ep.17 闘技大会 開催
闘技大会の当日、王都は熱狂の渦に巻き込まれていた。
昨日まではただの道だったのが、肉や魚に甘い匂いのするお菓子などの屋台や、提灯などを灯す飾りつけがされている。
そして、王都ラングリーンの国旗が高々と掲げられ、その異様な熱気は、王都の四方全部を巻き込んだ祭りそのものだった。
ティリスはサラの屋敷を出て都立聖トロイオンス学院に向かう。
不思議な事にティリスは緊張をしていた。
闘いに行く為に、こんな緊張など前世でもした事はなかったからだ。
不意に肩を叩かれるティリスの後ろには、リリアーナが立っていた。
「お……おはよ、ティリス」
「お……おう、おはようリリアーナ」
どこか、ぎこちのない2人は昨日の事を思い出していた。
「あんた、そんなんで大丈夫なの?」
「あぁ……そうだな」
ティリスは今日、やるべき事がある。
それは、キーツ戦を絶対に勝たなくてはならない事
すなわち、プラムを救い出す事だった。
ティリスは気合いを入れ直す為、両手を頬に当て、そこから手を離し勢い良く頬を打った。
『ばちーん』っと大きな音は、そこに居た誰もが振り返る程の大きさで、ティリスの頬にはその痕がくっきりと残る。
「うわ~、痛そー」
リリアーナは、その痕をまじまじと見ながら目を細めた。
そんなリリアーナも、ティリスまでとはいかないが、自分にも喝をと、同じ様に頬に気合いを入れる。
「痛っ……、あんた良くやるわね、あんなきついの」
「気合い入れるなら強くしないとね」
2人はそのまま、試合会場のある闘技場へと向かった。
都立聖トロイオンス学院は広い。
貴族の屋敷なら10棟は余裕で建つであろう、広大な敷地面積を保有している。
生徒たちの練習場や、今回の入学試験などに使われた闘技場は、延べ1万人は入れる程の座席数を確保していた。
「しかし、いつみても馬鹿でかい施設だよなココって」
「それは、4大貴族に王都が絡んでいるだから普通よ」
2人は話しながら、闘技場内部へと歩いて行く。
既に何人かの出場選手が揃い、その中にアレンの姿も混じっていた。
アレンはこちらに気付き歩き始める。
複雑な顔をして、ティリスの肩を叩き『必ず、勝ち残れよ』っと、一言だけ言い残しその場を立ち去る。
ティリスは言葉の意図を読み取れずにいたが、先ずはトーナメント表を確認する為に、リリアーナと見に行く事にした。
「……っげ!? 最悪の最悪だわ、1回戦目ヴォルスさんなんだけど?」
リリアーナは対戦相手に落胆する。
「ん~、学生の大会だよね? ……なんで、ヴォルスさんが出場してるの?」
学生でも無ければ、闘技大会に出る程の方でもないはずのヴォルスが出場している事に疑問を抱くティリスにリリアーナは
「あ~…多分、それ、学生だけの闘技大会じゃ盛り上げにかけるとかで、無理やり一般参加枠をねじ込んだやつだわ……最悪、なんで私が最初の生贄なのよ、、、っで、ティリスは?」
「そっか……最初の対戦相手はキーツだよ」
語尾に力が入るティリス
「でも、3回戦目はリリアーナかヴォルスさんが相手だ」
意気込むティリスにリリアーナは問い掛ける。
「本当にキーツに勝てるの?」
心配そうな顔でティリスを見つめる。
「必ず、プラムを救う」
「そう……なら、私もヴォルスさんに勝つ!」
後ろから、トーナメント表に向けて足音が近づく。
一歩一歩と近づくその足音に、重圧感を乗せる。
ヴォルスの力は本物だ。
現最強の1人と数えられているだけあって、入学試験の時とは違い、既に戦闘モードに入っているヴォルスは、他を寄せ付けなかった。
纏っている空気が1人だけ違うこの空間に、リリアーナは耐え切れるかと思ったが、流石は俺があの後に鍛えた甲斐あってか、ヴォルスに物怖じしていなかった。
「ほう、お嬢ちゃん試験の時より腕を上げたね、この重圧感に耐えれるなんて」
そう言って、ヴォルスは圧を少し緩めた。
「ヴォルスさん、私、負けませんから!」
堂々とヴォルスに宣戦布告をする。
「いい目だ、だが、俺にも負けれない理由があるんでな、手加減はできないぞ」
ヴォルスは後ろに居たティリスに視線を移す。
「俺も負けるつもりはありません」
「いやー、才能ある後輩が俺たちを追いかける姿は、たまんねーな」
その後の言葉は、真面目なトーンで忠告込めたヴォルス
「気を付けろよ、俺以外にも一般参加者が何人か居る、きな臭いやつもいるからな」
「分かりました」
「じゃな、控室に向かうわ」
っと、ヴォルスは自室の控室へと歩いて行く。
また、2人になったティリスとリリアーナは、無言の合図で控室へとそれぞれ向かう事にした。
それから半刻が経った頃、控室の真上では、主に式典等で使われる音楽隊達が闘技場の上で、荒々しくも勇ましく力強い音色を奏で出場選手達を鼓舞する為に演奏をしている。
それは客席にも伝わり、これから始まる闘いに全神経を研ぎ澄まさせていた。
音が鳴り止むと、1人の男が現れる。
「皆さん! 本日は闘技大会にご来場頂き、誠にありがとうございます!」
客達は、その男の言葉一つ一つに耳を傾ける。
「闘技大会には、これからを担う若者や、最強の冒険者、まだ見ぬ強敵が揃いました! 目を離す事の出来ない闘いをご覧下さいませ」
客達のボルテージは既に最高潮だった。
「それでは、まず、ルールの確認を致します」
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『試合ルール』
1.時間無制限ノックアウト制
2.場外10カウント制
3. 武器・スキルアイテムなんでもあり
4.生命の危機の場合、審判による試合ストップ
5.命を絶った場合、即座に没収試合となる
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「そして、トーナメント表を発表致します」
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第一試合 リリアーナvsヴォルス
第二試合 カルステンvsブルックナー
第三試合 ティリスvsキーツ
第四試合 エーランドvsイェンネフェルト
第五試合 アレンvsクレーメンス
第六試合 フレスコvsアルデギーリ
第七試合 ヨナタンvsクレウス
第八試合 ロレンソvsニーグル
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客達はトーナメント表の名前を聞くなり、大きくどよめく、ヴォルスがAランク最強の1人がこんな所で闘いを披露するなどあり得ない事だがらだ、他にも聞き覚えのある冒険者の名前がズラリと並ぶ
「それでは、皆さま、お待たせしました! 選手の入~~場~~です!!」
スキルアイテムを持った、サポート系を得意とする者達が客席ギリギリの所で、被害が出ない様にシールド張る。
そして、入場口から舞台までの花道に、火が灯り道となる演出もしていた。
リリアーナが先に舞台に立ち、遅れてヴォルスも舞台へと立つ。
その姿に黄色い声援が止まらなかった。