味覚編②
まるがつさんかくにち。
クァフしか食べないヴァーグに少々危機感を覚えた俺は、彼に他の味覚も教えようと思い立った。
いくらクァフが砂糖べったりの菓子じゃないとは言え、虫歯になりでもしたら困る。
いや、虫歯があるかどうかも判らないけど。
しかしそもそも、食事をしない魔属に味覚を教えるのは大変か。
何しろ彼等は、興味のある事以外一切動こうとしないのだから。
取り敢えず、先ずは俺が色々なモノを食べることにした。
何だそれ、と言ってきたら分ければいい。俺に好き嫌いがないから出来る作戦だ。
「弥栄」
「うん?」
口の中のモノを飲み込んで、ヴァーグに返事をした。
「何だ、それは?」
掛かった!
計画して色々なものを食べ始めて3日目。興味を示すのは意外と早かった。
しかし……コレは与えて大丈夫なんだろうか。
見るからに辛そうな赤色のスープに、幾つか団子が浮かんでいる。
そして実際、見掛けを裏切らない辛さだ。
甘党が食べられる辛さかなぁ……?
ああ、目が生き生きしてる……
「や、ヴァーグ、お前は食べない方がいいから」
「何故だ?」
「辛いから。甘いのが好きだったら止めとけ」
む、と眉を寄せるヴァーグ。
どうやらプライドが刺激されたらしい。厄介だ。
じい、と無言の圧力。
「……判った、一口だけだぞ」
「よし」
後悔しても知らないからなー。
内心そんな無責任な事を考えつつ、ヴァーグがスープを口に運ぶのを眺める。
「………………むぅ」
うっわ嫌そうな顔っ!
お前のせいだみたいな目でこっちを見るなよ……
『まるがつほしにち。あめ。
あれから更にクァフしか食べなくなった。まるきり逆効果。
だから止めとけっていったのに。』




