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3.初めまして、幽霊さん



 結局会議は紛糾したままで話は進まず、とりあえず一旦解散となって、私はまた手を引かれて元いた部屋へと戻されました。とはいえこれは建前で、きっと私を抜きにすることで、彼らは具体的かつ卑劣な手段を話し合うのでしょう。


 というか、なんのために私を呼んだのでしょうかね。昨日召喚した時に来ていない人たちもいたでしょうから、今日は顔見せのためかもしれませんが、私からは誰も見えないので何もわかりません。それに、誰も私に挨拶するでもなく、ただぶつくさと文句を言う方々ばかり。

 私はどなたの名前もわかりませんよ。そして私の名前も聞かれておりません。初対面ならば、まずは最初に名を名乗るものではないんでしょうかね。


 彼らの態度が自分勝手すぎて、もう、何も考えたくないです。とりあえず、泣きたい気持ちはぐっと我慢をしました。あの会議の場で、彼らの前で泣き顔を見せるのは、絶対に嫌だったのです。

 彼らには負けたくない。どうすれば逃げ出せるかは分からないけれど、何とかして一矢報いてやります。


 そう強く思ったら、グゥとお腹が泣きました。そう言えば、朝起きてから、私食事してないんですけど。会議もそれなりに時間が掛かりましたし、一旦解散というのはもしやお昼休憩の時間?

 この世界が24時間周期なのか分かりませんが、私のお腹の鳴り方的には、既にお昼過ぎの気がします。お腹すいた…。

 でも、手を引いてくれた人は何も言ってませんでした。もしかして私の食事って忘れられてます?


 はぁ、と一息ついて部屋の中を見回しました。せめて何かおやつでもいいから置いてないかしら、と思いながら、まずはリビングを見渡します。勿論、何もありません。

 さすがに寝室にはないよね、と思いつつも念のために寝室に向かいました。おそらく何もないことでしょう。…と思ったら、ありました。天井近くにふわふわと浮かぶものが。


 …えーっと。私の目は、とうとう可笑しくなってしまったのでしょうか?

 人です。人ですが、浮いてます。空中に。


「は、初めまして?」


 こういう時、どう挨拶すればよいのでしょうか。この世界では、人が空を飛ぶのは当たり前だったりするのでしょうか。そして、魔導士さんたちが、私が皆さんを見えるように何かしら方法を考えてくださったりしたのでしょうか。

 でも、あの会議の様子を見るに、私のために何かをしてあげようなんて気持ちは全くなさそう。だとしたらこの人は誰で、何故空中に?


『こんにちは』


 にこやかに微笑みながら、空中に浮かんでいる青年が答えてくださいました。うん、神々しいくらいに美形です。そして髪色が綺麗な水色。こんな色合い、初めて見ました。さすが異世界。


「えーっと、魔導士さんとかですか? 私が皆さんを見ることができるように、何かしてくださったのでしょうか」


 そんなことはあり得ないだろうと思いながらも、それでも異世界で初めて人の姿を見ることができたことに嬉しくなって、少し勢い込んで話しかけてしまいました。

 でもその方は、悲しそうな表情になって答えてくださいます。


『ごめんね。僕は魔導士とかじゃないんだ。というか、生きている人間じゃないの』


 なんとー!! 幽霊さんでした。っていうか、幽霊さんなら見えるって、この世界どうなってるんですかね?

 そんな私の驚きが思いっきり顔に出ていたのでしょうか、彼はこの世界のからくりを教えてくださいました。


『この世界は昔、異世界からの襲撃を受けたことがあったんだよ。なんでも、向こうの世界で女性が病気にかかってバタバタと亡くなったとかで、こっちの世界の女性を軒並み連れて行こうとしてさ。それに反撃しようとした男性たちは殺されるし、おかげで一時期はかなり人類が減ってしまって大変だったんだけど。で、その後向こうの世界の神からお詫びということで、今後異世界の人間に見つからなくなる特別な木が送られてきてね。君たちの世界で言う、光学迷彩というものになるのかな。その木のエネルギーを体に浴びることによって、生きている間は異世界の者から見えなくなっているんだ』


