第28話 お茶会の後で3
「ぎゃっ!」
庶民丸出しの声を出してそのまま転がり落ちる、と思ったところで力強い腕が伸びてきて、ヴィクトリアの腰から手を回して体を支えてくれた。
「た、助かったわユアン」
震える声で言うと、
「……まったく助かっていない」
ユアンはヴィクトリアを自分の背中へと隠すようにしてから、娘達に鋭い視線を飛ばした。
「お前達、一体どういうつもりだ? 少しの嫌がらせには目を瞑るが、これはやり過ぎだろう。このまま階段から転げ落ちて、打ち所が悪かったら死んでいるぞ」
その場にいた三人の娘は……ヴィクトリアに足を引っかけた娘だちだけでなく他のふたりも、真っ青な顔をして立ち尽くしていたが、やがて開き直ったのか気色ばんだ声を上げた。
「な、なによ大袈裟な。怪我ひとつしなかったからいいじゃない!」
「そうだな。ではこのことをヴィクトリアの父親に報告しよう。せっかく会えた娘が殺されかけたと知ったら、あの一見温厚そうに見える国王も黙ってもいないだろうな。その咎、お前達の一族にも及ぶだろう」
「いやいや、それは大袈裟っすよ」
重い空気が嫌で、ヴィクトリアはわざとおどけたように言うが、
「お前は黙ってろ」
怖い顔で睨まれてしまった。
なによ、舎弟のくせに生意気よと思ったがヴィクトリアは大人しく黙った。
「そ、そんな……私達に悪気はなくて」
「悪気がなくて足を引っかけるか? しかもこんな階段の上で」
「それは、ついつい……。興奮して、ここが階段だって気付いていなくて」
「そうやってついつい足を引っかけて、何度も他の娘たちを転ばせてきたんだろうな」
「そんな! これが初めてです!」
「怪しいな。それも一緒に国王に報告しておこう」
「そ、そんな……。そんなことを言われたら私はお嫁のもらい手がなくなってしまいます……」
「この期に及んで嫁に行けるかどうかの心配か? 命の心配をしろと言っているんだ」
「ああ……」
まるで今日は葬式かという雰囲気に頭が締め付けられる痛む。
そして間の悪いことに、騒ぎを聞きつけたのか複数の人の慌ただしい足音が聞こえてきた。この状況はよろしくない、なにしろ仮にも王女が足を引っかけられて階段から落ちそうになったのだ、と思うが、どうしたらいいか分からない。
「ああっ、もう!」
ヴィクトリアはユアンの背中から飛び出して、ヴィクトリアに足を引っかけた娘の頬を思いっきりひっぱたいた。
不意を衝かれた娘は最初きょとんとして、それから見る見る顔を歪ませて、そうして子供のような大声で泣き始めた。
「な、なにをやっているのだ?」
やって来たのは警備兵で、この状況がなんなのか分かっていないようだった。
「……私が上手いこと言っておくから、しばらく黙っていて。そして、私のしたことに不服がない限りそのまま沈黙を守って」
ヴィクトリアがそっと言うと、娘達は顔を見合わせて、そして小さく頷いた。




