第33話 女王にならないために1
「パパにはなんとかして、ローズ王妃とのお子様をもうけていただきたいの! ね、それが一番いいのよ」
昨夜、たっぷりとベッドの中で悩んだヴィクトリアは、翌日の国王との朝食の席で挨拶もそこそこに、意気込んで話し始めた。
言われた方の、国王であるところのパパは目を丸くしてぽかんと口を開けている。
まだ出会ってから五日も経たない娘から、しかも朝っぱらから、なんの前振りもなく、そんなことを言われたら誰しもそういう顔をするだろう。
「ヴィ、ヴィクトリアちゃん、朝からなんてことを言い出すんだい?」
給仕達が国王が朝食の席についたと、慌ただしく動く中で上ずった声を上げた。
「そうね、子作りは夜するのが普通だものね」
「そういうことでなくて……! 年頃の娘が急になんてことを言い出すんだ。少し心配になってきたよ」
「私だったら心配いらないわ。それよりパパのことよ。だいたい、国王だっていうのに子供が私ひとりきりという状況はよろしくないわ! それはパパだって分かっているでしょう?」
「いやあ、しかし、それには事情が……」
「国王たるもの、子供のひとりやふたりや五人や十人や、二十人でももうけるべきではない? この国の行く末を考えると! ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
同意を求めるように国王の側にいつも居る第一の侍従へと目を向けると、初老の彼は急に覚醒したように目を輝かせ、大きく頷いた。きっと同じようなことを何度も国王に進言したが、聞いてもらなかったのだろう。
そして、同じくその場にいたユアンは、お前はまたなにを言い出すのだという顔をしている。そろそろ彼のあきれ顔にも慣れてきた。
「ね? 誰もがそう望んでいるのよ。国王にはもっと子供が必要だって!」
「それは……分かっているが。しかしなぜ、急にそんなことを言い出すんだい?」
「急にじゃないわ。昨日じっくり考えたのよ」
そう、ヴィクトリアは昨日じっくり考えたのだ。
王女という立場は重すぎる。ちょっと王女の悪口を言っただけで投獄されるなんて、とんでもない事態である。王族とは、それだけ尊い存在だと周囲に示すためだろうとは思うが、そんな立場に自分がいるなんてちょっと受け入れられない。
そんな周囲の大袈裟な対応は、国王のひとり娘なのだから余計に、なのだろう。
ならば、それを分散させればいい。
つまり、ヴィクトリアの他にも王女、王子がいればいいのだ。
そう、そして王子が生まれてその子が国王になるのが一番いい。この国では、国王の子息が第一の皇太子候補なのである。そうなれば、もしかしたらヴィクトリアが次の国王に、なんて事態は回避できて、もう少し気楽に王城で暮らすことができるだろう。




