第26話 お茶会の後で1
「なんとも居心地の悪い会だった。またあれに参加することになるかと思うと憂鬱になるな」
『麗しきノーラ様とその側に咲く白百合の妹たちの会』が終わりユアンと共に自室に戻る途中の通路だった。
そうユアンが言ったことに、なぜかほっとするヴィクトリアがいた。なぜだろうと考えるが、やはり自分でもよく分からない。
「意外ね、あんな見目麗しい令嬢たちに囲まれて、男共ならばいくらでも参加したいだろうに!」
吐き出した言葉は、なぜか少しチクチクしたものになってしまった。
「そういう男もいるかもしれないが、俺はごめんだ。ああ、きゃあきゃあ騒ぐ声が苦手でな。姉さんたちが……」
そこまで言いかけて、ユアンは口を噤んだ。
あ、彼には姉たちが居るのだとその発言で初めて知った。彼が自分のことを話すことはなく、ユアンというその名前も偽名の疑いが濃いのだ。だから、これは思いがけないことだった。
「お姉さん達がいるの? その中で育ったんなら女性の集団が苦手なのが少し分かるわ」
「あ、ああ……そうだな。そんなことより、あの会はなんなのだ? 女性が女性を囲む会、だなんて。そもそもそれが分からない」
先の、たぶん彼にとっては失言であろうことを誤魔化すような早口である。自分のことは話したくないし、聞かれたくもないんだろうな、と少し残念な気持ちになる。彼は元殺し屋であり、身分を明かしたくないのは仕方がないことではあるのだが。
「私はこの会、自分は入会するのは気が引けるけれど、そうね、ずっと王女として育っていたら入会していたと思うわ」
「……本気かよ?」
「貴族の令嬢たち、華やかなだけだと思われているだろうけれど、きっと本人達は大変だと思うのよね。年頃になったら自分の意志とは関係なく、どこぞの貴族の家に嫁がされてしまうんでしょうし。好き同士で結婚するなんて稀でしょう?」
庶民の間だったら、好き合って結婚することもままある。だが、貴族社会の中では難しいと思える。結婚は家同士の結びつきを強めるためのものであるから、娘の意志など関係ないだろう。ものすごく年上のおじさんのところに嫁がされる可能性もあるし、生理的に受け付けない人とも結婚せざるを得ないという事情もあるだろう。
「だから、結婚するまでの息抜きってところもあると思うの」
「なるほど。そんなふうには考えなかったな」
「それにね、結婚してからも。結婚によって親戚同士になった娘たちが、双方とも妹会に入っていたってことになったらいい話の種になるし、結びつきも強くなるでしょう? だからね、悪くないと思うのよ。あの会は。それに自分が参加するかは別としても」
「お前は……」
ユアンがあまりにも深刻そうな声を出すので、思わず足を止めて彼を振り返ってしまった。
「ときどきこちらがびっくりするくらい鋭いことを言うな。俺はあんな馬鹿馬鹿しい会としか思っていなかったのだが」




