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第54話 真実が知りたい

「あなたが狙ったのは私ではなく、私のグラスだったのね? どうしてそう説明しなかったのよ?」


「急に現れたと思ったらなんだ? 俺がグラスを狙っただって?」


「そうよ!」


 ヴィクトリアは足を踏みならした。絶対にそうだという自信があったから、念を押すような気持ちだった。

 ユアンはじめじめと暗くて寂しい地下牢の、粗末で固そうなベッドの上に横たわっていた。

 ヴィクトリアが来たことに気付くと、一瞬驚いたような顔をした後にいつものこちらを面白がっているような笑みを浮かべて立ち上がり、鉄格子のところまで歩いてきた。


「お前は本当に面白い奴だな」


「そう言われるの、不快ではないわよ?」


「今頃、『私を裏切って暗殺しようだなんて! 許しがたい男だわ! そもそもあいつは私を殺しにやって来たのよ、それだけで許しがたいのに。さっさと処刑してちょうだい』とでも言っているのかと思った」


「短い付き合いだけれど、あなたのこと少しは知っているつもりだし、そんな薄情じゃないわ。なにか理由があるはずって考えたの」


「そんなこと、考えなくてもよかったのにな」


「そうはいかないわ。ねぇ、そうなんでしょう? 私じゃなくて、私のグラスを狙ったんでしょう?」


「そんなことより、どうやってここまで来たんだ? 俺は王女に危害を加えた罪人なんだぞ? 厳重に警備されているはずだが……」


「話を逸らさないで! 警備兵ならひとりいたけれど買収したわ!」


「さらりと王女らしからぬことを言うな」


「そんなことはどうでもいいんだってば! 証拠は私のこの手よ」


 そう言いながら、ヴィクトリアは包帯を外していった。


「私、昔から身体だけは丈夫で、グラスで手を切ったくらいの傷、朝つくったら昼にはふさがっているのよ。それがこんなに赤く膨らんで化膿しているわ」


「だからなんだ?」


 ユアンは手を顎に当てつつ、回答が分かっているのにわざと聞き返しているような態度だ。それに少し苛立ちつつも続ける。


「私のワインに、毒が入っていたんだと思うの」


「ほう」


「それにユアンが気付いて、それで私のグラスを割った。ねぇ、そうなんでしょう?」


 考えた結果、そうとしか結論が出なかったのだ。


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