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皇帝陛下(16)はメイド(20)に夢中

作者: さじ


 初めまして!お久しぶりの方はお久しぶりです!

 私の名前はティア・ロートレック、年齢は20歳、職業は皇帝陛下の専属メイドでございます!


 実は私は子爵家の生まれで、一応は貴族の端くれでございます。

 ですがロートレック子爵家はすごく貧乏なお家で、領主であるはずの父が兄たちと共に自ら畑を耕し、自給自足することでやっと生活できるような状態でした……


 そのような事情もあり、少しでも家族の役に立つために13歳の時に宮殿でメイドとして働くようになりました。

 最初は宮殿のすみっこで掃除をしていた私は、幸運が重なり出世街道を大爆走し、今や皇帝陛下の専属メイド、これは実家の家族たちも鼻が高いはずです!


 ですが私は最近、ある一つの悩みを抱えております……


 それは婚期を逃しつつあるということです!


 貴族の結婚適齢期は20歳前後、婚約すらしていないのは焦る必要がある年齢です。

 弱小貴族とはいえ私も貴族令嬢……

 このまま仕事一筋で突き進んでいいものなのか、ちゃんと婚活を始めるべきなのか……非常に悩ましい問題です。


 幸か不幸か、私がお仕えしているルイ陛下はとても穏やかな方です。

 私に対してもとても親切にしてくれるおかげで、とても働きやすくて助かっております(しかも三食おやつ付き、昼寝休憩の時間もあり、残業もほとんどなし! お給金もとても多い!)


 つまり、私の労働者魂が、この最高の職場を手放してしまうのはなんだかもったいないと叫んでいるのです……!



 

 


 宮殿の一角、執務室で10代後半程度の青年が書類に囲まれて仕事をしている。


 端正な顔立ちに、それを彩るようなブロンドの髪とマリンブルーの瞳の美青年。

 書類を見つめる姿でさえも一枚の絵画のように美しい。


 彼の名前はルイ・アリフレート・トランド。

 12歳で皇帝に即位し、今日まで国家を守り続けている若き君主だった。


 仕事が一区切り付くと、彼は大きく体を伸ばす。

 時刻は19時、そろそろ夕食を摂る時間だ。


「ティア、夕食を用意してもらえるかな」


 ルイは側で控えているメイド__ティアに声を掛ける。


「ティアも夕食まだでしょ? 2人分用意して、一緒に食べようよ」


「はい! すぐにご用意いたします」


 ティアは笑顔で応えると部屋を出て行き、厨房へ向かう。


 ルイが執務に追われ、執務室で食事を済ませるときは必ずティアを誘う。

 それは2年前__ティアがルイに仕えるようになって間もない頃に「一人で食事をするのが寂しい」とルイがぼやいたことがきっかけで、いつの間にやら今日まで続く習慣になっていたものだ。


 ティアはかつて、ルイの姉であるイリーナ皇女に仕えていた。

 しかしイリーナ皇女は2年前に想い人と結ばれるためだけに皇女の地位を放棄して宮殿を出て行ってしまった。


 「私もついにお役御免ですね……トホホ」などととぼけたことを言いながら、実家に帰るために荷物をまとめていたティアを引き止めたのがルイだった。


「ティア、故郷に帰るくらいなら僕のメイドにならない?」


 恐らく当時の彼は、姉に忠誠を誓ったはずのティアが職を失い、ショックを受けている姿を見て、弟として責任を取ろうとしたのだろう。

 当然皇帝陛下自らの申し出を断れるはずもなく、ティアは皇帝陛下直属のメイドとして宮殿に残ることになった。


「お待たせしました〜!」


 ティアがワゴンを押し、食事を執務室に運び入れる。

 ルイはてきぱきと散らかっていた執務机の上の書類をまとめ、片付けていく。


 机の上から、一枚の書類が床に滑り落ちる。


 ティアはすぐにそれを拾い上げた。

 意図せずに、そこに書かれている内容が目に入る。

 それはこの国の有力貴族の令嬢たちの情報が記載されたものだった。


「ちょうどいいや、それ、捨てといてもらっていいかな」


 それだけ言うと、ルイは落とした書類に一切の興味を示さず、食事用のテーブルに腰掛ける。

 だがティアは、すぐにそれが何かを理解した。


「これはもしかして……ルイ様の婚約者候補ではないのですか!? 本当に捨ててしまって大丈夫なやつですか……?」

「ティア、早くしないと冷めちゃうよ」


 ルイはティアの心配には気にも留めず「お腹空いた」と呟く。


「ルイ様もそろそろ婚約者を決められるご年齢ですかぁ……ほんの少し前まではあんなにちっこくてかわよかったのに……」


 食事を配膳しながら、ティアはぼやく。


 ティアが初めてルイに会った頃、彼はまだ9歳だった。

 その頃はまだ遠くから見ることしかできなかったが、遠くからでもルイの存在感は圧倒的で、発光しているのかと思うほどの美少年は、ティアでさえもすぐにそれが皇太子のルイなのだと気付かされた。


