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第21話 麗しきノーラ様とその側に咲く白百合の妹たちの会への誘い

 そうしてユアンと話していると、ノックの音が部屋に響いた。ユアンが応じて扉を開けると、そこには見知らぬ使者が立っていた。招待状を持って来たのだと言う。


 ユアンがそれを受け取ろうとしたのだが、使者がいることに気付いたらしい侍女がやって来て、ユアンからかすめ取るように招待状を受け取った。そして、それを裏返して宛名を確かめてから、ヴィクトリアにそれを渡した。


「ノーラ様からの招待状です」


「ええっとありがとう……」


 おずおずと招待状を受け取ると、その侍女は仕事は済んだはずなのにずっとそこに立っている。どうやら中身を確かめるまで立ち去る気はないようだ。


「すごいわね、使者がやって来たことに気付いて来たの?」


 招待状の封を開けながら尋ねると、


「ええ、ヴィクトリア様の部屋の隣には侍女達の控えの間がありますから。なにか用事がありましたらいつでもそちらのベルを鳴らしてお呼びくださいと申し上げましたよね?」


「もしかして、使者から招待状を受け取るのもあなたたちに頼まなければならないことだったりするのかしら?」


「ええ、もちろんですよ」


「面倒くさっ」


「そうですね、庶民育ちのヴィクトリア様は面倒くさいとお思いでしょうが、こちらのやり方がありますので、慣れてください」


 淡々と言う侍女の言葉を聞き流しながら招待状を開くと、それは明後日に開かれるお茶会への招待状だった。侍女は当たり前のようにそれを覗き込む。


「あら、明後日ですのね。急いでドレスの準備をしなければいけませんね」


「ええっと、拒んでも無駄だとは分かったのでお任せします。それより、この『麗しきノーラ様とその側に咲く白百合の妹たちの会』というのが?」


「ええ、ノーラ様の妹会ですわ。入会するには厳しい審査がありますのよ。今回、ヴィクトリア様はゲストという扱いのようですね」


「ノーラ様は大変な人気なんですね、その妹たちに慕われているようで」


「ええ、社交界の娘達の人気は、ヒューバート様とノーラ様とで二分されておりますよ」


「ははあ、そうでしたか」


「ヒューバート様派は、もう直接的にヒューバート様の嫁の座を狙う、下心丸出しの者たちです。それと比べてノーラ様派の者たちは、純粋にノーラ様を慕う者達の集まりです。一生その心はノーラ様に捧げられるでしょう。ああ、なんと美しい!」


 そう言う侍女は疑う余地もなくノーラ派のようだ。


「ええっと、ノーラ様は一生独身を誓っていたりします?」


「もちろんです! ノーラ様は誰の者にもなりません! 一生、妹たちと共に生きていくのです」


 王族である以上、それは許されないような気がするのだが、その辺りはどうなのだろう、と考えてみてから、それは自分にも当てはまることだと気付いた。


(そういえば私は王女だったわ。結婚させられて当然な立場だった)


 今まで思いつかなかったのが不思議なほどだ。

 もしかしたら、見知らぬ国の王族の元へ嫁がされてしまうかもしれないし、国内の有力貴族の元へ嫁がされてしまう可能性だってある。……こんな庶民育ち、結婚することになった相手は気の毒だなあと思ってしまう。どうせならそんなことを気にしないような大らかな心を持って、束縛がなく、ほんわかとした坊ちゃん育ちと結婚したいなと思う。その方が結婚生活は気楽そうだ。


「このお茶会、では名だたる貴族の娘達が集まるってことよね?」


「ええ、そうですわね」


「私、どういう立場で参加すればいいのか分からないわ……」


 ノーラのことはいい人だと思うし、親しくなりたいとは思うが、他の娘達のように憧れたり敬愛したりするような感情は今のところない。


「そんな、招待されたのだからまさか断るなんてことはございませんよね? 別に心配されるようなことはないと思いますよ? ヴィクトリア様はノーラ様の従姉妹なのですから。新人いびりのようなこともないでしょうし」


「は? 新人いびり? そんなことあるの?」


「ええ、礼儀を知らない新人に対してはあるようですよ」


 それは暗に、ヴィクトリアに礼儀がないと言っていないだろう、と思うのは考えすぎだろうか?

 なにはともあれ、面倒くさい会であることは分かった。参加したくないなあ、という気持ちでいっぱいである。


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