 突っ込みどころが満載で、どこから聞いていいのやら、ですが…。まず一つ。


「異世界の神様ってお詫びの品持ってくるものなんですか?」


『自分の管轄している配下がとんでもなく悪いことしたら、謝るのは筋でしょう』


 確かにそれは正論なのですが。神様ってそんなホイホイよその世界に行ったり来たりするものなのかしらって考えたら、ふと疑問に思いました。

 地球の場合、もし異世界にそんな襲撃をしたとして、謝りに行く代表となる神様って誰になるんでしょう?


「普通神様って、一つの世界にいっぱいいるものじゃありません?」


『え? 普通一つの世界は一柱の神が治めるよね。全能神とか呼ばれるものが。補佐で配下に何柱かの神が付くことは多いけど』


 あー、やっぱり根本が違う気がします。


「えーっと、私の世界というか、私が住んでいた国の中だけで八百万の神がいますよ」

 

 幽霊さんの目が点になってしまいました。あ、やっぱり衝撃受けてる。外国の人も、日本に神様が八百万もいるという話を聞くとびっくりするって言いますものね。道端の石だったり、九十九神みたいに長く使われた道具だって神様になりますからね、日本は。

 そんな話をしたら幽霊さんは、項垂れてしまいました。あぁ、神様というものに対する感覚がここまで違うのね。


『中心となる神はいないのかい?』


 難しい質問ですねぇ。キリスト教とかなら一神教でしょうけれど、そして信者も多いでしょうけれど、それが地球全体の神かと言われれば違うでしょうしね。一神教の宗教も多いのかもしれませんが、どこか一つの宗教を取り上げて答えるのも違いそうですし。

 そうなると、日本人である私の感覚からすると「多分いないんじゃないかしら」としか答えられません。まぁ、強いて考えると、10月に出雲に神様が集まるし、出雲の大国主大神が日本では主神になるのかしら。でもねぇ、勝手なイメージだけど、日本の神様って神在月には神様サミット開いているけれど、基本はお酒飲んでどんちゃん騒ぎしている気がするし。そう考えると主神かどうかも関係ない気が。でもこれって日本人の感覚で、地球全体の答えじゃないですしねぇ。


 異世界カルチャーにびっくりしすぎたのか、幽霊さんは頭を抱えちゃいました。外国人だけでなく異世界の方も驚かす日本の八百万の神様たち、すごーい。


 でもですね。幽霊さんがこちらの世界にびっくりしているように、私も異世界のお話にびっくりしているんですよ。

 光学迷彩って、なんかテレビで聞いたことあるなーくらいでしかありませんが、光を屈折させて云々とかいう奴ですよね? あれってSFだとばかり思ってました。…あ、異世界に召喚されてる時点で、既にSFと言えばSFなのかも。

 でも、光学迷彩のエネルギーが出る木とかいう摩訶不思議なものって何ですか。さすが異世界。地球の常識なんて通じないのだと如実に感じますね。そして、そんなものをお詫びとして持ってこれる世界もすごいですが、何より他の世界を襲撃しようと考える世界も訳が分からない。この世界だけでなく、そっちの世界も善なる心薄れてたんじゃないですかね~。


 あ、でも、私もそのエネルギーを浴びれば、皆さんのお仲間になってお姿も見えるようになれるのかしら。

 そう考えたので頭を抱えていた幽霊さんに質問をすると、幽霊さんは顔を上げて、申し訳なさそうな顔をしました。


『ごめんね。そのエネルギーは、生まれた時から浴びていないと無理なんだ。この世界の人間だという証明でもあるからね。今からはどれだけ浴びても無理なんだよ』


「じゃあ、今後どんなに魔法陣を修正したとしても、異世界から現れる人は皆さん、ここの人たちの姿を見ることができないってことですよね?」


 その前に、勝手に召喚すること自体を止めていただきたいですけどね。明らかに誘拐です。


『そうなんだよ。それ以前に、召喚自体もうさせちゃいけないことだけどね』


 その通り。よくわかっていらっしゃる。召喚ダメ、絶対。


「でも、召喚に携わっていた皆さんは、そんな光学迷彩の木のことなんて知らないんじゃないんですかね? 少なくとも、私が相手の姿をみえないということに驚いているようでしたし」


