美人の親友が告白してきたんだが俺はどうしたらいいのだろうか
「和樹、君が好きだ。心から愛している」
そう言われたのは高校二年の7月の終わり夏休み始めだった。
言ったのはスラッとした細身の美人である。
世の中の1000人に聞けば1000人が美人だと断言するであろう容姿をもち、都内を歩けばモデルのスカウト間違いなしと俺は思っている。
俺はそんな美人からの告白を耳にてポカーンと口を開けたままフリーズしてしまった。
目の前の美人はいたって真面目な表情で、とても熱いまなざしで冗談でも嘘でもなさそうだった。
なぜ俺はこの美人からの告白を素直に受け取れないのか。
それには理由がある。
別に俺が自分を忌避していて美人からの告白されるはずがない、とか。
一度ドッキリとして騙されたことがあるから、とかではない。
ましてや全然知らない人がいきなり告白してきたわけでもない。
この美人さんは小さい頃に出会って友人になり、今では親友だと力強く言うことが出来るほどの仲だと自負している。
親友だから恋人にはならない?―――否
好みじゃない?―――否
ではなぜか。
それは―――
「お前男じゃねーかっ!!」
△△△
俺の名前は影山和樹。
どこにでもいる県立高校に通う高校生でこの物語の主人公。
・・・のはずだ。
俺は二年の夏休み、親友の男である優斗に告白された。
彼は驚くほどに美人だ。
きっと町中ですれ違ったら振り替えってしまうこと必須。
頭もよく成績優秀頭脳明晰、スポーツもやれば大抵のことはできてしまう。
俺から言わせればスーパーマンだ。
別に力は強くはないが。
そして彼は名家の天堂院家の跡取り息子だ。
天堂院家は日本産業を支えているとも言われており、日本を語るならば外すことの出来ないだろう。
そんな御曹司となぜ俺が親友になったのかというと・・・何でだ?
幼い頃に偶然知り合ってなんだかウマがあったんだと思うが、とにかく優斗に気に入られたというのが大きいんじゃないかな。
ちなみに俺は初めて優斗に会った時、一目惚れだった。
何せ幼いときの優斗はめっちゃ可愛かったんだ。
もうね、お持ち帰りしたいくらいだったわ。
けど待って欲しい。俺は別に男が好きなわけではない。
優斗が可愛すぎて女の子だと思ってたんだ。
が、出会ってその日のうにち男だと分かり俺の甘酸っぱい初恋は1日にして幕を閉じることになった。
もうね、落ち込んだわ。自分の見る目の無さに。
可愛い女の子だと思ったら実は男の子でした、ってね。
ちなみにしっかりあれがあることもトイレで確認した。
彼はちゃんと男の子だったわ。
あれから11年、学校は違えど時間があれば俺は天堂家にご厄介になり優斗と遊ぶ仲になっていた。
ちなみに俺は一般家庭なので県立の学校だが優斗は名門と呼ばれる学校に通っている。
なので日頃の会話はお互いの学校でのことを話したりしてなかなか楽しい。
県立校じゃあり得ないこととか優斗が通っているところではあったりするから、とても興味深い。
それにテスト勉強も俺が優斗に愚痴ったら勉強の仕方を丁寧に教えてくれて、その時のテストの結果がとてもよく担任の先生に驚かれたこともある。
そして天堂院家は名家なだけあってでかく、広い屋敷だ。
3階建てで部屋数も2桁、庭も広く中庭すら存在する。
もちろんセキュリティーも最新なテクノロジーが使われているとのこと。
そんな大それた屋敷だが俺は小さい頃から入り浸っていたので今では第2の我が家気分だ。
と言ったらかなりの不敬かもしれないが。
優斗の両親とももちろん顔見知りだ。
優斗の友達と言うことでとても温かく迎え入れてくれている。
本当にできた両親で驚きだ。
俺みたいなただの一般人を家に笑顔で入れてくれるのだからな。
そんな美人の親友が俺に告白してきた訳だ。
優斗が女だったら即Okしてるんだがそれはあり得ない。
なぜなら彼は男だから。
くどい?
