ep.16 リリアーナの秘密
ティリスは、ふと目を覚ました。
「寝てたのか……最近、色々あったからな」
王都ラングリーンに来て一ヶ月は経っただろうか……
ドルイド村を出てから色々な事が起きた。
アスカとドルイド村を出て、最初にリリアーナが盗賊に襲われている所を助け出した。
だが、今思えばリリアーナもルビー石を持っていたのだから、あんな盗賊ぐらい対処出来たのでは? っと、思っていたが、あの時は気が動転していたとかで、酷く怯えていたのを思い出した。
リリアーナはピューレ家の次女で、スキルアイテムの扱いに長けていた。
長けていたと言う事は、相当な魔力量を持っている事が分かるのだが、今の時代の人達にこの魔法というものをどう説明したら良いのかを迷っている。
実際、サラさんやアスカさんにこの事を話しても、分かる者はいなかった。
それから、ラングリーンに一緒に乗り合いをして、俺が流浪民だと知った時のリリアーナの顔は、それはそれは、流民と呼ばれサラさんの家に着くまで大変だった。
だが、サラさんとの出会いは、リリアーナにも凄く良いことをもたらす。
ピューレ家は、大陸の中でもスキルアイテムに精通している地方貴族の一つだった。
今やピューレ家とシスティーヌ家は良好関係を築いている。
入学試験、抑えていたつもりだったが、やり過ぎてしまった。
スキルアイテムの力を解放する為の魔力量検査だと思うが、水晶は2度も割ってしまい、的当て試験では軽く魔法を使って嘘呼ばわりされ、現最強クラスのヴォルスさんとは、どちらも手を抜いていたとはいっても引き分けにもつれこむ始末……。
そのせいで、アレンって子と闘技大会で闘う事に……
入学式の日にプラムと出会い、泣いていたプラムを助けたいと、リリアーナに相談すると快く助けてくれた。
俺は今日、キーツと闘う。
もしかしたら、誰かの為に闘うって言うのは、前世から数えても初めてなのかも知れない。
確かにあの時代を救ったのは俺だ、でも、国の為、世界の為なんて高尚な気持ちなんか一切無かった、ただ、自分の力を誇示したかっただけだ。
そう言う意味では、今を思えばこの闘技大会は必然だったのかも知れないと、思うティリスだった。
不意に部屋の扉を2回ノックされる。
「ティリス選手、出番です。選手通路に集合してください」
いよいよ、試合の始まりだ。
◆◆◆◆
時は、闘技大会の数日前に遡る。
俺はリリアーナと、今回の件をサラさんに報告する義務がある為、入学式の後、屋敷に戻っていた。
「まだ、サラさん戻って来てないな」
「そうよね、都立聖トロイオンス学院のバックアップをしているのが、4大貴族の方々なんだし学院長とも話をしたりと忙しいんだわ」
2人は客間と呼ばれる部屋で、サラ達が帰って来るのを待っていた。
ティリスは1人掛けのソファーに座り、リリアーナは3人はゆうに座れる程の大きなソファーの端に座り、肘掛けに頭を乗せて横になる。
「リリアーナって、本当にお嬢様感ないよな」
「なに? ケンカ売ってんの?」
キッと、ティリスを睨むリリアーナ
「違う違う、そのなんだ……変な意味じゃなくて、俺みたいな流民にも分け隔てなく接してくれるだろ? 今も行儀良く座るっていうよりリラックスしてるっていうか」
「まぁ……あんたが悪いやつじゃないって知ってるし、実は私、本当はピューレ家の人間じゃないんだ、いわゆる捨て子でね、5歳までは教会で育てられてたんだけど……」
静寂のあと、リリアーナは淡々と語り始める。
今から15年前、ある教会の前に産まれたばかりの子供が、扉の前に捨てられていた。
『この子を、お願いします』
っと、置き手紙を残して、、、
その教会は孤児を育てて、里子を探す役割も担っていた。
食べ物は基本自給自足で、教会の裏庭にある小さな畑で採れた物を食べ飢えを凌ぎ、多少なりにも1人で生きていける様にと勉強も教えている。
当時、名前の無かったリリアーナはレナと名付けられ、他の孤児達と仲良く過ごす日々だった。
当時からリリアーナの魔力量は相当なもので、簡単な生活基準を使うルビー石の扱いは、どの孤児よりも群を抜いていた。
それは、瞬く間に噂になり、リリアーナが5歳になった暑い夏の日、ピューレ家にみそめられ養子として引き取られる事になる。
レナからリリアーナ・ピューレへと名前を変えて。
ピューレ家に既に、長男と長女の2人が居た。
それで、何故、リリアーナが養子として引き取られたか、それは、2人の子供にはルビー石を扱う才能が無かったから、そこで目を付けたのがリリアーナだった。
ピューレ家はルビー石を多く所有し、様々なルビー石を持っていたが、その中でも超希少なスキルアイテム『炎』を操るルビー石を所持していたが、誰にもその扱いが出来ずにいた。
そこで、リリアーナはそれを使える才能を秘めていると思ったそうだ。
「それからの10年間は必死だったわ、した事も無い礼儀作法や貴族のマナーに、そして、このルビー石の扱いの特訓に……」
リリアーナは、その託されたルビー石を見つめる。
「それでね、もう2度と流民みたいになるものか! って必死だったわけ、だからアンタを見た時は心底、昔の自分を思い出したみたいで嫌だったの……ごめんね」
「そっか、それであんな態度だったのか……いや、理由が分かれば全然、大した事ないさ」
