第20話 対面の後で
「もう、驚いたわよ。一体どういうつもりなの?」
従兄弟達は会合を終えて、部屋に戻って大仰なドレスを脱いで部屋着という名前ではあるが、ヴィクトリアにとってはまだ慣れない別の窮屈なドレスに着替えてから人払いをして、ユアンと話していた。
ヴィクトリアは窓際のゆったりとした椅子に座っていて、ユアンは暖炉の側に立っている。誰もいないのだから座ったらと言ったが、別に長居するつもりはないからいいと断られていた。
ちなみにユアンは、パパの許可を得て正式に護衛ということになったので、ヴィクトリアの部屋の近くに小さな部屋を与えられていた。ヴィクトリアになにかあったらすぐに駆け付けられるように、という部屋である。
少し開いた窓から少し湿り気が持った風が流れ込んでくる。ふと見ると分厚い雲が張り付いていた。夕方前には降り出すかもしれない。
「どういうつもりもなにも、お前が従兄弟たちに侮られないためにだ」
「そんな空気はまるで感じなかったけれど? 温かく歓迎してくれたじゃない」
「奴ら、お前を兄弟扱いしようとしただろう?」
「ええ、そうだけれどなにがいけないの? 親愛の情を感じて、嬉しかったけれど」
「血筋から言ったら、どう考えてもお前の方が上なのだ。それを自分達の兄弟などと言って取り込もうとした」
「そんな優れた血筋の者を、お前呼ばわりする自分のことはどう思う?」
「それはそれだ」
だが、そう言われるとなるほどそのような考えもあるのだなと思える、残念ながら同意はできなかったけれど。
「ところで『ヴィクトリア姉御とその舎弟たちの会』とはなんなのか?」
「は? もしかして知らずにあんなことを?」
「そのような怪しげな会があるとは調べたが、名前しか知らぬ。しかも八十三人も舎弟がいるだと?」
「ええ、そうね。私を姉御と慕う舎弟が八十三人も、と威張りたいところだけれど残念ながらちょっと違うのよね。相互扶助会のようなものよ」
「なんだそれは? 相互扶助会だって? そんな堅苦しい会なのか?」
「要は、貧乏人同士お互いに助け合いましょうって会で。私みたいに身寄りのない人たちが集まって、誰かが怪我したり病気したりしたりしたときに、少々ながら金銭的な援助をし合おうって会なのよ」
「もしかしてそれは……以前に言っていた病気で死んだ友達のことが関係あるのか?」
「察しがいいわね、その通りよ」
ヴィクトリアひとりでは病気の妹を抱えた友達を助けることはできなかった。ヴィクトリアにも生活があるし、それを捨ててまでとはなかなかできなかったし、友達だって受け入れなかっただろう。ヴィクトリアにできることは微力だった。
ならば微力たちを集めたら、少しは力になれるだろうかと考えたのだった。
そうして仲間と一緒になって、会を始めた。
自分の生活を損ねてしまうような無理はしない、でも、誰かが困っているときにできることはする。
最初はこの会には名前なんてなかったが、誰かがふざけて発起人であるヴィクトリアの名を掲げてそんな名前で呼び始めたのだった。
「俺は少々お前をみくびっていたような気がする」
「それってどういう意味よ? お金のためなら殺してもいいとでも? まあ、お金のために殺されていい人なんていないと思うけれど」
「あのときに躊躇って、よかったと思う」
短い言葉だったが、なんだかヴィクトリアは認められたような、くすぐったい気持ちになった。
「案外お前は、ここで上手くやっていける気がする」
「そうかしら? でも、私もなんだか想像していたのと違って案外居心地がいいけれど、来てからまだ三日だからそう判断するのは早いかしらね?」
「まあ、嫌になったらやはり王城の暮らしに馴染めないとかなんとか言って、どこか田舎の別荘にでも引っ込めばいい。あのお前に甘い国王ならどうとでもしてくれるだろう」
「まさか僕を置いていくの、とかなんとか言われそうな気もするけど。でも、まあそうね。気軽にやっていくことにするわ」