何度でも言おう。
―――彼は『男』だ。
△△△
僕の名前は天堂院優斗。
ゆくゆくは天堂院家を継ぐことになるけれど、今は一介の学生かな。
僕には好きな人がいる。その人は小さい時に出会って仲良くなり、今では唯一親友と呼べる男子。
そう、男子だ。
男が男を好きになるなんて世間ではおかしいと分かっている。
僕でもそう思うんだから。
でも僕の心はそうじゃなかった。
幼い頃は気づかなかったけれど、だんだん成長するに連れて彼への思いもどんどん成長してついにはいてもたってもいられずこの高校二年の夏休みに彼へ僕の思いを告げてしまった。
この決断に後悔はしていない。
今言わなければ僕は本当にこの彼への溢れる気持ちでどうにかなってしまいそうだったのだから。
けれど彼からの返事は芳しくはなかった。
分かってる。
結果は分かっていたこと。
彼はちゃんと僕と違って女の子が好きだし、中学の頃に好みの女の子はどんな子かとか熱く(彼が)語り合ったから好みも知っている。
熱くなりすぎて彼が性癖まで言い出したときにはつい赤面してしまったけど。
彼の性癖はちょっと変態チックな所があったからね。
でも僕は嫌じゃなかった。
もしその相手が僕だったらと思うと、心臓が激しく仕事してしまう。
「お前男じゃねーか!!」
そう、なんだ。
皆からは美人だ、可愛い、と言われようと僕は間違いなく男なんだ。
そして彼はやはり優しかった。
「・・・冗談でもないんだよな?まぁ、こういう冗談を優斗はしないしなぁ。・・・そっか・・・うん、お前の気持ちは・・・確かに受け取った。好いてくれることは嬉しいよ。けど俺は優斗のその気持ちに答えることは出来ない。俺は女の子とイチャイチャしたいしな!はははは・・・。それでも、優斗は俺の親友だ」
だから一度頭を冷やせ、と言いながら僕の肩を優しく叩いてくれる。
最悪は気持ち悪がられ親友、ましてや友人としてすらいられなくなるような告白だったにも関わらず、彼はまだ僕を変わらず親友として扱ってくれる。
それがたまらなく嬉しく、たまらなく悲しかった。
その日から僕は体調を崩し、3日3晩寝込んだ。
高熱が出て意識ももうろうとしながらも何かよく分からない夢を見ていた。
その夢で僕は誰かと何かを話していた気もする。
熱が引き、体調も落ちつくまでずっとうなされていた。
その間、家の使用人の方がお世話をしてくれていた。
そして3日後僕は目を覚ました。
すると―――
△△△
親友から衝撃的な告白を受けて3日、俺は優斗との出会いから今までを思い返していた。
俺がまだ5歳くらいだったか。
近所の公園に遊びに行った時に俺らは出会った。
一度目にしたら目を離せないほどの可愛さを誇る容姿に俺は頭が真っ白になったことを覚えている。
まぁ男だったわけだが。
俺の方から声をかけて繋がりを持ったわけだが彼はなんだか寂しがっていたようだった。
詳しいことは覚えていないが、両親が忙しくてどうのとか言っていた気がする。
それで俺はこれ幸いと一緒に遊ぼーぜ!と仲良くなったんだ。
今思えばかの天堂院家の跡取りが一人で公園にいるということがあり得ないことに当時の俺は分かっていなかった。
まぁその後は天堂院家に誘われてあれよあれよというまに両親とも顔見せご挨拶して気に入られ、いつでも遊びに来て欲しいと言われた。
それからは毎日のように通い、遊んでいた。
日によってはお泊まりもして夜まで騒いだものだ。
一緒に飯を食い、一緒に風呂に入り、一緒に寝た。
そういえば、トイレに行くのもよく一緒に行っていたな。連れションだ!とか言いながら。
それは今でも変わらない。
1週間の内2日は天堂院家に寝泊まりさせて貰っているからな。
俺には客室が宛がわれているが、今では俺専用の個室になっている気がする。タンスには俺のサイズの下着や服まで用意されるほどだ。
さすがにそこまでしなくていいと言ったがお世話になっているお礼だとかなんだとか。
むしろ俺がお世話になりまくりなんだが。
ちなみに俺の携帯電話は天堂院家の持つ会社が開発したモデルのものだ。
携帯電話を俺が所持するにあたって、今度買いに行くと優斗に言ったところ、この携帯を持たされた。
何でも天堂院家はセキュリティー面から個人の携帯電話には専用の端末からしか繋がらないようになっているとかで、友人の俺がいつでも優斗と連絡とれるようにとワザワザ用意してくれたのだ。
なのでそこらのショップで携帯を買っても優斗とは直接連絡はとれないらしい。
契約も全て天堂院家がやってくれているのでなんだか悪い気もするが、優斗と気がねなく連絡とるためには仕方ない。
そしてスマホは思春期の男の子には無くてはならないお供でもある。
中学に上がる際に朗報が。
この携帯を用意してくれた使用人がこっそりR18指定モノを閲覧出来る様にしておいたとを教えてくれたのだ。GJ!!
