第27話 お茶会の後で2
「ああ、分かった? さすが私だって尊敬する気になった?」
「さすが八十三人の舎弟を束ねる姉御であるだけはある」
「あっ、そうだ思い出した! ユアンを入れたから八十四人よ。舎弟の数!」
「俺を数に加えるな!」
「えぇー、いいじゃない。入ったらいいと思うわよ『栄光のヴィクトリア姉御とそれを崇拝する舎弟たちの会』」
「微妙に会の名前を変えるな」
そうして再び歩き出し、もうすぐ自室に付くというところで不意に思い出した。
「ねぇ、私、あの広間に行く前には扇を持っていなかった? 羽根飾りがついた派手なやつ」
「持っていたな」
「忘れてきた! 今戻ったらまだあるかな? 盗まれていないかな?」
「ここはお前が住んでいたような物騒な下町とは違うんだ。おい、そんなに急がなくてもまだあるだろ?」
ヴィクトリアはふんわりと……邪魔なドレスの裾を持ち上げて、広間に向けて走って行った。
あの羽根がふわふわで、気に入っていたのだ。ドレスは日替わりかもしれないが、扇は日替わりでなくてもいいだろう。しばらく使っていたかったのだ。
そうして通路を抜けて、階段を駆け下りて折り返しに来たときにふと、階下から自分の名前を呼ばれたような気がして立ち止まった。
「……ヴィクトリアなんて気取った名前ね! 全然そんなゴージャスな感じじゃないのに」
しまった、これは名前を呼ばれたのではなく陰口を言われているのだと、足を止めたことを後悔した。
このまま、なにも気付かないふりで駆け抜けていければよかったが、今このまま下りていったら陰口を言っている主と鉢合わせしてしまう。それは避けたかった。
どこか隠れるところは、とキョロキョロしている間にも更に話は進んでいく。
「だいたい、ノーラ様の従姉妹だからって図に乗っているわよ」
「そうよね、いくら招待されたからって普通出席する? 名だたる貴族の娘たちが集まる会なのよ? 庶民上がりが」
(ええっと、招待を断ったら断ったで生意気だって言われそうよね、それ?)
要はヴィクトリアのことが気に入らないのだろう。理由なんてどうでもいいのでこけ下ろしたいだけなのだ。
「ノーラ様も酷いと思わない? あんな娘を会に入れようだなんて」
「私もそれ思ったわ! あんな野蛮な人!」
「もしかして危機を感じているんじゃなくて? 急に王女が現れたから」
「そうよね。自分の地位が脅かされてしまうかもしれないものね!」
いや、全くそのようなことではないと思うんだけれど、と焦りながら、ここは引き返すのが一番だろうと思いついて踵を返そうとしたところで、
「なにをしているんだ、ヴィクトリア? そんなところで突っ立って」
いつの間にかユアンが追いついて来ていて、周囲に響くような大声を出した。
(ユアン~~~、元殺し屋なんだから気付きなさいよ、この不穏な気配とか)
ついつい八つ当たりをしてしまうが、まあ、無理な話だろう。
「あ……」
そうして間の悪いところに、ヴィクトリアの悪口を言っていた娘達と出くわしてしまう。それは、先ほどの妹会ではヴィクトリアのことを褒めちぎっていた娘たちだった、庶民の出だと言うが、気品が漂っているとかなんとか。お世辞だとは分かっていたはずだったが、少々ショックなのは自分が真に受けていたところがあったからだった。そんな自分が残念すぎる。
「な、なによ? こんなところで立ち聞き? さすが庶民育ちは違うわね?」
このまま知らんぷりで、軽く挨拶でもして通り過ぎてくれればよかったのに、突然のヴィクトリアの出現に不意を衝かれたのか、つっかかるようなことを言ってきた。
「は、はあ……。すみません」
争い事は好まない。
特に女性たちとの争い事はごめんだ、面倒くさいから、との気持ちからさっさと立ち去ろうとしたヴィクトリアが気に入らなかったのか、階段を駆け下りようとしたヴィクトリアに足を引っかけた令嬢がいた。




