第37話 王妃の子供1
さすが王妃とでも言うべきだろうか、ローズはさして驚いた様子もなく冷静にその言葉を受け入れた。
「でも、薄々は聞いていたの。昔、陛下と大恋愛をした侍女がいたけれど、身分の関係で王城を追われた、とはね。それは恐らく、私との結婚が決まったからで。申し訳ないとは思ったわ」
「申し訳ない、なんて思ったんですか?」
「ええ。そんなに思いを寄せている方がいらっしゃるならば、愛妾になさればよかったのに、と。恐らくは私の実家に気を遣ったのだと思うけれど。だって、国王陛下にはお子さんは多い方がいいわ。母親が誰であろうと、ね」
よかったこの方は、自分の感情に振り回されるのではなく理性的に話せる人だとまずは安心した。
いやしかし、国王の弟と通じて子供までもうけた人なのでそう判断するのは尚早だと思い直した。
「今からでも愛妾を持った方がいいとお思いですか?」
「あらあら、リアはどうにも話を急ぐ方なのね」
そう言いつつ、それを不愉快に思っているような様子はない。
「そうですわね。この国ためにはお世継ぎ候補は多い方がよろしいかと思いますから」
「ですよね! 私もそう思います!」
そうしてヴィクトリアは、やったとばかりに胸の前で拳を握りしめた。
正妻が許すのならば愛妾を探すのに支障はないような気がする。
それから、とあることに気付いて慌てて付け足す。
「でも……できることならパパとローズ様との間にお子さんが授かればいいなと思います! 失礼ながら……」
「本当に失礼なので、その先は……」
ローズではなくて彼女の侍女、ナタリーの叔母が咎めるような声を上げた。主を気遣ってのものだろう。しかし、それを、ローズが制するように手を上げる。
「構わないわ。陛下と子をもうける気があるか聞きたいのね? もちろんあるわ。私たちは夫婦ですから。でも」
ローズは深々とため息を吐き出した。こちらまで気鬱になってしまいそうなため息だった。
「陛下にその気がないのですから、どうしようもないのです。こういうことは、女性の方からどうこうできるものではないでしょう?」
「な、生々しいですね。いえ、それを言い出したのは私ですけど。確かにそうですが……」
「私に女性としての魅力がないので、致し方がないのです」
それは、長い時間を掛けてかみ砕いてきて言葉にすることができたもののように思えた。こうまで言わせてしまったことを申し訳なく思えてきた、と同時に、どうにかできないものかと思ってしまう。




