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~第2幕~

 翌朝、電車に乗って通学する。久しぶりの感覚にワクワクしたいところだが、そんな悠長な気分になる事もない。私は私で何も変わらないのだ。仙台線の電車に揺られながら高校2年生の2学期が始まるのに備えた。




 まだ熱い日差しが照りつける9月の全校朝礼。そこまで熱くないと思うのだが、倒れてしまった生徒がいるらしい。最も私が知っている人でもないし、ちょっと驚きはしたけども、どうでもいい話だった。



 昨日は夏休みの最終日、徹夜で宿題をした人達も少なくないのだろう。



 私は宿題の大半は夏休みが始まっているうちに終わらせた。でも私の宿題には最終日までかかるものがあった。それは夏休みの40日間ずっと日記をつけてくというものだった。



 ただ学校の課題でやったものだった。発表する場もあるワケだし、発表しても差し支えない日記を綴った。私はただでさえクラスで話題になることなく浮いていたタイプだし、目立つことは避けたかった。そういうあれこれを考えて最後のページは何時間もかけてしまったものだ。



 私が席に着くとさっそく違和感があった。私の隣と前の席が空いていたのだ。この夏休みの間に私の班の2名が退学したという。男子と女子のそれぞれ1名が。女子の方は私が2年に進学した時から見たことのない生徒だ。もう一人の男子は随分と根暗で掴みどころのない男だったが、何か事情があって去ったのだろう。私には知る由もないことだ。



 すると私は一人の班となるのか……と思ったらそうでもなかった。



「理系クラスから転入しました新滝綾世です! 仲良くしてください! 宜しくお願いします」



 清楚な雰囲気ながらも底抜けに明るい雰囲気を持つ彼女は私には何も相応しくなかった。しかし皮肉にも私の前の席に座る。「宜しく!」と笑顔で挨拶してきたものだが、私は軽い会釈で済ませた。どうせクラスの中心でワイワイする連中に交じっていくのだろう。私はあまり気にとめないことにした。



 しかし蓋をあけてみるとどうだろうか? 彼女は最初の挨拶とは裏腹に実際は人見知りで授業の間も物静かに座っていた。



「あの……昼ご飯一緒にできないかな?」



 え? と私は戸惑う。この学校に入学して2年、初めてかけられた言葉だった。しかし断る理由もなく、自然とそれを快諾していた。



 昼休憩、私と彼女は学校の中庭で弁当を食べた。こんな感覚、いつぶりだろう。中学時代も一人で過ごすことが多かった私にとって、それは斬新な光景だった。



「理系から文系に来たのは何故?」



 彼女の口が重たそうだったので私から切りだしてあげた。そうしないと延々と無言のまま飯を頬張る2人組に映ってしまうだろうから。



「気分かな?」

「気分?」

「うん、急に数学が好きじゃあなくなってね……」

「そう、国語の方が勉強しやすいイメージなの?」

「そういうワケじゃないけど、あ、森久保さんの弁当可愛いね! 自分で作っているの?」

「いや……これはお兄ちゃんが……」

「お兄ちゃんが作っているんだ!?」




 何だか自然と彼女のペースに飲みこまれていた。だけど、それが気持ち悪くもなかった。むしろ気持ち良かったのかもしれない。友達ができるって感覚をいつしか思いだしている自分がいるような気がした。



「羨ましいな。私は去年家族という家族を亡くしちゃったから」

「そうなの?」

「うん、何もかものみこまれちゃって……」



 その言葉で私は彼女がどんな孤独にあるのかすぐ理解できた。そしてなんだか同情しちゃうような感情も湧いてくるようだった。



「そう……私は幼い時にママを失っているから、少しは理解できるよ」

「そうなのね……ねぇ? 放課後空いてない? 私、実は天文部なの」

「え? 天文部って去年廃部になったのじゃあ?」

「去年の秋に入部したの。あまり夜遅くにならなければ、屋上から星空を眺める事ができるよ! これが凄く気持ちいいんだな!」



 何か段々と彼女の作る話題に魅入られるようだった。彼女の笑顔がこれ以上にないぐらい自然なもので。その瞼の裏にはきっと抑えられないぐらいの涙がまだある筈なのだろうに……私は情けよりも純粋に彼女のことを好きになれていた。




 その日の放課後、私と彼女は学校の屋上にあがった。彼女がポケットから鍵を取り出して、鍵を開けていた時に何とも言えないロマンのようなものを感じた。




 学校の屋上から見える夕焼けに星空はこれまで私が体感したことのない感動を教えてくれた。綾世の「ねぇ、一緒に天文部やらない?」に「うん!」と笑顔で答え、その出来事を兄にメールした。



 兄も心配はしていたらしい。しかし私からのそのメールをみて彼は喜んだとか。私に友達という友達ができたことが何よりも嬉しかったと喜んでくれた。




 それからの日々は目まぐるしくも楽しく過ぎていった。哲学の本ばかりを読む私に新しい趣味が生まれた。学校に行く足取りも軽く、休日は仙台天文台に行く事も。どこか弱弱しい私もいつしか堂々と彼女と一緒に学内を歩きまわるようになっていた――



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