用していたみたいだし、聖なる力があるのは本当だろうね』


 聖なる力、ねぇ。確かにこの世界の方々の善なる心よりは、はるかに善性はあるのかもしれませんが。それでも普通の地球人ですよ。要は、この世界におけるそもそもの基準値が低すぎるのではないでしょうか。ここの皆さんを基準としたら、地球にいるかなりの人が召喚対象になるのでは、という気はしますけれど。

 私の善性なんてそのレベルですよ?


「因みに、地の果ての問題って、全世界的なものですよね? 最初言われた言葉も『この世界を救っていただきたい』でしたし。でも、先ほどの会議は各国代表がいる感じがしなかったんですけれど」


 あの会議室にいたのは、軍人さんたちが多かった気がします。勿論お偉いさんたちなのでしょうけれど、今更こんな会議を開いていることの文句、私の存在が使えないとの罵倒、話が違うとかいう怒り、そんなのばかりで、国家間の遣り取りとかそういう高尚な感じが一切しませんでしたよ。かなり低俗なレベルの罵り合いが聞こえてきた気がします。


『よく分かったね。この国は強国でね、他はほぼ属国か、同盟国でも力の差が歴然としているんだ。だからこの国の決め事が大体まかり通るから、会議もすべて自国内で決定していると思うよ』


 なるほど。自国内だからこそ、あの低レベルの話し合いが平気で行われたと。確かに、他国と腹の探り合いとかするとしたら、言葉尻を捕られないように、もっと言い回しをしっかり考えますよね? ましてや一方的に召喚した人間相手に、初対面で使えないとは言わないでしょう、普通。


『そして、地の果てというのは、昔からあったのだけれど、だんだんと広範囲に侵食してきてね。既に属国をいくつか取り込みかけていて、更にこの国の端にも広がって来たんだ。属国が地の果てに侵食されていた時は無視してたのに、この国が侵食されるようになって、慌てて神殿で祈りを捧げたのだけれど、既に善性がかなり薄くなってきているから、満足に神託を聞ける徳の高い神官がいなくてさ。神官たちをかなり精進させて、初めて聞けた状態になったようだよ。で、神託を聞いて、あわてて魔導士の精鋭たちを集めて召喚をやらかしたらしい』


 うーん。どこまで聞いても、色々クズっぷりがすごい気がするのですが。この国、本当に大丈夫でしょうか。それに、地の果てが侵食していくって…。


「地の果てって侵食していくものなんですか。まるで地球で砂漠が広がっているのと、一緒みたいなものなのかしら」


 思わずそう言ってしまうと、ガイルさんは『砂漠って?』と聞いてきました。

 私は、地球が温暖化などの理由で、徐々に土地が砂の大地になってきていることを告げました。勿論それだけでなく、人間による伐採等も影響していると思いますが。


『あぁ、じゃあそれは君の世界の神からの啓示なんだ』


 ガイルさんがさらっとおっしゃいます。

 そういえばこの世界では神託があると言っていましたよね。神託で、聖なる力が薄れてきているから魔獣が増えているのだ、と言われたという話でしたものね。

 私の世界で神託というものはないと思うのですよ。かつては神の声を聞いた、などという方もいらしたようですが、最近そういう話は聞きませんものね。

 勿論私は神様を信じていますが。というか、神様を信じているみっちゃん一家を信じている、といったところでしょうか。


 でも、そうでしたか。砂漠化は神様から警鐘を鳴らされているということですね。それは本当に、人間が何とか対処しなくてはならないことですね。確かに、緑化活動だけでなく、色々な支援など世界が一丸となって行っていますよね。私もこの前、なけなしのお金を募金に回しましたし。


 私が自分の世界の問題に対して心配に思うように、この世界の人々も今まで住んでいた場所が狭められて尚且つ地の果てから魔獣とかいう恐ろしい獣が現れるとなると、何とかしたいと思う気持ちになるのは分からないでもありません。


 けれども、そうなった理由が善なる心が薄くなっているからだと言われて、じゃあ反省して心を入れ替えましょうとならない彼らが恐ろしいです。私たちの世界の砂漠化だって世界的問題ですけれど、だから宇宙人や異世界人に助けてもらおう、なんて発想は誰も持ちませんもの。


 何故異世界から誘拐して来て、それを生贄にしようと思えるのかが理解不能なのですが。そういう思考を悪いと思っていないのが、更に恐ろしい。自分がそんな目に遭った時、受け入れられますか? そんなわけないですよね。

本当に、常識の通用しない人たちって、怖いですね。



 それから、一番聞くのが怖いことについて、勇気を振り絞って聞いてみましょうか。


「私、生贄になるんですか」


 生贄って言うからには、やっぱり殺そうとしているんですよね。

 そう聞くと、ガイルさんはそれこそ自分がそう考えた主犯かのように、深く頭を下げました。いえ、先ほどからガイルさんが謝って下さってますけど、ガイルさんは何にも悪くないですからね? 

