ep.10 なんで、こんな事になった
盗賊に襲われていたリリアーナは、都立聖トロイオンス学院に向かう最中だったが、そこにティリスとアスカが絶体絶命の窮地を救ってくれた。
同じ都立聖トロイオンス学院に向かうという事で、リリアーナと一緒に行動する事となる。
「この度は本当にありがとうございました、ピューレ家としてシスティーヌ家には、感謝の意を述べさせて頂き来ます」
揺れる馬車の中でリリアーナは2人に向けて礼を述べる。
とはいえ、礼儀を欠いては家の信用問題にもなるからだ。
王都ラングリーンには、身分格差というものはある。
王都ラングリーンの国王を頂点に、王国法皇院や4大貴族、そして地方貴族、上流国民や下流国民に流浪民等とピラミッド化された身分格差があった。
ティリス達、ドルイド村はいわゆる流浪民の位置になる。
リリアーナの様なピューレ家は地方貴族、街を治めている代表家という事だ。
だが、その上に位置するシスティーヌ家は古くから王都に多大なる功績を上げ、4大貴族の1つとして数えられている。
「でも、こんな所で有名な家名の方に出会えるとは、本当に幸運でしたわ」
目をキラキラと輝かせながら、両の手を握りしめて感涙していた。
「いや、私はサラ様の従者ですし、この子はドルイド村の子なので、現在の格と言えばリリアーナ嬢が1番上になります」
「っえ? ドルイド村……? 聞いた事も無いわね?」
「それはそうでしょう……ドルイド村はいわゆる流浪民ですからね、貴族の方達は聞いた事も無いはずですよ」
っと、アスカは説明した。
それを聞いたリリアーナのティリスを見る目つきが一変する。
「流民……!? 同じ空気を吸っているなんて、穢らわしいわ」
綺麗な布を取り出して鼻と口を被う。
「酷い言い方だな、助けてやったのに」
「それとこれとは別よ! 流民、口の聞き方に気をつけなさい!」
「っんだよ! 俺の名はティリスだ! 流民じゃない」
「ふん! 流民の名前なんて1人1人覚えてる訳ないでしょ!! 流民で十分よ」
アスカは2人のやり取りを水と油と例え、また、悩みの種が増えたと思った。
それから、なんとか3日間の旅は終わり、王都ラングリーンへとたどり着く。
「リリアーナ嬢、先ずはサラ様に今回の事を報告の為に証言者として来て頂きたいのですが、よろしいですか?」
「ええ、システィーヌ家の方に直接お会い出来るなんて嬉しい限りですわ、何でもお話しさせて頂きます」
一向はサラが待つ屋敷へと到着した。
大きな白銀の柵を越えて、大きな彫像が立つ手入れの行き届いた芝生が広がる庭。
真っ直ぐに進むとその先には美しい程に白く塗装され、格式張った風情のある邸が堂々と建っていた。
大きな扉を開けると先ず目に飛び込んで来るのは、大きなシャンデリアがぶら下がる大広間がある。
横から伸びる階段を見ると2階には扉がいくつもあり、そのうちの1つが開くと、サラは姿を見せた。
階段を降りてくるその仕草だけでも、お嬢様という事が分かる。
アスカとリリアーナはその場に跪く。
「アスカ、長旅ご苦労だった、ゆっくり休め」
「ありがたき御言葉、頂戴致します」
サラはティリスに向きなおる。
「久しぶりだなティリス君、大きくなったな」
「最後に会ったのが、4年前ですからね」
「そうか、4年か……そんなに経つのか」
サラの記憶はまだ、子供のティリスの姿だったが、今は背も伸び、体も前以上にがっしりとし青年として成長していた。
それに加えるとサラは女性として硬かった筋肉は女性特有のしなやかな腕へと、くびれていた体も少し肉が付いた様な気がする。
「やっぱり、剣はもう持ってないんですね」
「あぁ、こんな腕だ……それよりも筆の方が忙しくてな、そんな余裕もない所だよ」
「いえ、元気そうなサラさんを見れて良かったですよ」
サラはもう一つ視線を移す。
「それでアスカ、そこに居る女性は?」
「っは! 報告か遅くなりましたが、王都に向かう際に盗賊に襲われていた者を保護致しました、その後、確認を取るとピューレ家の方で、ティリス君と同じ都立聖トロイオンス学院の試験を受けるとの事で、お連れ致しました。」
「そうか、頭を上げるといいピューレ家の者よ、名は?」
「はい! この度はシスティーヌ家のご加護により命を救われ、誠にありがとうございました。ピューレ家の次女として生まれ、名はリリアーナと申します。以後、お見知り置きを存じます」
深々と頭を下げるリリアーナ
「そうか、それは災難だったな、ゆっくりと休まれるが良い、それでティリス君? やり過ぎていないだろうな」
サラの顔を見れないティリスは、視線を逸らし続ける。
「はぁ……アスカ、報告を」
「はい、盗賊10名程を瞬殺に……」
ティリスはアスカの目を見て『この裏切り者』と視線を送る。
だが、アスカは『サラ様に嘘などつけるか』という目をしていた。
「はぁ……まぁいい、君のやる事は、我々凡人には分からんからな」
リリアーナは3人のやり取りをみて、不機嫌な顔をする。
「サラ様、おひとつ質問をよろしでしょうか?」
「なんだ? 言ってみろ」
「何故、こんな流民に……4大貴族であるサラ様が普通に接しておられるのですか?」
「んー……そうだな、彼は私の命の恩人だ、それ以上でもそれ以外てないが……それに後見人として彼の面倒を見るのも私だ、つまり彼には…ティリス・システィーヌの名を与えている」
リリアーナの頭はパニックになる。
「正気ですか!? こんな流民に4大貴族の名を与える等と」
「それだけの恩でも足りないぐらいだ」
嘘偽りの無い眼差しでリリアーナと対するサラだった。
「……、分かりました、この件についてはこれ以上お聞きしません」
「そうしてくれると助かるよリリアーナ嬢」
間髪入れずにリリアーナは口を開く
「ですが! このままではシスティーヌ家として恥をかきます、このるみ……ティリスさんを私にお預け頂けませんか? 必ずどこに出しても恥ずかしくない紳士に仕立て上げます」
手を胸にやり、サラへと訴えかける。
「それは助かる。私も彼のマナーだけは、直さなければならないと思っていた所なのだ」
自分の知らない所で話が進んでいる事にティリスは、嫌な顔をした。
「っえ!! 俺、紳士なんかになる気ないぞ!! ちょっとサラさん」
「ティリス君、システィーヌを名乗るなら、それ相応の礼儀は不可欠だと思うぞ」
ニヤニヤしながらティリスを見るサラ
「絶対、楽しんでるだけだろう! ちょっとアスカさん助けて」
アスカに助けを求めるが直ぐに無駄だと悟る。
「とは言えだ、明日の試験に受からなければドルイド村に早急に送還だからなティリス君、頑張りたまえ」
サラは、大きな笑い声で自分の部屋へと戻って行った。
それには、アスカも付いていき大広間に残ったのはティリスとリリアーナの2人になってしまう。
「私も予約を取っている宿に行くわ、明日の試験頑張りましょう」
「……っあ、あぁぁぁ……」
色んな不安を残しつつもティリスは、『何でこんな事になったんだ?』っと、思いつつ明日の試験の為に体を休める事にした。