俺は夜な夜な如何わしいサイトに夢中になったのは致し方ない事なのだ。
うん、本当に善いものを天堂院家は用意してくれた。
へへへっ。
この頃だろうか、好みの女の子はどういう子か話し合ったのは。
俺はムッチリボンキュッボンな美人な子、となんとも低俗なことを言ったことか。
優斗は自分と気が合うなら容姿について特に気にしないと言っていた。
何だかそれを聴いて負けたような気がしたのを覚えている。
悔しかったので彼女が出来たらどんなエッチをしてみたいかという話までしたが、今思うと本当に俺は思春期のサル並だったなと・・・それは今でも変わらんか。
なかなかマニアックなことを口走って優斗を困らせてしまったな。
だが優斗よ。俺は知っているぞ。
2人でエロ画像を見ていた時に(俺に見せられたとも言う)お尻を弄っている画像に興味を示していたことを。
ふふふ、気にするな。あれは男と男の内緒話だ。
お互いの性癖は墓場まで持っていこうじゃないか。
・・・ん?お尻?
そういえば俺、優斗に告白されたんじゃなかったか・・・。
もしかしてそういう・・・?
いや、考えちゃダメだ。
これは開けちゃいけない扉のやつだ。
・・・優斗、今頃どうしてるかな。
この3日間は連絡すらとっていない。
優斗も一人で気持ちの整理も必要だろうから。
3日間も連絡をとらなかったなんて出会ってから初めてじゃなかろうか。
本当に些細なことでも気がねなく連絡していたからなぁ。
まったく優斗も難儀なやつだ。
あんなに容姿端麗で頭脳明晰スポーツ万能なのに、よりによって好きになったのが同姓の俺だなんてな。
本人は自分からは言わないが、ほぼ毎日のように男女分け隔てなく告白されているらしいのにね。
前にそれだけ容姿が良いとモテモテだろって聞いたら困った様子で教えてくれた。
どれも断っているとも。
そう、男も告白してきていることになんとも困惑したものだ。
いや、優斗の容姿をもってすれば男も優斗に惚れるのは十分に分かる話だ。
俺も一目惚れしたしな・・・。
だが、それは優斗が男だと分かる前の話。
男だと分かっているのに告白する猛者がいることに困惑したものだ。
といっても優斗は同じ男の俺に恋しているのだからなんとも難しいことだ。
ふぅ、と息を吐き時計を見るとそろそろ午前の11時。
飯でも作るかと自室のベッドから起き上がったところで携帯に連絡が来た。
―――たたたたたすっすすすけけけかずずずきっきききすぐにき
「ぶふっ!!」
なんか変なのが送られて来たぞ。
と思ったら玄関のチャイムがなったので行ってみると天堂院家の顔見知りの使用人が立っていた。
なんだなんだと思っていたら、大至急俺を天堂院家に連れてくるように言付かったとのこと。
俺はそのまま家の前に停まるリムジンへと押し込められて颯爽と連れ去られることになった。
どういうことか説明を求めたら、優香お嬢様がご乱心になり俺以外には会いたくないと部屋に引きこもってしまったとのこと。
・・・優香お嬢様?
だれ???
優斗に姉や妹はいない。・・・よな?
優斗じゃないのかと聞くが、今度は使用人が首をかしげている。
なにか変だ。
どうなってるんだ?
それ以上俺は口を開くことはせず、あれこれと考えながら車に揺られるのだった。
暫くして天堂院家のでかい表門を過ぎて屋敷の玄関前まで庭に作られている道をリムジンで移動する。
玄関前のロータリーでリムジンを止めたところで俺は玄関前でスタンバっていた別の使用人に車から引っ張り出されて早足で屋敷の中へと入っていくことになった。
「和樹様、慌ただしく申し訳ありません。
お嬢様が・・・お嬢様が興奮状態で自室に引き込まれてしまいまして、和樹様を呼んでいらっしゃるのです」
なんとも屋敷の雰囲気自体慌ただしく、まさに一大事と言う感じだ。
そして使用人に連れられる先はやはり優斗の自室に相違ない。
が、先ほどから使用人たちはお嬢様と、優香お嬢様と呼んでいる。
これいかに。
とうとう優斗の自室の扉の前に到着してしまった。
使用人がお嬢様へ呼び掛けて欲しいと言うが、はたして優香と呼び掛けるべきか、優斗と呼び掛けるべきか・・・。
ええい―――
「俺だ、和樹だ優斗!」
「っ!!」
部屋の中で慌てた様子が伝わってきた。
扉近辺に集まる使用人たちは俺の言葉に困惑顔だ。
が―――
「かずき・・・?」
「ああ、俺だ。入れてくれないか?」
なんとも不安そうな弱々しい声なことか。
まるで弱った女の子の声のようだ。
つい守ってやりたくなるような、庇護欲をそそる。
はて、優斗はこんな声を出しただろうか。
首をかしげながらもじっと待つと程なくして鍵が解かれる音がして扉が少し開いた。
「和樹だけ、和樹だけ入って。他の人は入らないで」
なんとも不可解な感じがするが、使用人たちに目配りしてから俺は頷いて優斗の部屋に入るのだった。
△△△
△時は少し戻って△
ゆっくりと目が覚めていき、僕はいつものベッドで目が覚めた。
といってもまだ頭はぼう、としており体も微睡んでいる状態だ。
なんだろう、こんなことは珍しいな。
いつもは直ぐに目がさめるのに。
そう思いながらもこの感じも悪くないと、ふぅと息を吐く。
ふと、僕は違和感を感じた。
何だか胸の辺りがおかしい。
「?」
ぼうっとしたままの状態でその違和感にてを伸ばす。
すると何だかとても柔らかい何かに触れた。
ふに・・・ふにふに
ん・・・なんだか癖になりそうなさわり心地。
「ん・・・あんっ?!」
手のひらでは収まらない程大きくて柔らかいそれを触っていると、ある部分に触れた時に胸に電気が走るような甘美な刺激が発生して変な声が出た。
何が起きたのか分からなかったし、自分の口から出たはずの声が妙に艶かしくて自分の声だと認識できなかったほどだ。
僕はハッとして目を見開き動きを止めた。
そして何事かと布団を押し退けて上半身を起こす。
するとそれに会わせて胸が重力に引っ張られる感覚を味わった。
それはずっしりと存在感を主張し、ユッサリと重さを感じる。
いつもは下を見れば自分のお腹付近が見えるはずが大きなお山しかみえなかった。
なに?なにごと?
