第49話 きっとなにかの間違い1
ユアンが投獄されたとの一報を受けて、ヴィクトリアはもう居ても立ってもいられない気持ちで部屋をうろうろと歩き回っていた。
詳細が分かったら知らせに来る、と言っていた警備兵はなかなかやって来ない。一報を受けたのは早朝で、それから食欲がないながら少しの朝食を部屋で摂り、いくら待ってもなかなか知らせはやって来ない。
「なにかの間違いに決まっているのに……」
そうぶつぶつとつぶやきながら歩き回っていると侍女のマーガレットがいつもはきはきとものを言う様子とは違い、こちらの顔色を窺いながら慎重に話しかけて来た。
「そう考えたいお気持ちは分かりますが……」
「そう、考えたい?」
少しの言葉尻を捉えて険のある声を上げてしまった。
そして、そんな自分の声を聞いて、とても気が立っているのだと気付いた。なにがあってもそこそこ冷静でいられると自分を評していたのに。こんなに苛立ちを外に出すことはあまりない。
「あの……ユアン殿はヴィクトリア様と一緒に来られて……それは、生まれ育った町では仲良くされていたかもしれませんが、立場が変わると人は変わるものですから」
「それは一体どういう意味なの?」
「王城には色んな者がいます。その……そそのかされたのではないかと」
誰かにそそのかされて、金銭でもちらつかされて、ヴィクトリアを暗殺せよと命じられた、とでも言いたいのだろうか。
普通に考えたら……一部頷ける話ではある。
昔馴染みが突然王女という立場になり、それに付き添いとして付いてきて、警護となったが、昔馴染みの王女としての扱かわれっぷりに驚き、もう自分とは身分が違うのだと思い知ったところに、
『金が欲しくないか? あの女を殺したらこれだけの金貨をやろう。じゃらりじゃらり……』
『え? こんなに? これだけあったら一生遊んで暮らせるぞ! 俺、やりまーす』
という流れがあったということだろうか。
しかし、ユアンである。
あのユアンが?
元殺し屋のユアンが??
否定したい気持ちいっぱいで、しかしマーガレットはユアンの事情は知らないので、あくまでもユアンは昔なじみだという設定で話をする。




