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第47話 乾杯!

「サイカ王国国王、ブラッド陛下」


 国王のお出ましを告げる使者が高らかに声を上げると共に、扉の前に控えていた侍従が扉を開け、そして国王が大広間に入ってきた。

 いつものパパのようではなく、威厳に満ちた国王のように見えたので驚いた。軍服風の服装で、それはいつものことだったが、いつものような頼りなさげな表情ではなく毅然と前を向き、胸を張ってと歩いているだけなのだがそれだけで誇り高い国王のように見えた。

 そうして招待客が国王の方を見て一斉に立ち上がる。


 今までざわついていた大広間が、水を打ったように静まりかえる。誰一人、こそこそ話をしている者もいなかった。


 そして誰もが、少し緊張した面持ちで国王の方を見ている。

 ああ、国王とは、このように畏れられ敬われる存在なのだと初めて目の当たりにして、こちらまで緊張してきた。

 しかし、パパこと国王は余裕の表情で、気軽にパパなどと呼んでいたことが信じられないほどで、なんだか少し怖いとまで思ってしまった。


(もし、万が一、私が女王なんてことになったら同じように振る舞わないといけないの? 無理だし、超やりたくない……)


 弱気になっているうちにも国王は歩いて来て、真ん中のテーブルの正面にある豪奢な椅子の前に立った。


「皆、私の招きに応じてこの場に集まってくれたことに感謝する」


 国王がそう言うと、皆は一斉に頭を垂れる。静まりかえった中、これだけの人数が頭を垂れるとなかなか爽快である……と思ったところで気付いて、ヴィクトリアも慌てて頭を垂れた。


「今宵は私のひとり娘を紹介したいと思う。ヴィクトリアだ」


 そう言われた途端に、人々の視線が一斉にヴィクトリアへと向き、驚いて逃げそうになったが当然逃げ場などない。

 それは恐らく一瞬だっただろうが、ヴィクトリアには一時間にも思えた。

 どうしたらいいのか分からず、ローズ王妃の方を向くと目配せをされたので、それでああ、と思い出してドレスをつまみ、腰を少し落として貴族ふうの挨拶をした。すると、今度は大きな拍手が巻き起こり、その嵐に翻弄されそうになりながら、精一杯の笑顔を浮かべて姿勢を正した。

 私はこの場所にいていいのだと、歓迎されている。

 今まであれこれ考えていたのが嘘のようにそう思うことができて、心がじんわりと温かくなる。

 そうして拍手が鳴り止まぬところに、国王が声を上げた。


「我が娘、ヴィクトリアを歓迎しよう」


 そうしてグラスを手に取り、高く掲げた。

 周囲の者も拍手をやめて、それにならってグラスを掲げる。ヴィクトリアも慌ててグラスを手にした。


「それでは、我が娘ヴィクトリアを歓迎して、乾杯!」


「乾杯!」


「乾杯!」


 あちらこちらから声が上がり、そしてヴィクトリアへと笑顔が向けられる。

 こんな嬉しい出来事が自分の人生であるなんて。

 そんな気持ちを噛みしめるように笑顔を浮かべていたときだった。


 パン!


 なにかが弾けるような音がしたと同時に、手元に水の感触があった。

 手元を確認しようとした瞬間に、悲鳴が上がり、そちらの方へと視線を向けてしまった。ヴィクトリアの手元を指差し、怯えたような表情を浮かべている。

 そうして周囲が騒ぎ始め、その騒ぎが自分のために起きているのだと分かって恐る恐ると手元へ目を向けた。

 ヴィクトリアの手にしていたグラスが割れ、そのグラスの破片が手をかすめたのか、皮膚が薄く切れて血が流れていたのだった。

 あ、血だ、と思った瞬間に痛みが襲ってきた。大した痛みではなかったが、今までの晴れやかな気持ちを暗い地の底へと突き落とすくらいの衝撃ではあった。


「は、早く手当を! 誰か!」


 これはローズ王妃の声だということはなんとなく分かったが、その後一斉にやって来た警備兵たちに取り囲まれ、とりあえず別室でお手当を、と言われるままにぼんやりと歩いて大広間から出て……その先は覚えていなかった。

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