『うん。かなり昔の話だからね。王家の文献にはちゃんと残っているはずだけど、最近はきちんと見てないのかもね』


 さらっと時代を感じさせる台詞を吐いた幽霊さん。王家の文献のことも知っていらっしゃるということは、実はかなり身分の高い方だったりしたのかしら? と、思わず声に出して質問してしまう。


『うん。それなりにね』


 にっこりと笑う幽霊さん。う、笑顔が尊い。

 とりあえず、幽霊さんであっても、顔を見てお話ができる人? ができたことに、ホッとしました。一人じゃない、ということに安心できたのって久しぶり。


「私、これからどうなるんでしょう」


 話し相手ができたからか、今まで我慢していた言葉がつい出てしまいました。ついでにボロッと涙も。彼らの前では泣き顔は見せたくなかったのですが、この幽霊さんの前では我慢しきれなくなりました。世の中は甘くないってことは十分に分かっていますが、それでもあまりに理不尽なことに巻き込まれてしまうと、悲しさが募ります。


『…ごめんね。あいつら、君を生贄に使おうと思ってるらしい』


 浮かんでいた幽霊さんがふわふわと近づいてきて、そっと私の目元の涙を指先で払ってくれました。え、幽霊さん、さ、触れますよ?


『あぁ、やっぱり触れることができたね』


 やっぱりって何ですか。やっぱりって。


『君が僕を見ることができるから、きっと触れるのかなーって思ってたんだ』


 見ることができたら触れる。どんな理屈ですかそれ。というか幽霊を見ることができる人って、幽霊を触ることもできたんですか! それってすごいホラーだと思いますが。

 いえ、この幽霊さんは血だらけとかになってませんから、全然ホラーではないんですけどね。スタイルもよろしくて、とても見目麗しい方ですし。うん。とっても目の保養、…なんて悠長なこと言ってられないのですが。

 そして私、やっぱり生贄なんですね。そうだろうと思ってましたが、他者から言われるとやはり胸が痛くなります。


『大丈夫。そんなことはさせないから。ちゃんと助けるよ』


 ほ、本当ですか? 幽霊さんに何が出来るか分からないけれど、それでもこの世界で会った(というと語弊がありそう。声を聞いた?)中で、唯一信頼できそうな人というか幽霊さんですもの。信じます。


「せめてお名前、教えてくれますか? 私は、佐藤あずさって言います。あずさって呼んでくださいね」


 挨拶は大事。幽霊さんって呼ぶのも失礼だろうし、お名前を知りたい。


『僕の名前は長いからなー。ガイルでいいよ』


 ガイルさんですね、覚えました。それなりに高い身分だったと言ってますし、先ほどからやらかした人たちの代わりに私に謝っていることから、きっと過去の王族の方ですね。それならば、昨日聞いた王族の人みたいに長い名前だったりするのでしょう。確かにそんなに長い名前を言われても覚えられませんもの。短くしていただいて助かります。


「ガイルさん、よろしくお願いします」


 しっかりを頭を下げて、謝意を伝えます。どういう風に助けてくれるかはわかりませんが、それでも唯一私の見方になってくれそうな人。それが生きている人間でなく、幽霊さんだということが悲しいですが。何故に幽霊さんの方が心が優しいの。

 あぁ、だから善なる心が薄れてきたって言われてるのね。昔の人は、きちんと善なる心を持っていたということですか。


 生きている人間の皆さん、善なる心を取り戻そうとしてくださいよ、本当に!


誤字報告いただきました。ありがとうございます。修正いたしました。

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