僕は改めてゆっくりと自分の胸にあるお山に手を伸ばす。
自分でも伸ばす手が震えているのが分かる。
そして寝間着の上から触れるようにお山の輪廓を撫でてみる。
・・・柔らかい、それに自分の胸だという触れている感覚もある。
パニックになりそうな頭を無理やり押さえ込み、第2の違和感を感じている下腹部に意識を向ける。
いや、そんなはずはない。
いやいや、だってそんな・・・。
僕は片手を下腹部に持っていく。
ゆっくりと服の上からサワサワと感触を確かめるも、本来あるはずの手応えがない。
と、どこかに隠れちゃったかな?
ほ、ほら・・・股の間に挟まってて表に出てないだけ、とか。
股を少し開いて恐る恐る手で股を覆ってみる。
しかし、そこに本来あるはずのものが―――
その日の朝、天堂院家の屋敷に悲鳴がもたらされた。
僕が悲鳴をあげたことで僕付きの使用人である女性の加山さんがもう一人の使用人を連れて慌てて部屋に駆け込んできた。
「ああお嬢様、お目覚めになられたのですね!」
「お嬢様・・・お嬢様?どうなされたのですか?」
2人は僕に声をかけるが放心している僕は反応できなかった。
そんな僕の様子がおかしいことに気がついた2人は困った様子だが、直ぐに一人が医者を呼んでくると部屋を出ていった。
加山さんは一人僕のそばに残り、気遣わしげに声をかけてくれる。
「お嬢様、優香お嬢様、大丈夫ですか?」
お、じょう・・・さま?・・・ゆう、か?
何を、言って・・・。
その後、慌ただしく女医さんがやってきて僕の様態を確認するも特に異常はみられなかったようで安堵の雰囲気になるが、それでも僕が放心状態だったため皆が困ってしまっていた。
「あの・・・優香お嬢様、どうされたのですか?」
僕の名前は優香じゃない。
なぜそんな知らない名前で呼ぶ?
「違う・・・優斗だ。僕は―――」
「優斗様・・・ですか?申し訳ありません、優斗様がどのような御方か分からないのですが・・・」
僕を知らない?
加山さんは何を言っているんだ?
ここにいるじゃないか。
僕の名前は優斗だ。
天堂院優斗。
天堂院家の一人息子にして時期当主、そして影山和樹の―――
「っ!!」
そこまで考えたところで恐ろしいことに気がついた。
加山さんは優斗を知らないと言う。
そしてそれ以外の使用人も僕のことを優斗ではなく優香と、お嬢様と呼ぶ。
もし、僕が・・・僕が僕でなくなったのなら、優斗じゃなくなったのなら、和樹も皆みたいに僕のことが分からなくなったとしたら―――
「・・・出ていって」
「・・・え?」
「お嬢様・・・?」
「早く出ていってっ!」
僕は押し寄せる恐怖に顔を青ざめさせながら怒鳴った。
皆・・・皆僕を忘れてしまっている。
父さんも?母さんも?
―――和樹も?
嫌だ!そんなのは嫌だ!
そんなことない!あり得ない!
和樹は僕のことを忘れなんかしない!
いきなり様子が変わった僕に使用人たちは驚くも、僕は皆をはやし立て部屋から出す。
「お嬢様っ!どうか落ち着いて下さいませっ!」
「優香お嬢様っ!どうなされたのですか!?」
「誰も入ってこないで!絶対に!和樹以外には会いたくない!!」
叫ぶように私はそう言ってベッドに潜り込む。
どうしてこんなことになったのか。
なぜ?なんで?どうして?