「でも、あんたと色々過ごしてる内にね、あー、、こいつは違うなーって、思ったってわけ」
「そっか、まぁ知らない間に誤解が解けてたんなら、良かったよ」
笑うティリスにリリアーナは、少し顔を赤らめた。
「でも、私の方が貴族なんだから、舐めた口聞いてるとお仕置きするわよ!」
「あはは、それはそれはリリアーナお嬢様、申し訳御座いませんでした」
っと、ティリスはソファーから体を起こし、リリアーナの前にひざまづく振りをした。
「そういう時はね、お姫様の手の甲にキ…キスをして…フレンチよフレンチ、寝ている私を起こすのが紳士の礼儀よ!」
「ま…マジか、そ…それじゃ……」
2人しか居ない空間、静寂が緊張を生み出し、自分の鼓動が……脈打つ鼓動がハッキリと聞こえる。
ティリスの口と、リリアーナの手の甲まで、距離は2センチも無い……。
真っ赤に染まるリリアーナの顔に、真上からしか見えないが、ティリスの耳は真っ赤だった。
そんな静寂を破る声が微かに聞こえる。
「サラ様、見て下さいティリス君が」
少し荒い吐息をしながら、アスカはサラへと伝える。
「んー…ティリス君、何を焦ったい事を……そこは男としてだなガツンと…」
ヒソヒソ話が聞こえてくる、それは良く見知った声だと気付くのに1秒も要らなかった。
2人は客間の入り口を見ると微かに開いていた。
閉めたはずの扉が自然と開くはずはない。
2人は顔を見合わせ、更に真っ赤になった顔と大きな声を出した。
「「うわぁぁぁぁぁぁー!!!」」
直ぐ様に、2人は距離を取る。
リリアーナは近くにあったクッションで顔を覆い、ティリスは入り口で隠れ見ている2人をつまみ入れ言い訳をしたが、それは後の祭りだった。
「ふむふむ、そっかそっか、2人はそんなに仲良くなったんだな」
サラは頷く。
「いや~サラ様、なんか青春って良いですね」
アスカは頷く。
「だ~か~ら~!! 違うって2人共! これには訳が……」
ティリスは何か言おうとするが、どの言葉も2人には通じなかった。
リリアーナは立ち上がり
「サ…サラ様、今日は失礼致します、ティリス、あの件の事は任した!」
リリアーナはサラに簡易のお辞儀をして、直ぐ様に屋敷を後にする。
「なんだ、つまらん……あのままリリアーナ嬢をからかって酒のつまみにしようとしたのに」
ティリスは心の中で『最低だこの人』っと呟く。
それから、少しティリスもイジられたが、サラが『飽きた』っと言ったので、話を切り出す事にした。
そのまま、3人は客間で入学式の出来事を、ティリスは包み隠さず話す。
「なるほど、ラトランド家の長男と女を取り合っていざこざか……ティリス君も隅におけない男だな」
サラはボケた訳ではなく、真摯に受け答えをしている。
「サラさん、面白そうとか思ってません?」
ティリスは確認を取った。
「私はいつだって真面目だ、たがしかしラトランド家とはな……今回ばかりは、ちょっと厄介な相手になるな」
「サラさんでも、そうなんですか?」
少し考えるサラ
「ティリス君、4大貴族の事はもう分かっているな?」
「はい、それは……」
システィーヌ家を始め、王都ラングリーンを支える4大貴族の影響力は強い。
王都ラングリーンを中心とし、東西南北に4大貴族の屋敷が建っている。
その四方の街町や、流浪民の監視なりをする役割を担っている。
「ラトランド家はコッペリン家と強く結びついている、即ち……」
言葉を渋るサラ
「コッペリン家と、事を構えるかも知れないと」
ティリスはその引っかかる言葉を口にした。
「分かっているなら良い」
「すいません、でも、俺はキーツを許す事が出来ないんです」
強く握る拳をサラは見て、本気なんだと感じた。
「君がそこまで本気なら、私は全力でサポートさせてもらうよ」
「サラさん! ありがとうございます」
勢いよく頭を下げるティリスにサラは笑顔になる。
「よせ、君の事は私が全力でサポートすると、あの時に決めたんだ、今更、貴族の1人や2人なんて気にせんよ」
「サラ様それでは、コッペリン家の事をもう少し探って参ります」
「いつも、すまないなアスカ」
「いえ、サラ様のお役に立てるなら」
アスカは早々と客間を後にした。
「コッペリン家は、なにやら、きな臭い事をしようとしている情報を手に入れててな、今回はその件を突くのに利用させてもらうよティリス君」
「分かりました」
突然、真面目な顔をしてティリスを見つめるサラ
「それで、そのプラムちゃんとやらは可愛かったのか?」
にまぁ~っと、笑うサラの顔を見た瞬間、ティリスはため息を漏らす。
「結局そこですかサラさん?」
「そらそーだろ? そこまでして、貴族に喧嘩を売るんだ、それ相応の理由があるだろう? えー?」
ティリスは見落としていた、サラがさっきから直々と何か呑んでいる事に……そうアレは『酒』だ!
「サラさん…酔ってるでしょ!?」
おかしいとは思っていた。
部屋は暑くないのに、サラさんの顔が赤い事に何故、気付けなかったのか、いやそれより、アスカさんが直ぐ様にこの部屋を出て行ったのかを……それは、からみ酒に付き合わされるからだ。
「その辺の所…しっかり聞かせてもらうぞー!! ティリス君!」
…………、その日、夜遅くまで客間の光が消える事は無かった。