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~第3幕~

 そんな私達の天文部にまた一つ転機が訪れた。入部申請があったのだ。申請を出したのは1年の男子。しかも特進クラスのコときていた。



「真部朔と言います……天体観測に興味があって入部希望をだしました……」



 眼鏡をかけた大人しそうな男子。両膝に握りこぶしを置いて体を震わせている。緊張でもしているのだろう。私は彼に失礼ながらも可愛いと感じたが、この面接の場で綾世はあっさり「可愛いねぇ~」と彼をからかっていた。まったく、彼女らしいと言えば彼女らしいがどうだか。



 勿論、彼を入部させないワケがなかった。そして彼の魅力はなんと言っても、望遠鏡を持っていることだった。彼はよほどこの部活に入れ込みたいのか、彼の持つそれを部に寄付したいとまで申しでてきたのだ――



 ただ彼が入部してきて私達の何かが変わってきたようでもあった。




「ねぇ、サチ、最近の真部君ってやたらサチに寄ってない?」

「急に何よ? 別に綾世と変わらなくない?」

「彼は“先輩”って呼んでいるけど、私が行ったら“あ、森久保さんです”って言ったのよ?」

「それ、いつの話よ?」

「今さっきの話だよ?」



 私は「それって失礼な話ね」と言いつつも、彼を見る。彼は愛用する望遠鏡を片手に満月を鑑賞していた。そして「センパーイ!」と手を振ってきた。私に向けてなのだろうか? 私は苦笑いしつつも彼に駆け寄った。綾世は苦笑いをして私達に視線を送り続けていた。




 何となく感じてはいた。いや感じ合っていたのだと想う――




 私は綾世に内緒で真部君をメールで誘ってみた。場所は私が気に入っている駅近くにある喫茶店だ。彼は20分ほど遅れてやってきた。



「すいません! ちょっと色々あって遅れちゃって!」



 彼は息を切らしていた。私は「遅刻よ」と言いつつも「ほら選んで」と笑顔で彼にメニューを差し出していた。彼が選んだのはこれから私が選ぼうとしていた本店オリジナルの紅茶とザッハトルテだった。



「奇遇ね。私と一緒のヤツを選ぶなんて」

「そうなのです? ははっ、冗談でも嬉しいな」

「ねぇ、君ちょっといい?」

「はい?」



 私は両手を組んで顎を乗せ彼の前に乗りだした。ここ最近は余裕をみせている彼の筈だったが、手に取るようにドギマギしているのが目に見えた。



「こないだ先輩と呼び掛けておいて、新滝先輩ではなく私を名指しで呼んでいたらしいじゃない?」

「え! それは!」

「私じゃないといけない理由があったの?」

「………………」



 急に顔を赤らめて彼は俯き始めた。そして黙りこくった。こんなことを言ってしまってはいけないと思うのだが、それでも私は彼の本心が見え透いちゃって、何だか可愛くみえて仕方なかった。



「僕……天文部の事はホームページで知りました。元々そういう趣味は小学生の頃にハマっていて、中学になってからはからきしで。でもホームページに写っていた先輩と……先輩とお近づきしたいと思っちゃって……」

「先輩って……それ私?」

「あの! すいません! もう帰ります!」



 彼はその場を立ち去ろうとしたが、私は彼の腕を掴んで引き寄せた。



「逃げないでよ」

「え?」



 自分でも驚いたぐらいに大胆だったと思う。暫くして私たちは場所を変えた。そして彼の意思を受け入れると笑顔で答えてみせた。しかしこれには難しい問題がついてくると分からなければならない。私と彼だけで収まる問題ではないのだ。私たちは向き合うしかなかった――



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