 月日というのはあっという間で、あんなに小さかった少年が今では立派な皇帝陛下。


(成長期とは凄まじいもので、この数年でルイ様はすっかり男らしくなられて、身長も私よりずっと大きくなられて、嬉しゅうございます)


 もはや母親のような目線だった。


 二人は席につき、いつものように食事にありつく。

 普段は二人で談笑を行うのだが、今日のルイは大人しく、黙々と食事を摂っている。


(大人になるって、こういうことなんですねぇ……)


 ティアは感傷に浸った。

 ルイはその様子を、どこか不機嫌そうな顔で見つめていた。


 食事を終えると、ティアが食器を片付け始める。

 それを終え、再びワゴンを押して厨房へ向かおうとするのを、ルイは引き止める。


「ティア、」

「はい! いかがされましたか」


 ルイは懐から大きなダイヤのついた指輪を取り出す。


「わぁ、素敵な指輪ですね」


 キラキラと輝く指輪に、ティアは感嘆の声を上げる。


「母上の形見なんだ」


「ティア、手袋取って左手出して」

「……?」


 ティアはよくわかっていない様子で手の平をルイに差し出す。


「向きが逆」

「は、はい!」


 ティアは手の平を返し、手の甲をルイに向ける。


 ルイはその手を取ると、ダイヤの指輪をティアの薬指にはめる。


「サイズ、ぴったりみたいだね。よかった……これなら直してもらう必要もなさそう」


 ルイが微笑む。


「ルイ様、何を言ってるんですか。私の指とぴったりでも意味ありませんよ! ちゃんと婚約相手の方の指のサイズを測らなければ……」


 ティアはかなりの鈍感だった。

 この状況でも彼女は「ルイ様ったらプロポーズの予行練習でもされているのでしょうか! ティアは応援していますよ! 私も腹をくくって婚活を始めますかねぇ!」程度にしか思っていないのだろう。


 ルイはティアの手の甲に口づけをする。


「!?」


 その行動に、やっと驚きの色を示す。


「ティアは僕に意地悪をしているの?」


 ティアを見上げるルイの顔は赤面し、眉は下がり困った表情をしている。

 それは幼い少年のようにかわいらしいもので、ティアはまだルイと出会ったばかりの頃を思い出し、悶えた。


「あ、わ、そ、それは一体……?」


 ルイはティアの前に跪く。


「ルイ様……!?」


 一国の皇帝が、メイドに跪くなんて、私は悪い夢でも見ているのでしょうか!

 混乱しているティアとは対照的に、ルイは落ち着いた声で語りかける。


「ティア・ロートレック子爵令嬢……私、ルイ・アリフレート・トランドはあなたに永久の愛を誓います」


 淀みのない言葉、恐らく何度も練習をしていたのだろう。


「どうか僕と、結婚してください」

 

「ホァッ!?!???」


 予期せぬ言葉に、ティアは素っ頓狂な声を上げる。

 爆発音すら聞こえてきそうなほど顔を真っ赤にして、たじろぐ。


 貧乏な子爵家の生まれで職業はメイド、しかも年齢は20歳で四つも年上……それはなんだかとっても前途多難な気がします……!


 混乱する頭の中で、ティアはそのようなことを考えていた。


 弱小貴族出身でメイドのティアが、皇帝陛下であるルイと無事結ばれることはできるのか、これは宮殿で繰り広げられる貴族令嬢たちとの長い戦いの序章に過ぎなかった……


読了ありがとうございました!

実はこの話は「ブラック企業社畜OLの私が異世界転生と思ったら極悪皇女(断罪済み)として幽閉生活!?でも幸せなのでOKです」(https://ncode.syosetu.com/n9250hm/)の4年後の物語となっております。

よろしければ一緒に読んでいただけるとうれしいです。


また時間を見つけてこちらのお話も続きを書きたいと思います!

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