ep.18 闘技大会 リリアーナvsヴォルス
右の選手入場口から出てきたリリアーナは、改めて会場の広さを実感する。
円形に広がる闘技場は、どこを見渡しても人で埋め尽くされていた。
一万人という目が、この闘いを観ている。
そんなリリアーナを他所目に、左の選手入場口からはヴォルスが観客に向けて手を振り、余裕のある態度でリリアーナの前へ立ち塞がった。
観客の99%はヴォルスの勝利を疑わない。
何故なら、ただの学生が最強の1人に勝てる訳がないと思っているからだ。
だからこそ、リリアーナは少し緊張から解れていたのかも知れない。
誰も知らない、負けて当然のリリアーナに興味がないから、観客の目はヴォルスだけにいっている。
そして、審判からの合図が……
「試合始め!!」
先ず、先手を取るのはリリアーナだった。
長く赤いストレートの髪に合わせた、赤の鎧ドレスを纏い、首に掛けたルビー石を、手に握り締めて力を込める。
ティリスとの訓練で、体内にある魔力を高めコントロールする基礎を極めつつあったリリアーナは、急激な成長を見せた。
無数の『炎火弾』を空中に出現させる。
どよめく会場と同じく、ヴォルスも驚きを隠せなかった。
訓練のお陰で、最大10弾までが出せる限界だったが、魔力量の強化により最大50弾の『炎火弾』を展開する事に成功した。
「手始めに行くわよーー!!」
空中に展開された『炎火弾』は、リリアーナの振りかざす手の動きに連なって、ヴォルス目掛けて縦横無尽に襲いかかる。
ヴォルスは左右に避けながら、剣を使い一玉一玉を破壊していく。
今のリリアーナなら、大鬼ぐらい程度は、簡単に討伐する事が出来るだろう。
そして、走り回るヴォルスは、次第にある一点の角に追い込まれる。
だが、リリアーナの狙いは『炎火弾』に注目してもらう事が第一条件だった。
いくら魔力量を増やしたからいっても、自力ではヴォルスとは雲泥の差があるのは至極当然の事だが、だからこそ『炎火弾』とは別の、奇策が必要だった。
だが、その奇策の火の魔力弾をヴォルスの真上に展開するのに、リリアーナの現魔力量では、準備をするのに5分~10分は掛かる。
それまでは、気付かれず『炎火弾』を撃って撃って撃ち続けるしかない。
すべての『炎火弾』を弾くヴォルスも、次第に息が上がっていた。
「お嬢ちゃん、ハァ、、ハァ、強ぇ~じゃないか、ハァハァ~、俺も歳か?」
剣を大地に突き立てるヴォルスは、柄の部分に両手を支えて体を休ませていた。
「いえ、本番はこれからですわよ!」
うまく奇策は気付かれずに、完成した魔力弾をヴォルスの真上に堕とす。
『圧炎弾』
『炎火弾』とは比べものにならない程の大きな火球が、ヴォルスの真上に降り堕とされる。
完全に虚をつかれたヴォルスは、自身の完全防御結界を張る『守護法陣』を展開する時間も無かった。
「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!! こんなもん、根性だろうがーーーー!!!!!」
剣の平で『圧炎弾』を受け止めるヴォルスは、自前の力でスキルアイテムなど使わずに火球を弾き飛ばした。
これが最強の1人と言われた、ヴォルスの力でもある。
「うそ……私の最大の一撃よ!? 剣一つで受け止め切れるなんて……」
自分の意思とは真逆に、一歩、二歩と勝手に後退りするリリアーナ
「悪いなお嬢ちゃん、俺も色々な人の期待を背負ってるもんでな、こんな一回戦で負ける訳に行かねーんだわ」
目の前に居たヴォルスが突如、消えた様に見えた。
一般の観客からすれば、いきなり瞬間移動でもしたかの様に、リリアーナの背後へ立っている様に見えるが、実際は高速移動のスキルアイテムを使っている。
ティリスの『瞬歩』に比べれば、ただの高速移動に過ぎないが、初めてみる者からすれば脅威にしかならない。
だが、リリアーナは知っていた。
ティリスとの訓練のお陰で、ギリギリ目で追いつけるスピードだと。
ヴォルスの剣がリリアーナを捉えた瞬間、剣と剣のぶつかる甲高い音が『キーン!』と響いた。
「マジかよ……この攻撃を止める女の子が居るとはな」
ヴォルスは本当に吃驚していた。
過去、この攻撃を繰り出して、初見で見切れた者は片手で数えれる程だった。
「えぇ、こう見えても……」
っと、言った瞬間、、、
今のを受け止めたという安心が、時間にしてみればほんの数秒にしかすぎなかったが、その一瞬の油断を見逃さないのが、一流の冒険者だ。
更にスピードを上げ、もう一度、リリアーナの背後に周り、剣を喉に突き立てる。
「ま…参ったわ、私の負けよ」
観客は何が起こっているのか分からなかったが、最後の最後に、ヴォルスがリリアーナに剣を突き立てた所で、試合が終わったのだと歓声を上げた。
「ふぅ~、1回戦目からキツ過ぎだろ」
そんな事を言いながらも、まだ、余裕を残すヴォルスだった。
「一回戦の勝者は、ヴォルス選手です!!」
審判はヴォルスに向けて手を上げ、勝ち狼煙を上げた。