第9話 父と娘、感動?の対面
「おおっ! ヴィクトリアよ! 待ちかねておったぞ!」
父親である国王に会ったときの第一印象は、なんだこの子供みたいな大人は、であった。
ヴィクトリアを見るなり目と眉尻をだらしなく垂らして、玉座から立ち上がってヴィクトリアへと駆け寄って来たかと思うと、なんの躊躇いもなく抱きついてきたのだ。驚いて正拳突きどころではなかった。
「ええっと……あの、苦しいので離してもらえませんかね?」
こんなだらしのない顔でも国王なのである。
ここは玉座があり、そこから赤い絨毯が続き、高い天井からはシャンデリアがぶら下がっている、庶民には縁がないような豪奢な謁見の間であった。大臣や侍従たちがずらりと並び、ひとつの挙動も見逃すものかと近衛兵たちの目が厳しい場である。誰か国王を止めてよ、と思ったのだが誰も微動だにしない。なので、仕方がなく声を上げたのだ。
「おお、すまなかったな! いや、しばらく見ないうちに大きくなって」
「そうですね。あなたとあったのはまだ胎児だった頃じゃないですかね? 透視能力がおありで?」
「言葉のあやだ、気にするでない。いや、それにしても立派になって」
「そうですね。立派に見えるように着飾らせていただきました」
「親はなくても子は育つとはよく言ったものだ」
「できれば親は側にいてくれた方がありがたかったんですけどねぇ」
いまいち噛み合わない会話をしているうちに、見かねたらしい侍従が国王を玉座に戻してくれた。国王はとても不満そうな表情をしながらヴィクトリアから離れて玉座に座った。
「このような場では話しづらい。後ほど晩餐の席を用意させるから後ほどゆっくり話そう」
「ええ、そのような予定のようでしたし……」
使者であるフレデリックからそう説明されていたのだ。王城についてしばらく部屋で休んでから、晩餐の席で国王と対面する予定になっている、と。
しかし、いざ王城に着いたら国王が今すぐ直ちにヴィクトリアに会いたいと言っていると、準備もそこそこに謁見の間に連れて来られたのだった。国王は謁見の途中で、その列に割り込むような形だったので申し訳なかった。どこかの町の町長とか、どこかの修道士など、やっとのことで国王との謁見が許されて自分の思いを訴えようと待っているところに、ねじ込まれていったのだから。
「そのぅ、私は今更どこにも逃げませんし。他の人たちとの謁見が済んでからゆっくりとお会いしましょう」
「おお! なんと立派なことを言う娘だ! さすがは私のヴィクトリアちゃんだ!」
そして再び玉座から立ち上がろうと肘置きに手をかけたのに目ざとく気付いた侍従がそれを引き留めた。また抱きつかれるのかと身構えたところだったので助かった。
「では、失礼します」
そうしてくるりと玉座に背を向けて、大股で出口に向けて歩いて行った。
周囲の者たちは奇異の目をヴィクトリアへ向けてきている、ような気がするが間違いないだろう。着飾った町娘が急に王城の、許可された者しか入れない謁見の間に現れたのだ。物珍しくて当然である。
(今日の晩餐とやら、気分が優れないとか貴族の娘的な理由をつけて断れないかしらね?)
しかし、母親とのなれそめとか母親がどうして王城を追われたとかは気になる。そうして、どうして今になって自分を迎えに来たのか、その言い分を本人の口から聞きたい。
なにもかも吐かせてやるわ、という気持ちで、ヴィクトリアは晩餐に挑んだ。