第39話 夜の闖入者
ローズ王妃との初顔合わせも終わり、その後の夕食は自室でとることになった。
今夜は国王として来賓との会食があるとのことで、夕飯はひとりで食べてねと寂しそうにパパに言われたが、今日は特に疲れ切っていたのでひとりの方がありがたかった。
そうして食事を終えて、ローズ王妃に勧められた作法の本を読む気にもならずに暖炉の前でぼんやりと過ごし、侍女を呼んで寝支度を整えて、ベッドに入ったときに窓をノックされた。
最初は風の音かなと思ったがもう一度ノックの音が聞こえたのでそうではないだろう。
仕方なくベッドから出て、窓の前に立つとそこにはユアンの姿があった。
もっと常識的な時間に、常識的な場所から訪ねて来て欲しいわと思いながら窓を開けた。
「なに? 夜這い? それは間に合っているけれど……」
「お前は人を苛立たせる言葉を吐くのが上手だな。冗談のつもりなのかもしれないが笑えないぞ」
「あら、おかしいわね」
「どうしてもお前に助言したいことがあってな」
そうしてユアンは部屋の中へと入ってきた。乙女の部屋よ、なにをなさるの、とか言った方がいいかなと思ったが、鼻で笑われて終わりだろうからやめておいた。
「助言? 王女の作法についてとか?」
「助言というより忠告だな。あまり人を信じすぎない方がいい」
「は?」
「話は以上だ。それではな」
謎の言葉を残して颯爽と立ち去ろうとするので、ヴィクトリアはすかさず腰に抱きついてそれを止めた。
「うわぁ、なにすんだよ」
さすがのユアンが怯んだ。
なにをするのかと言われれば、手首を掴んだくらいじゃ軽く振りほどかれるだろうし、二の腕を掴んでも同様。全身の体重をかけて止められる、腰に両腕を回す方法がいいと思っての行動である。
「なにカッコよさげに去ろうとしているのよ。一体どういうこと?」
「……言葉の通りだ」
「こんな夜に人目を阻むようにやってきて、意味深すぎなのよ! 具体的な例を挙げて指し示せ! 私はまどろっこしいのは嫌いなのよ」
「そう言われてもな。とにかく離せ」
言われた通りユアンの腰を解放してから素早く窓を閉めてそちらに背を向けた。ここから出たければ私を倒してから行け、スタイルである。




