第66話 対決7
「ローズ王妃……!」
「ごめんなさいね、リア。あなたのことは好きだったけれど……仕方ないのよ」
「この馬鹿親がっ!」
息子の殺人を止めるどころか手助けするなんて。ヴィクトリアは思わず叫んでしまったが、しかし分かっていたことだった。
「……ああ、たまにはその女も役に立つな」
なにを言っているの、息子のために毒を盛ろうなんて大胆な行動に出たのに役立たず呼ばわりするなんて、と言いたかったがさすがに無理だった。
「安心しなよ、ひと息に殺してやるから。本当はいたぶり殺したいところだけど、そこまで楽しむ時間はないようだ」
「楽しむって……? どこまで変態発言するのよ!」
「うるさいな、もう黙れよ」
そう言いながら、ローズ王妃に足を掴まれて立ち上がることができないヴィクトリアに向けて、大きく短剣を振りかざした。
もう駄目だ、と思って目を閉じたときに、どこからか声が聞こえてきた。
「……タイマンと言っていたから、しばらく様子を見ようと思ったが」
「え?」
「どうやらそうではなくなったようだから、手を貸すか」
声の正体を確かめるよりも前に、すぐ近くからどん、と鈍い音がして、それから床に衝撃が走った。
見ると、そこには床に押し付けられているアーロンの姿があった。そして、そこから視線を上げると、
「なんだ、偉そうなことを言っていた割にはあっけないな? お前、戦闘能力ゼロだから、人殺しはやっぱり人に任せた方がいいぞ」
そこにはユアンの姿があった。彼はアーロンの肩を床に押し付け、その手を捻り上げていた。彼が持っていた短剣は彼の手から離れて、床に転がっているのが見えた。
「ユアン、どうしてここに?」
「……愚問だな。あんな牢、その気になればいくらでも抜け出せる」
「だったら、最初から逃げればよかったじゃない!」
「まあ、そうなんだけどな」
歯切れ悪く言いつつ、ユアンはヴィクトリアに縄かなにかを持って来るようにと言った。そんなものはなかったので、主室の隣の寝室からシーツを持って来た。ユアンは仕方ない、と言いつつシーツを引き裂いてアーロンを縛り上げた。
「僕をどうするつもりだ?」
もう観念したのか、縛り上げたときにはアーロンは声を荒らげるようなことはなかった。
「どうもこうも……。ローズ王妃、私、このことを大袈裟につもりはないんです」
「え?」
すっかり憔悴して床に座り込んでいたローズ王妃は弾かれたように顔を上げた。
「侍女に言って、ここにパパを……国王を連れてきてもらってください。たぶん、私がどうしても呼んで欲しいと駄々をこねていると言ったら、喜んでやって来るでしょう。そして事情を話して……なんとかして欲しいと頼もうと思います。国王は、あなたに弱みを持っているので、なんとかしてくれると思います」
「でも……。私がアーロンに言われてひとり娘に毒を盛ったなんて知ったら、ただで済むはずは……」
「そこは私がなんとか言いくるめますから。さあ、早く。きっと騒ぎを聞いた侍女たちが警備兵を呼んで来ようとしているところだと思いますから!」
「え、ええ……」
そうしてローズ王妃は躊躇いながらも、侍女にヴィクトリアが言ったように申しつけた。
後は上手く国王を納得させるだけだった。しかしここはなんとか切り抜けて見せると決意を固め、国王が来るのを待っていた。




