第30話 ユアンの手柄
「さっきは助かったわ。ああ言ってくれなかったらあの警備兵たち、本当にあの娘を投獄しかねなかったし!」
自室に戻り、侍女達のお小言が終わってからやっとひと息ついたところでユアンに話しかけると、
「お前こそ。階段から転げ落ちて打ち所が悪かったら死んでいたかもしれないぞ? なのに、あの娘を庇うんだな」
「大丈夫よ、受け身取れただろうし!」
「そういう問題ではないのだが」
あなたこそ、先には私を殺そうとしたくせになにを言うか、と思ったが口には出さなかった。
「あっ、そういえばまだお礼を言っていなかったわ」
ヴィクトリアはユアンの前に立ち、彼の顔を見上げた。
「階段から落ちそうになったとき、支えてくれてありがとう」
「……受け身、取れたんだろ?」
「死ぬことはなかっただろうけれど、足を挫いて怪我をするくらいはあったかもしれないし。そうなったらもう、彼女を庇うこともできなかったかもしれないし」
「自分よりも、相手の心配なんだな」
「ええ、そうね。そうならなきゃいけないって今回の一件で分かったわ。私は悪口言われただけなのに、相手は王城に出入り禁止の上に投獄されるだなんて。王女って結構堅苦しいものなのね。周囲も気を遣うはずよ」
あーあ、と言いつつ椅子に座り、脚を思いっきり伸ばした。
それにしても、あの娘には悪いことをしてしまった。急に叩いたりして、さぞやびっくりしたことだろう、泣いていたし。きっと今まで親にもぶたれたことはなかったのだろう。
そんな娘に悪いと思う気持ちはあっても、懲らしめようなんて気持ちはまるでない。