身体の震えが止まらない。
目頭が熱く、涙が次から次へと溢れ出てくる。
ああ、感情が押さえられない。
いつもなら自分の感情をしっかり制御できているのに。
こんなにも感情が動かされるのは和樹だけなのに。
そうだ・・・和樹。
あの時、僕が自分の気持ちを押さえられなくなって彼に告白したんだ。
何て自分勝手なんだろうか。
彼を困らせると分かっていたのに。
それでも、それでも・・・。
ああ・・・和樹に会いたい。
和樹の顔がみたい。
和樹の声が聞きたい。
和樹のそばにいたい。
和樹の匂いを嗅ぎたい。
和樹と話がしたい。
和樹と触れあいたい。
和樹と遊びたい。
和樹とご飯を食べたい。
和樹と出掛けたい。
和樹と勉行したい。
和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と和樹と―――
そ、うだ、携帯、和樹に、連絡、連絡して、でも、なんて、いえば、もし、もし、もし、和樹に、忘れ、忘れ、られて、たら、そんな、こと、ない、でも、でも、でも、和樹、怖い、和樹、和樹。
―――助けて
△△△
△時は戻り△
俺は一人で優斗が開けたであろう部屋の中に入る。
廊下で見守る使用人たちは不安そうだ。
皆優斗のことが心配なんだろう。
声を聞いた限りではかなり精神的に弱っているのが伺える。
それは・・・俺が原因かもしれないのが辛いところだが。
そこまで追い詰められていたのか?優斗。
優斗に思いを告げられた時、出来るだけ暗い雰囲気にならないようにしたつもりだがよくなかったのかも。
部屋に入って扉を閉める。そして優斗は扉の横にうつむいて佇んでいた。
優斗・・・ん?
「和、樹・・・」
弱々しく俺の名前を呼ぶ。
その声は震えており、何かに怯えているようにも感じる。
んんん・・・優斗、だよな?
着ているのが寝間着だと思うがピンク色の柔らかい色合いで俺のみたことのない柄だ。
弱っているから小さく見えるのかと一瞬思ったが、本当に一回り小さくなってないか?
ってあれ?優斗の胸が・・・え?!でかくない?!
俺は優斗が小さくなったりでかくなったりで混乱した!
「和樹、和樹は、僕が・・・分かる?」
恐る恐るといった感じで顔を上げる目の前の人物。
泣き腫らした様子に今でもその綺麗な瞳に大粒の涙を溜めて俺を見上げる。
「っ!!!」
―――かっ可愛い!!!
俺は一瞬にして心を持ってかれた。
それはもう頭の先から爪先まで全身に稲妻が走るかのような衝撃的に。
えっ、だれ?!優斗?!違う?!女の子?!優斗の姉?!妹?!超美人!!超可愛い!!超好み!!
って違う!!
待て!落ち着け俺!!
どうなってるんだ?!
優斗の部屋に知らない女の子が!!
けどよく見るとこの女の子は優斗にそっくり・・・。
いや、ウリ二つだ。
双子・・・な分けないよな。そんな話は聞いたことない。
まるで俺の親友の優斗を女に性転換させて、一回り小さくして胸を大きくしてお尻の肉付きもよくしたらこんな感じに―――
と、無理やり冷静になって目の前の女の子を観察するとほのかに香る香り。
心を落ち着かせるようなとても心地よい香り。
そして俺が小さい頃から好きな香り。
俺の親友と同じ香りがする。
・・・まかさ。
いや、本当に?
そんなことが・・・あり得るのか?
でもそうとしか考えられない。
確証はないが、この状況がそうだと物語る。
「もしかして・・・優斗、か?」
「っ!!」
俺の自信の無い答えに目の前の女の子はぱっちり大きな瞳を見開いて驚きを露にした。
そして次の瞬間、俺に勢いよく抱きついてきた。
「和樹っ!!和樹っ和樹ぃ」
ギュウッと俺に抱きついてきた女の子、優斗に俺は驚きに動くことが出来ず、なすがまま俺は立ち尽くした。
「うっううっ、和樹・・・ぐすっ和樹」
俺は段々と今の状況が飲み込めてくると―――
ごめん、嘘ついた。
まったく飲み込めてはいないが一旦放棄するとさすがにこのままにはしておけない。
俺の胸にというか首元に頭を押し付けて泣きじゃくる優斗。
そんな優斗の背中をあやすように優しく叩きながら思った。
やべぇ、優斗の胸がでけぇ。
そして柔らけぇ。
不謹慎だと思ったか?
