第64話 対決5
「しかし、アーロンが私を暗殺するように依頼したという証拠はあります。これをパパに見せたらどんなことになるか……」
「やめて!」
ローズ王妃は叫ぶような声を上げ、耳を塞いだ。
「そんなことはやめて……。そんなことをしたらあの子はどんなことになるか……。ただでさえ、隠し子ということは公然の秘密で……あの子がこの王城の中でどんな弱い立場にあるか……」
「では、認めますか? アーロンに頼まれて私のグラスにグラスに毒を入れたと」
「それは……」
「認めることなんてないよ。そんな証拠はどこにもないんだから」
突然の第三者の声に驚いて見ると、王妃の主室から続く続き前の扉が開き、そこからアーロンが出てきた。
「アーロン……一体いつからそこに?」
「最初から、かな? お前が急に訪ねてきたら、こちらに隠れていたんだ」
そう言いながら歩いて来たアーロンは、すっかり怯えたローズ王妃の背後に立った。
いつもとは、まるで様子が違う。
彼はまだ十三のはずなのに、ヴィクトリアよりもずっと大人びて見えた。複雑な生い立ちが、彼をそのように見せているのだろうか。
「そこまで露見しているならば仕方がないな。認めるよ、僕は君を殺すように命じた。とある人物に、ね」
「そんなに私が邪魔だったの?」
「そうだね」
いつものように屈託のない笑顔で言われて、背筋がぞっと冷たくなった。
人を殺すように頼むことなんて、なんとも思っていないという顔だった。それは自分で直接手を下さないから、なのだろうか。
「だってさ、馬鹿にしていると思わない? 過去の恋人のことが忘れられないから、妻に手を出さずに子をもうけることをしなかった。国王なんて責任ある立場でありながら」
「それは、確かに私もどうかと思うけれど」
「それで僕のような存在が生まれてしまったんだ」
「え……」
「このような忌むべき存在がね。笑えるよね、しかも夫の弟との間の子だなんて」
「そんなことはないわ!」
ローズ王妃はすがるような瞳をアーロンに向けた。
「何度も言っているでしょう? あなたは忌むべき存在などではない。ちゃんと愛されて生まれてきた子なんだから……! 確かに、生まれてきた事情は複雑だけれど、私の大切な……」
「お前は黙っていろよ!」
そう言ったかと思うと、アーロンはローズ王妃の頭を殴りつけた。
その衝動でローズ王妃は椅子から転げ落ちてしまった。




