第31話 ヴィクトリアの奇策
「よし、ここは謝りにいくことにしましょう」
「……唐突になんだ、誰に謝るって?」
「まだ王城の中にいるかしらね? 侍女に探してもらいましょう」
そうして侍女を呼び出して、彼女の居場所を探すようにと頼んでみた。
「ああ、恐れ多くもヴィクトリア様の陰口を叩いていたという娘ですね。確か、ロザリーでしたかしら? 伯爵の娘の分際で陰口などを、と憤る気持ちは分かりますが、急に叩くのもちょっと行き過ぎでしたかしら?」
やって来たのはいつもヴィクトリアの世話を焼いてくれて、そしてはっきりとものを言う侍女のジュリアだった。恐らくヴィクトリアとそう年齢が違わないのに、王城のことを知り尽くしているふうで、そしてとてもしっかりしている。
「それは先ほども言われたわよ、ジュリア。でも、あなたがきちんとした感覚を持った侍女で安心したわ。そうよね、行き過ぎよね? 口で言われたなら口で言い返せばいいのに、急に叩くなんて」
「でもまあ、ヴィクトリア様ならそれも許されると思いますが」
「そんなこと言わないで。私は謝りに行きたいのよ、そのロザリーのところへ」
「えぇぇ? 謝る必要はないかと思いますけれど……だって今更じゃありません?」
そう否定しつつも、恐らくは王城内にある彼女の叔母の部屋に居るのでは、ということだったので、ジュリアをやるよりも直接自分で行くことにした。
それはやめたほうがいいかと思います、という侍女の言葉を振り切って、ヴィクトリアは彼女がいるという部屋へとユアンを引き連れて行った。
「急に叩いたりしてごめんなさいっ。びっくりしたわよね? 頬が赤くなっていたけれど……大丈夫だった?」
ロザリーがいる部屋に入るなり、ロザリーはぎょっと目を見開き、彼女の叔母と思われる人の背中に隠れてしまった。
そうして、ヴィクトリアが謝罪の言葉を吐き出すと、とても意外そうな顔をして背中から顔だけを出した。
ロザリーの顔は泣き腫らした顔で、なんだかとても申し訳ない気持ちになってくる。
「ああー……結構頬も腫れてしまったんじゃないですかね? ごめんなさいね、あの場をおさめるにはあれしか思いつかなくて」
彼女の叔母の前ということを気遣って、言葉をぼやかしておいた。
「い、いえっ、そんな……」
ずっと泣いていたらしく、声がかすれていた。頬を叩いたことも急ならば、ヴィクトリアが訪ねて来たことも急で、対応できるような状況ではなかったのだろう。




