第35話 王女教育
そうして朝食を終えて、自室に戻ると、侍女頭のマーサが待ち構えていた。
「昨日、わたくしがお休みをいただいている間にいろいろとあったそうですね」
きっとジュリアがあれこれ話したのだろう。
そして、そういえばあの口うるさい侍女がいないなと思っていたらお休みだったのか、と今更なことに気付く。
「相手に失礼があったことは重々分かっておりますが、それにしてもすぐに手が出るのはよろしくないかもしれませんわね」
気取ったような言葉に反発したくなるが、まったくその通りだと思ったので頷いておいた。
いや、別に一時の感情にまかせて叩いたわけではなく、その場をおさめるために致し方なく、だったが、その事情は明かせない。
「そろそろ、王女教育を始めるべきだと思いますわ」
「王女教育……その響きだけで裸足で逃げ出したくなるわ。それにマーサが教育係じゃなかったの? てっきりそうかと」
「もちろん、私は他の令嬢の教育係であったこともあります。ですが、王女様の教育係には他の相応しい方がいらっしゃるでしょう」
「そんなものなんですね……」
その相応しい人は、褒めて伸ばすタイプの人でことを願う。頭ごなしに怒られるのは苦手である。
「ヴィクトリア様は王女になられたのですから、王女らしく振る舞うのは義務だとお思いください。さっそく手配いたしましょう」
「そんなお気遣いをいただかなくとも」
「少々お待ちくださいね。ただちに手配いたします、ええ、今日にでも!」
やけにはりきった声で言って行ってしまった。
そうして、本当にその日の夕方には教育係にぴったりな人を見付けたと報告に来た。
「まさかあの方が引き受けてくださるとは……。ヴィクトリア様は幸せ者ですわ」
そんなことを言いつつ、一体誰なのかは教えてもらえなかった。
このとき分かっていればその場で断ることができただろうかと考えたが……いや、無駄だっただろうか。とにかく、その教育係はヴィクトリアが戸惑うような人物だった。




