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第19話 姉御たちの会

「なぜだ? どうして君にそんなことを言う権利が……」


「なぜならば、ヴィクトリアは『ヴィクトリア姉御とその舎弟たちの会』の会長だからだ!」


 なんだかとても残念そうな響きのことを、まるでとてもすごいことのように言い切る。


「……え? なんで知っているの?」


 口に出してから、しまったとばかりに口を手で覆いつつ立ち上がり、ユアンの隣に立った。


「ちょ……なにを言い出すのよ?」


 しかし、先ほどの侍女に対する態度と同様に、ユアンはヴィクトリアに目もくれずに更に続ける。


「ヴィクトリアは百人から会を束ねる会長なのだ! それが他の会に入会するなど許さない!」


「ちょ、っと、百人は大袈裟よ! 八十人くらいだわ!」


 ヴィクトリアの声に、ユアンの視線がやっとこちらへと向く。


「……そんなにいるのか? いやでも、だったら百人は誤差ではないか?」


 どうやらユアンは会の存在については調べて知っていたが、その実情については知らないようだ。


「誤差? 百人と八十人は違うわよ……って、それを誤差というならきちんとした人数を言わないと駄目よね。ええっと、ジェイミーにロンに、ジーンに……」


 ヴィクトリアはひとりひとりの顔を思い浮かべながら指折り数えていった。


「そうっ、八十三人よ!」


「いいか? ヴィクトリアは約百人の会を束ねる会長なのだ!」


 せっかく数えたのに結局だいたいの人数で片付けられてしまった。


「そんな数の舎弟がいるというのに、妹会など入れるか」


「うぅぅ、確かに」


「え?」


 そんな意味の分からない言い分に、素直に応じているノーラが不思議すぎる。

 なんだろう、ちょっとおかしな考えの人なのかなと思っていると、ノーラは立ち上がってユアンの前までやって来た。


「ヴィクトリアがそんな会の姉御として慕われているとは知らなかった」


「いや、あの会はそんなものでもないんですけど……」


「そうだ、ヴィクトリアを庶民の間で育ったからと見くびってくれては困る。多くの舎弟に慕われている姉御なのだ」


 ユアンは腕を組みつつ言う。

 どうしてそんなに偉そうなのか、意味が分からない。


「そして自分はその舎弟たちを束ねている頭である!」


 ユアンは自分の顔を親指で指差した。

 それに対して、ノーラはともかくヒューバートとアローンは『なんとくだらない』との反応だろうなと思って見ると、ふたりともなんだかとても尊いものを見るような目つきでユアンを見ている。


「そうか、その舎弟たちの代表としてヴィクトリアと一緒に来たのだな」


 ヒューバートは立ち上がってユアンに手を差し出した。ユアンはまるで当然というようにその手を取り、固い握手を交わした。


「正直、ヴィクトリアのような若い娘が、しかも民の間で育った者が伯父上の後を継いで国王になるなどと、少々荷が重いのではないかと考えていたが、その若さでそんな者たちを率いているならば話は別だな」


「ちょっと待ってください。どうしてそんな話に? 私が次期国王なんて、そんな話は聞いていませんし御免被りたいですし、私はそんな大したものではありませんよ!」


「いや、いいんじゃない? 女王の治世は平和なものになるらしいし」


 アーロンは椅子に座って振り向いた体勢のままで、まるで『今日のおやつはプリンがいいな』くらいの軽い調子で言う。


「そうだな、ヴィクトリアは兄上よりもずっと国王に向いている気がする。とても優しそうだし」


「ノーラ、どさくさに紛れて俺を下げるのはやめてくれ。お前の悪い癖だ」


「いや、でも妹会に入会してくれないのは残念だな。なんとかできないか、お互いの状況を話し合う場を設けることはできないか」


「話によっては応じよう」


 再びユアンは偉そうに言う。

 相手は王族なのだということをまったく感知していないような言い様に、こっちがそわそわしてしまう。侍女たちはなにが起こっているか現状が把握できず、咎めることも口も挟めないという様子だった。

 そのうちにヒューバートを呼ぶ使者がやって来て、そうして従兄弟達との初めての対面は、なんとか終了した。

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