第34話 女王にならないために2
「だいたい、ローズ王妃様もお気の毒だとは思わない? 王妃という立場ながらお子様がいないなんて。王城での立場も微妙なのではないかしら?」
「しかしながら……ローズはなあ」
国王は苦い顔である。
ローズ王妃には会ったことがないが、そんなに渋るような女性なのだろうか。気位が高いだとか、ちょっと顔が趣味じゃないだとか。
しかし、そういう問題ではないのだ。
せっかく運ばれてきた朝食には手をつけないままで、ヴィクトリアはまだ続ける。
「ローズ王妃だってそれを望んでいるのでは? パパの子供を産みたいと」
「ローズにはもう子供はいるよ」
「は? だったらその子が王子として……」
「ヴィクトリアちゃんも会っただろう? アーロンだよ」
「は……?」
「ここだけの話だ、他で話したら駄目だよ」
そう軽く言いつつ、国王は運ばれてきたスープを口に運ぶ。いつも笑顔の人だと思っていたのに、なんだかとてもスープを不味そうに食べている。
「あの……私の記憶が間違いなければ」
「うん、たぶん間違いないと思うよ」
「アーロンって、あのアーロンですか? 私の従兄弟だと思っていましたが!」
ヴィクトリアはテーブルをひっくり返しそうな勢いで国王に迫る。彼はとても気まずそうな顔をしている。
「男性として、僕よりも弟の方が魅力的だったんだろうね。それは仕方がないことだよね」
「仕方なくないと思いますけど! つまりは、浮気した結果生まれた子だということですか?」
「みんなには内緒ね。ローズにそう約束したから」
「内緒ね……って」
果たして本人はそのことを知っているのだろうか。貴族の間では兄弟で母が違うことは別に珍しいことではないだろうが、その母が問題である。
あまりのことに、ヴィクトリアは今までの勢いをなくしてしまった。そうして向かいに座るパパがスープを飲み終えたことを見て、自分も慌てて銀のスプーンを持ち、スープを飲み始めた。
まるで味がしない。きっと美味しいスープだろうに。
そうしてスープを飲み終えると給仕が素早く皿を下げて、次にふわふわのオムレツを持ってきた。この前、ヴィクトリアが食べたいとリクエストしたものだった。先ほどのスープ同様味がしなかったらどうしようと思ったが、こちらは濃厚なバターの香りがふわっとやってきて、滑らかな舌触りのオムレツだった。それで気を取り直して、再び話し始めた。
「いや、内緒って言っても、きっと公然の秘密ですよね?」
「僕は誰にも話していないのだけれど、知っている者は知っていると思う。まあ、さすがにまだ王城の外には漏れていないけれど」
「でも、王妃様の立場を考えたら致し方がないことよね? なにしろ、夫は自分に一本も指を触れてこないのだから」
「ヴィクトリアちゃん、だから朝からそんな話は……」
「でも、そんな事情があるならばローズ王妃とは難しいかもしれないですね……。じゃあ、愛妾は持っていないんですか?」
「だからね、ヴィクトリアちゃん」
そうしてもにょもにょと誤魔化されて、結局きちんと話すことはできなかった。
考えてみれば、急にできた娘にそんなことを言われても面食らってなにも言えないのが普通かもしれない。




