~第5幕~
「やめて!」
彼が私に積極的にアプローチしてきた。付き合い始めて1週間経った事だった。私は気がつけば全力で彼を突き放していた。
「どうして? 俺たち恋人同士だよ? 気にすることなの?」
「違う……私は……」
「ショックだな。幸美先輩、のってくれると思った」
「ごめん、もう少し。もう少しだけ時間が欲しいの」
彼の部屋で映画を観終わった時のことだった。私は自分の身体の特徴もあって、小学校時代から性の嫌がらせを受ける事があった。私にとってそれは克服しようにも辛すぎるトラウマだったのだ。私は謝り俯いたまま彼のお家を出た。
「もう、こんな時間か」
時刻は21時をまわっていた。兄へは彼氏が出来たなんて事は言っていない。私は天文部の活動で遅くなっていると嘘をつき続けていた――
「今日は綺麗だな。こんなに嫌な気持ちになっているのに……」
ふと夜空を見上げる。そこには光り輝く幾万もの星が輝いてみえた。なんだか急に綾世がどうなっているのか気になってメールを送ってみた。
しかしメールは受信されなかった――
翌日、私は天文部顧問をしていた高丸先生に呼びだされた。何のことだろうか? 鼓動が妙に早まった。
「新滝さんから学校を辞めたいと相談を受けたわ」
「え?」
「貴女の担任の近藤先生は彼女のことをよく解らないだろうし、さらっと知っているだけなのでしょう。去年彼女の担任だった私は彼女の事をよく知っている」
「そうなのですか……」
「ええ、昨年はあんな悲しい事があってね、彼女はすごく不安定になったのよ。寮の部屋から全く出てこなくなって。彼女が出てこられたのはここ最近になってやっとのことなのよ」
「それじゃあ……?」
「そう、私は今も彼女から相談を受けている。貴女達のことも聞いている」
私は心臓を射抜かれた気がした。そして身構えてしまった。
「わ、私達が悪いって言うのです!? 私も朔君もやましい事なんてしてない! 彼女の為に恋愛しちゃいけないって言うのですか!?」
先生は溜息をついて首を横に振った。
「そんな事は言ってない。さっき“学校を辞めたい”と彼女が相談してきたって話したわね。私はそれを阻止しようと思っている。彼女には彼女を護ってくれる身内なんていない。そんな彼女が中卒過程で世にでてイイ事あると思う?」
「それは……」
「貴女とは随分親しくしていたらしいわね? そんな彼女を見放してまで選んだ彼氏なのでしょ? ちゃんと導いてあげなさい。成人にもならない男子は過ちを犯しやすいものだからね」
「…………はい」
「それとも一つ」
「はい?」
「孤独になった女は何をするのかわかったものじゃない」
彼女は私の肩をポンポンと叩いて立ち去って行った。
私は暫くそのまま立ち尽くした――