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第25話 覚えのない感情

「では、今日は楽しんでくれたまえ! 私の従姉妹であるヴィクトリアをお披露目する会でもあるからな!」


 そうしてそれからはそれぞれ自由に席を替わりつつのお茶会になった。

 ノーラが、全ての令嬢たちの不公平にならないように席を替わりながら会話をしているのが、さすがだなと思った。そういう気遣いがなければこの会は成立しないのだろう。

 そうして、ヴィクトリアの周囲には次から次へと令嬢たちがやって来て、ヴィクトリアにあれこれ質問をしていった。その質問に何度も答えるのは面倒だなと思っていると、ヴィクトリアの側にずっといる令嬢……チェルシーという名の世話好きそうな娘なのだが、彼女が代わりに答えてくれることもあって助かった。


 恐らくは、ヴィクトリアが困らないようにとノーラが付けてくれたのだろう。あるいは会のゲストに対してこのようにお世話係をつけてくれることになっているのか。どちらにしてもよく気配りができている会であることに間違いはない。

 そうしてユアンは、いつの間にかヴィクトリアとは離れた席にいて、そして令嬢たちに囲まれて少々困ったような顔をしつつ無難に会話をしている様子だった。


(あ……モテてる)


 先ほど、舎弟とはなんですか、と遠慮がちに聞いてきた令嬢がユアンのすぐ隣にいて、周囲の令嬢たちとの仲立ちになっているのだった。

 そうしてユアンの周囲に集まった令嬢たちは、なんだか本気に見える。

 本気、とは、ノーラに対するような、淡い憧れの気持ちでお姉様と慕っている、というような様子ではなく、婿にしようと画策しているように見えるのだ。

 ユアンは元殺し屋で今は私の護衛なんですよ、という気持ちであるが、この中には家が裕福で、デキる男ならそのまま婿養子にして、なんてことができる者もいるだろう。

 それにヴィクトリアは王女となったのだ。

 その王女の舎弟なのである……ということになれば王城での地位もそこそこあるのかもしれない。


(あ……なんだろう、これ?)


 ユアンと楽しそうに話している令嬢たちを見ていると、なぜか不快な気持ちになり、胸がきゅっと締め付けられるような痛みがあるのだ。

 なんだろう、この感情は、と自分で自分が分からなくなった。


(……きっと舎弟を取られたようで嫌だったんだな、うん、きっとそうだ)


 舎弟とは偽りであり、ユアンを舎弟だと思ったことは一度もないのにそう思い込むことで自分を納得させた。


「……ヴィクトリア様はお幸せですわね。町娘だったのが、王女様になるなんて、物語の中のお話のようですものね」


 いつの間にか隣に座っていたおっとりした令嬢が話しかけてきた。

 ヴィクトリアよりひとつかふたつ年が下だろうか。それにしては落ち着いている雰囲気だった。


「え、ええ……そうなんですかね? なんて言ったら怒られてしまいそうでけれど、今はこの状況に慣れるのに精一杯なので」


「世の中には逆のこともありますのにね」


「逆?」


「……いえ、なんでもありませんわ。お気になさらないで。ところで来月、城下町で開かれるお祭りのことはご存じ? こちらに来たのでしたらぜひとも……」


 そうして別の話題に移ってしまったのだが、その言葉がなんとなく気になった。

 逆とは、高位な身分から追われてしまったということだろうか。

(まあ、貴族社会ではそんなこともあるでしょうね。彼女はそんな思いをしたことがあったということかしら?)

 ヴィクトリアを見て、ついそのことが思い出されてしまって口に出してしまったということだろうか。

 こうして和やかに話していても、裏ではなにかあるのかもしれないということを心に留めておいた方がいいだろうな、ということを改めて認識した。


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