仕方ないじゃないか。
優斗が抱きついているからその大きなお山がむぎゅうぅぅっと俺に圧をかけてきてるんだから。
だからこそこのままにはしておけない。
俺の下半身事情において特に。
それに俺の好きな優斗の香り。その香りに甘さが加わっていて妙にくるものがある。
優斗もまだ泣き続けているものの、先程よりは落ち着いてきている。
今なら話を切り出すにも頃合いか。
「優斗・・・話できるか?俺、かなり混乱していてワケわからないんだ」
多分優斗もワケわからない状態なんじゃないかと思うが、一人で悩むより二人で悩んだ方が安心できる気がする。
―――答えが出るとは限らないが。
「ぐすっ・・・うん」
俺の言葉に頷くものの、俺から離れる様子はない。
あの、優斗さん・・・?
このままですと、困ったこの状況がもっと困った状況になりかねないんですが・・・。
俺は離れるように促すが、優斗はいやいやをしながら抱きつく腕の力を強めてくる。
おふぅ・・・。
そうですか、離れるのは嫌ですか。
仕方ない。
俺は半ば強引に優斗の肩を抱いてベッドへ―――
は俺のあれでなにが暴走しそうなので部屋にあるソファへと移動して座るように促し、俺も座る。
が、優斗は俺を離さなかった為に俺に覆い被さる様に、俺が抱き抱えるように身体を預けた状態になった。
「あの、優斗さん・・・?」
「嫌・・・離れたくない」
ああ・・・なんかこの甘えん坊優斗君には覚えがある。
優斗は勉強も出来るしスポーツも出来る。
人柄も俺が知る限りかなり良いし、とても健康だ。
だが小学生の頃、一度だけ体調を崩したことがあった。
もちろん俺は町立小学校で優斗は私立だから学校は違う。
それはともかく、体調を崩した優斗はすごく甘えん坊になったのだ。
優斗が体調を崩した連絡が来た時、電話で少し離しただけだがもうずっと俺に会いたいと言っていた。
さすがに使用人の人が止めていたし、安静にさせたいからお見舞いも1日待つように言われたが。
なので次の日連絡してみると1日でも大分体調は落ち着いてきたとのことなので、学校が終わってからお見舞いにいった。
弱ってる優斗は男だと分かっていてもとても可愛かった。
本当にこいつ男か?と久々に疑ったほどだ。
そしたらなんとまぁ、俺から離れないこと離れないこと。
というか離してくれなかった。
優斗は病人なのでベッドから出ないようにベッドの側に椅子を用意してもらって座ったんだが、優斗の可愛さに負けてつい頭を撫でたら手を握られてからまったく離してくれなかったんだ。
あの時は使用人が飲み物を持ってきてくれた時も対応させてもらえなかったし、トイレにいこうとすれば「どこにいくの?どこにも行かないで」と可愛く言ってくる。
しまいには帰ろうとした時なんてすがり付いてきたほどだ。
まぁなんとか宥めて落ち着かせたが。
優斗は普段はなんでも出来るしこなせるスーパーマンだが、弱った時にはとても弱気になるし、不安になるんだ。
こうしてみると優斗もちゃんと俺と同じ人間なんだなって思う。
そしてそんな優斗に頼られるのは俺としても、とても嬉しいことなのだ。
だからこういう時はとことん甘やかしてやろうじゃないか。
ふふん、後悔するなよ?
この俺の甘やかし術でとろっとろのふにッふににしてやんよ!
「よしわかった。とりあえずそんなすがり付くような姿勢は辛いだろ。ほら、俺の膝の上に座って良いから。」
「・・・ん」
俺の言葉にモゾモゾと動いて姿勢を変える。
・・・あ、横座りじゃなくて俺の膝を跨ぐようにして正面から向き合うように座られるんですね。
そして抱きつくと。
この体制かなりヤバイ。
みみみみ密着度がハンパないんですけど!!
もう優斗の胸だけじゃなく、お尻や太もも・・・と言うか全部柔らかい!そして暖かい!
優斗の腰に腕を回して優しく抱き締める。
一度落ち着くためにゆっくりと深呼吸を―――
やべぇ!優斗の香りが俺を満たして理性を刺激する!
「あ・・・和樹ぃ・・・」
うっ、そんな艶かしい声を耳元でなんて!
めっちゃゾクゾク来るじゃないか!
