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第3話 殺し屋さんとの取り引き

「とにかく、あなたはいい判断をしたわ! だいたい、なにも知らない娘を殺そうなんて企む奴、どうしようもない者に決まっているもの!」


「……まあ、異議はない」


「私、きっと多くのお金を手に入れてあなたの依頼人が支払うのより多くのお金をあなたにあげるわ! だから待っていてね! じゃあ!」


 そうして彼に手を振り、颯爽と立ち去ろうとしたところで背後から襟首を掴まれた。


「お前、そうやって逃げて、約束を反故にするつもりだろう?」


「そんなことはないわ! もうすぐ私のところには大金持ちの父親からの迎えが来るのよね? そうして私は大金持ちの屋敷に連れて行かれて父親と感動の再会をするのよね。……今更父親面するなんてどういうことって正拳ぶちかましてやりたいところだけど、それを我慢して大人しくしているわよ。今まで放っておいた私に悪いと思っている父親は、きっと私にネックレスや指輪やブレスレットや、とにかく金目の貴金属をくれるはずよ。それを売り払ってお金を作るわよ。そうしたらあなたにお金を支払うわ」


「信用できない」


「いやね、私、約束は守る方よ?」


「お前の顔はいざとなったらシラを切る顔だ」


「どんな顔よ」


 そうして、再び殺し屋との言い争いが続いた。

 男の顔は、布に巻かれて見えなかったので『お前の顔こそ、人を裏切る顔をしている』と言い返せなかったのが悔しいところだ。


「じゃあどうしろっていうのよ? 念書でも書く?」


「お前はいざとなったらそんなもの破り捨てそうな顔をしている」


「さっきからなんなの? 私ってそんなに信頼置けない顔をしている?」


「お前の父親がそうだからだ」


 あら、まだ見ぬ私の父親になにか恨みがあるのかしらと、父親に対する評価がだだ下がりである。まあ、身重の母親を捨てた時点で地獄に落ちろとは思っていたが。


「……一緒に連れて行け?」


「は?」


「そうだな俺は……お前の幼馴染みとかそういうことにしておこう。そうして、お前は急に父親に呼ばれたからって、そんな訳も分からない場所にひとりで行きたくないと駄々をこねるんだ」


「あらやだ! それって幼馴染みと恋の予感じゃない?」


「そんな予感は気のせいだ。お前、脳かなにかの病気じゃないのか? 一度医者に診せた方がいいんじゃないか?」


「うぅーん、って言われても医者に診てもらうようなお金はないし」


「まともな取るな。……本当に調子が狂うな」


 男はがりがりと頭を掻いた。


「よく考えてみろ。お前は命を狙われたんだぞ」


「そんな、まるで人ごとのように。私の命を亡きものにしようとした当事者がなにを言うか」


「俺が幼馴染みだと嘘をついて一緒に行って、行く先ではどんな危険が待っているか分からないぞ? 俺がそんな危険から守ってやろうと言うんだ」


「えぇ?」


 なにを言い出すのだこの男は、という気持ちでいっぱいだ。

 ついさっきまで自分を殺そうとしていた男を護衛として雇おうと言うのか。なんてとんでもないことを言い出す、と思ったが、その男に対して依頼主よりも多く金を払うから助けろ、と言った自分もたいがいだと思う。


(要は、見張るってことかな? 約束したお金を踏み倒さないように)


 それならば一応は納得できるが、借金取りに側にいられるようで嫌だなあと思う。お金は必ず払うと言っているのだから、数年後に取りに来てくれるだけでいいのに。


「でも、私が誰の娘でどこに連れて行かれるのか知らないけれど、その先にはあなたの依頼主がいるんでしょ? マズくない?」


「依頼主には俺の顔は割れていない」


「そうでしたか……」


 どうやら誰の依頼も請け負う殺し屋らしい。

 それにしても、よく分からない者を幼馴染みとして連れて行くなんて無理がないだろうが。彼の言うとおりまったく見知らぬ場所に行くには不安がある。きっと彼は、ヴィクトリアからお金を受け取るまでは守ってくれるような気もする。


 そうしてしばらく考え込んでから、ヴィクトリアはひらめいたとばかりに指をパチンと鳴らした。


「分かったわ! 今日からあんたは私の舎弟ってことにしてあげる!」


「舎弟……お前なあ……」


「その舎弟が泣いて喚いて、姉御と離れたくないって騒ぐから、仕方なく連れて行くってことにしましょう! そうよ、それがいいわ!」


「よくない! 幼馴染みでいいだろ?」


「あら、恋の予感?」


「それはもういい!」


 そんなろくでもない事情で、殺し屋さんはヴィクトリアと一緒に行くことになった。


               ※※※


 その日の夜は眠れなかった。

 殺し屋さんによると明日の朝には父親が差し向けた使いがこの町へやって来るという。

 一体どんな父親……と考えてやめておいた。


 きっとろくでもない父親に決まっていた。身重の母を捨て、母やヴィクトリアを今まで放っておいて連絡ひとつ寄越さなかった父親だ。

 きっと本妻がいて、愛人だった母を捨てたという理由だろうが、金持ちならば別宅でも作ってそこにヴィクトリア母子を住まわせればよかったのに。それをしなかったような者なのだ。急にヴィクトリアを自分の手元に呼んだのにも、なにか事情があってのことで、それはあまり嬉しくない事情かもしれない。


 ヴィクトリアの母は流行病で死んだ。

 医者に診せる金もなく、薬を買う金もなく死んだのだ。もし父親の援助があれば今も生きていたかもしれない。


(嫌だ、なんだか腹が立ってきたわ……)


 やっぱり一発殴らないと気が済まない。

 そして金持ちの父親から金を強奪しよう。そうして殺し屋さんにお金を払ってさっさとバイバイして、残ったお金で……そう、船を買おう。その船に乗って世界中を旅して……海賊たちが埋めたお宝を探しに……。


(海賊王に……私はなる……!)

 そう思った次の瞬間には深い眠りに落ちていた。


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