 いくらガイルさんが以前この国で王族であった方だったとしても、そして今の王族を子や孫のつもりで見てしまっているのでしょうけれど、ガイルさんが私に謝ることではないですよ。私を殺そうとしているのは、今のこの国やこの王族たちなのですから。



 ガイルさんは、普段はこちらには漂っていなかったそうですが、昨日の召喚に気付いたらしく、昨日からこのお城近辺で色々盗み聞きをしてくれていたそうで、聞いた話を教えてくれました。


 それによりますと、当初は異世界召喚よくあるパターンの、やはり私を篭絡しよう計画があったそうで、見目麗しい王族の方をきちんと準備していたそうです。とはいえ母方の身分があまり高くなく、王位継承権は三番手、四番手あたりの方だとか。万が一に備えて事故等で亡くなっても構わないレベルを寄越したと。

 うーん。現れた人物が、殺人鬼だった場合でも考えていたのでしょうか? 一体どんな人間が現れると思っていたのでしょうか、と聞きたくなります。


 でも、そこまでして篭絡計画を練っていたのに、私が皆さんの姿を見ることができなかったこと、そして何より私が凡庸だから傍に置きたくなかったことなどから、さっさと生贄コースに切り替えたようです。

 勿論ガイルさんは私のことを凡庸とは言わずに、王子の好みじゃなかったみたいと言い換えていましたけどね。さらに、こんなに可愛いのに、というリップサービス付きで頭まで撫でていただきました。ガイルさんって本当いい幽霊さんですね。社交辞令でもありがたいです。


 そして、篭絡計画を遂行する場合は、地の果ての巡礼などではなく、あちこちの街を巡礼させるだけだったそうです。聖なる力を持つ者を呼んだので、いるだけで聖なる力が増えるはずだから、あえて危険なところへ行かせるつもりはなかったということらしいですね。

 私がが美人さんだったら、篭絡して言うことを聞かせて、各地を回らせて私の存在を客寄せパンダとして、聖女降臨に関わる諸税追加や各地からの支援金等を得ようとしていたらしいです。さらに王家が聖女を囲うことで、神殿に対して力を持とうという思惑もあったとか。

 それに異世界の美女(美女が来ると勝手に思い込んでいた、その神経がすごいと思いますが!)を妻にするとで、民衆に対してこの国の格の高さを見せつけることができると思っていたらしいですね。異世界すらこの国の配下だと印象付けるために。それで、最終的に魔獣が減らなければ、最後はすべての咎を被せて、聖女を偽物だと言って処刑するつもりだったとか。


 そうして考えられていた篭絡計画でしたが、私が王子を無視したことでへそを曲げたようで、急遽生贄コースに変更することにしたそうです。『あんなやつ、いらない』との王子の台詞で、それじゃあ仕方ないから地の果て巡礼に出して、そのまま生贄にしちゃおうという方向になったけれど、内容が具体的に決まっていないため、色々バタバタしているのだとか。

 いや、無視したって言いますけれど、王子だけを無視したわけではなく、私には全員の姿が見えなかっただけなのですが。そんな理由で『あんなやつ、いらない』なんて、あまりにひどい。どれだけ自分の顔に自信持ってたんですか。あ、でも確かに、ガイルさんはとても美形です。この血筋だったら、昨日いた王子も美形だったのかもしれませんが。それでも、そんなことを言い出すようでは、人間性は酷いということですよね。


 とりあえず生贄コースでは、お金を得るために最低限のお披露目はするけれど、見目麗しくないから各地巡礼は不要という考えになったということですか。それで会議の場で色々話が違うと不満が出ていたわけですね。野太い声の人が怒っている感じがありましたが、あの声はおそらく軍人さんだったということでしょう。

 確かに、街中巡礼の護衛と、危険極まりない地の果て巡礼の護衛では、人選から何から全部変わってしまいますものね、文句を言いたくなるのも納得です。


 しかし…、聖なる力と指定した魔法陣で呼ばれたから、私には聖なる力がある。魔獣が増えているのは聖なる力が減ってきたから。だから、地の果てにある祭壇に私を捧げれば魔獣は消えるはず。という安直な三段論法による生贄って、あまりにひどすぎる気がします。

 因みに何故地の果てに祭壇があるのかというと、実はそこは侵食されてしまいましたが、以前は神殿の聖なる祭壇の一つがあった重要な場所らしいです。なので、汚れた地の果てでも、その場所なら神へと祈りが届きやすいんじゃないのか、ということらしい。


 うーん。聞けば聞くほど、あまりに勝手すぎますよね。特に、最初篭絡計画だった時は、いるだけでいいと思っていたんでしょ? 何故それを生贄という形に変えようと思ったのでしょう。私、それほど不要でした?

 まぁ、囲おうと思わなくなったから、下手にどこかで何か話されるよりもさっさと死んでもらった方が神格化できるしOKとか思ったんでしょうね。発想が軽すぎて泣けてきます。


 でもですね。聖なる力と指定した魔法陣で呼ばれた人間だから、聖なる力を持っているはず、と一方的に決めつけているのは本当に怖いことですよね。あ、でも、魔獣が減らない可能性も考えているということは、やっぱり信じていない? 支離滅裂な考え方に、付いていけません。

 なにより、世界の危機だというのにやろうとしていることが、下種なわりに姑息な気がするんですけどね。こんなので、本気で世界の危機を救う気があるんでしょうか。


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