「優斗、話してくれるか?優斗が分かる範囲で良いんだ俺に教えてほしい」
まるで子供をあやすように優しく話す。
すると優斗も少しして話し始めた。
つっかえながらだが今までのこと、優斗は自分が分かる範囲のことを話してくれた。
整理するとこうだ。
まず優斗が俺に愛の告白をしてふられた後、家に帰った。
とても落ち込んでいたことから、使用人から心配されるも部屋に戻りベッドにそのまま横になった。
そしてどうすればよかったのか、これからどうすれば良いのか。
俺に振られても俺への気持ちは変わらない。むしろ余計強くなっていたそうな。
後悔はしていないが俺へ迷惑になるであろうことも想像していたし、自分の我が儘だと思っている。
そんなように何時もなら思考を素早く整理できるのにこの時は頭の中でグルグルと思考が纏まらず気がつくと体調を崩して寝込んでいた。
そうして変な夢を見ていた気もするが、とにかく目を覚ましたのが今朝。
俺とあった日から今朝まで寝込んでいたということは・・・3日もか。
その時に自分が女の子になっていることに気がつき、使用人達からはお嬢様とか優香お嬢様と呼ばれていて、自分のこと優斗のことを聞いても知らないと言われたようだ。
優斗はとても混乱していたようだが、ふと思った。
自分のことを皆知らないと言う。
とすればもしかして和樹も自分のことを知らないと言うのではないかと。
その考えにたどり着いてからはもう怖くて怖くて仕方がなかった。
他人が優斗を知らない、と言うならまだいい。
いや、良くはないが今はおいておく。
でも俺、俺にだけはダメだった。
俺にだけは優斗のことを忘れられたらどうにかなってしまう。
とにかく恐怖に付き動かされる様に部屋にいた皆を追い出し、優斗は引きこもり震えていたそうだ。
そして途中で俺に助けを求める様に連絡したのがあのよく分からない文章だったということか。
なるほどな、なぜ女になったかは分からないが、皆が自分のことを別の名前で呼び、優斗のことは知らないといった。
さらにもし俺も優斗のことを知らないと言うかもしれない状況に恐怖して引きこもっていたと。
で、俺が来てちゃんと優斗のことを知っていて安堵から今の状況になったわけだ。
ヨシヨシ、不安だったんだな。怖かったんだな。
大丈夫だ。俺はしっかり優斗のことを覚えているし、知っているからな。
優しく頭を撫でて上げると優斗はとても甘えてくる。
あーチクショウいい香りしてんなー。こんなに抱き合って優斗の香りに包まれるのは久々だし、今の優斗はメチャクチャ俺好みの美人で可愛い女の子になってるから親友として対応するのが辛い。
優斗は親友、優斗は親友、優斗は親友・・・。
なんとか俺は自分に言い聞かせて理性を保つ。
さて、分からないことも多いけど、状況は分かった。
が、だからどうすればいいかはまったく分からない。
ん?世の中はどうしたいかだって?
ははは、面白いことをおっしゃる。
そんなの優斗を襲いたいに決まってるじゃないか。
だがそれはダメだ。
もし、もし今後そう言う仲になったとしてもそれは今じゃない。
こんなにも弱って、俺に助けを求めている親友を俺が襲うとか絶対にしちゃいけないし、したくないと思っている。
なんとも矛盾していることか。
したいのにしたくないとか。
それにしても優斗はおれに告白して、俺がその気持ちに答えられないと断ってからとても悩んだんだな。
もし、こうなることが分かっていたとしても、今から過去に戻ったとしてもきっと答えは変わらないし変えるつもりもない。
そして後悔もしていない。
あの状況であの答え以外にはあり得ないのだから。
その事についてだけは優斗自身でどうにかして答えを出さなくちゃいけないことだと思っている。
俺たちは親友で、俺は男で優斗も男なんだから。
とりあえずもう少し優斗をあやすか。
そうすれば優斗も冷静に考えることが出来るようになるだろう。
・・・なってくれたらいいなぁ。
それからしばらくは優斗の背中や頭を撫でたり手を添えたりで、優しく言葉をかけてあやす。
気持ちはまるで小さな子を世話している様だ。
暫く、本当に暫くして優斗は大分落ち着いてきた。
ずっと泣いていた涙も止まり、呼吸もゆっくりになった。
そしてポツリポツリと話し出す。
「和樹・・・やっぱり僕は和樹じゃないとダメだよ。
和樹がいつも僕といてくれたから、頑張れたけど・・・和樹がいないともう生きていけないよ」
「・・・そうか?俺だって何時も側にいれてるわけでもないだろ?それに俺たちは恋人じゃなくたって親友なのは変わらない。俺はいつだって優斗の味方だぞ」
「うん・・・でも、でも・・・でも、僕はもっと和樹と一緒になりたい。もっと一緒にいたいよ。もっとお話ししたい。もっと触れあいたい。もっとこうしていたい」
ぎゅっと俺を抱き締める強さが増す。
優斗の柔らかくて暖かく、とても心地よい香りが俺に離れないで、と包み込む。
俺を好いてくれるのが全身から伝わってくる様だ。
俺だってなぁ優斗、俺だってなぁ一目惚れだったんだぞ。
初恋だったんだぞ。
それが優斗は男だと分かって、自分の気持ちに蓋をして、ずっと今まで過ごしていた中、小さいころ天使のような可愛さを持つ優斗が成長するごとにどんどん美人になって、蓋をしたはずの気持ちがどんどん膨れ上がっていっても蓋に鍵を付け、杭を打ち込み、溶着させてがんじがらめに鎖で拘束したのにも関わらず存在を主張しようとする気持ちから目をそらしていたのに―――
優斗は男である俺に告白をした。
「ばか・・・俺だって同じ気持ちさ」
「っ!!な、ならどうしてっ!」
あ~ぁ、これは言うつもり無かったのにな。
優斗が俺の気持ちを知ったら、それこそ思い悩んじゃいそうだから。
けど・・・けど、ここまで俺への思いを伝えてくれる優斗に、俺も自分の気持ちを伝えないのはフェアじゃない。
そう、思ってしまったから。
「仕方ないだろう?俺は男で、優斗も男だ。世の中は同性同士の恋愛も少なからず話は聞くけど、優斗をその道に行かせるわけには行かないじゃんか。親友をそんなイバラの道に―――」
「そんなの・・・そんなの、僕はかまわないよ。どんなに辛い未来でも、和樹と一緒なら・・・」
「俺がかまうんだよ。天堂院家の跡取りが同性と、ってなればとんでもないことだ。俺たちは引き離される可能性は低くない。それに、優斗に変な経歴を持たせるわけには行かないからな」
「うっ・・・うぅ、ぐすっ、ず、するい・・・よ。和樹、そんなの、ずるい。ぐすっ・・・和樹と、一緒がいいよぅ・・・一緒じゃないと嫌だよぅ」
またもや泣き始めてしまった。
やはり今の優斗はとても弱りきっている。
どうしたものか。
「そ、うだ、ぐすっ、僕、女の子、なる。」
「・・・ぇ?」
「僕、女の子、なれば、ぐすっ、和樹と、結婚、出来る」
えええええっ
待て待て待て優斗。
それはなにか?
性転換するとかそう言う話か?!
「僕、このまま、女の子、なる。和樹と、結婚、する」
そうだった!
既に性転換してるんだった!
どうしてか知らないけど!!
「ま、まままま待て優斗、確かに今優斗は女の子になってるっぽいけど、また男に戻るかも知れないだろ?」
「戻ら、ない。絶対、女の子で、いるんだもん」
ぎゅっと抱きついてくる優斗の意思は固そうだ。だが意思でどうにかなるものでもないんじゃないか。
それに、「~もん」てなんだ「~もん」て。
「確かに今の優斗はとても美人で可愛いし、なんと言うか・・・メチャクチャ俺好みな感じになっているが・・・」
「か、可愛いって言われた・・・優斗に、好みって・・・」
俺の言葉にとても嬉しそうなそうな様子を見せる。
あの、その、そんなにモゾモゾと動かれると色々なところを意識してしまうんですがっ。
優斗は抱き締める力を緩めて顔を離し、俺の正面にその美しく、可愛い顔を合わせる。
まるでその美しい瞳に吸い込まれるかのような錯覚を覚える。
「僕、和樹のためならなんでもする、よ?なんでも出来るよ?そ、そうだ、和樹の好きなエッチなことだって」
「ぶっ!!」
今そんな話するか!!
いきなり現実に戻された気分だよ!!
「アブノーマル、なこと、好きでしょ?僕になら、なにしてもいいし、なんでも、するよ?」
確かに好きだ。大好きだ。
が、今それを持ち出すか。
それっぽいことを昔話したこともあったかもしれないが。
あった・・・のか?
「ばっ、ばかだな。いちいち優斗がそんなこと言わなくても―――」
「・・・?」
俺の顔を間近で見つめる優斗は本当に綺麗で、可愛くて―――
俺も覚悟を決める。俺だって思うことろもあるし、俺の考えが間違っているとも思わない。
けれど優斗がここまで言ったんだ。言わせてしまったんだ。
俺だってなぁ・・・俺だってなぁ優斗。
お前のことが、ずっとずっと好きだったんだぜ?
なら、俺の答えは決まってる。
「するに決まってんじゃんか!!」
「きゃっ!」
俺の叫ぶような言葉な言葉に驚きを見せる優斗を俺は強く抱き寄せる。
「優斗、君が好きだ。心から愛している」
「うん・・・うん、僕も、僕も和樹が好き。心から愛してる」
感極まった様子で何度も頷く優斗に、俺はそれだけでは終わらさない。
「・・・覚悟しろよ優斗」
「ふぇ・・・?」
「なんでもするって言ったんだ。メチャクチャにしてやるからな」
「えっ、んっ、う、うん、ぼ・・・僕を、メ・・・メチャクチャに、し・・・して、ください」
真っ赤な顔で恥ずかしそうにそう告げる優斗は、それはとても可愛くてとても色っぽい。
それは紛れもなく、女の表情だった。