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第17話 いとこたちとの対面1

「いいですか? 陛下があなた様に甘くなさるから勘違いされてらっしゃるかもしれませんが、あなた様はまだ周囲の者たちには王女様だと認められておりませんのよ? そのあたりを忘れてもらっては困ります」


「ええ、分かっていますよー」


 それが証拠に私の名前を呼んでくれないじゃない、とは言わずに呑み込んだ。

 ヴィクトリアは対面が予定されている葡萄の間にいて、彼らを待っている間、侍女頭のマーサに斜め横に立たれて、こんこんと言い聞かせられていた。


 マーサは恐らくはヴィクトリアの母よりも年上で、長年ご令嬢たちの教育係をしてきて実績があります、というような厳しそうな人だった。きっと冗談を言うこともなく、冗談も通じないのだろう。ヴィクトリアはひと目見て、苦手かも、と思う人であった。

 相手を待たせた方が喧嘩に勝つ確率は高い。


 侍女達にそう言ったのだが、なにを言っているのだと一蹴されて、従兄弟達がやって来るよりも大分前に葡萄の間に着て、彼らを待つことになった。

 そうしてマーサに口うるさく言われる羽目に陥っている。


「いいえ! 分かっていません! まるで庶民丸出しのあなた様に、侍女一同やきもきしております! 高貴な身分の方々の前でなにか酷い失敗されるのではないか、と」


「だって、ついこの前まで庶民だったんだから仕方がないじゃないですか?」


「仕方がないではありません。の口の利き方! それでヒューバート様たちと対面されるおつもりなのですか?」


「いや、そんなことを言われても。彼らが来るわずかな時間で矯正できるものですかね?」


「そう、一年、いえ、二年はかかるでしょうね」


「はあ。では、彼らと対面するのは一年後ということで。だって失礼があってはいけないのでしょう?」


「そういうわけには参りません! ヒューバート様たちはあなた様のために予定を空けたのですよ? 断るなんてそれこそ失礼千万です!」


 だったらどうしたらいいのだろうか?

 ユアンに助けを求めるように視線を送るが、彼は絶対に目が合ったはずなのにまるで気付いていないかのように別のところに視線を向けてしまった。


 そう、ユアンは一応ヴィクトリアの警護ということで一緒に来てくれていたが、警備らしく壁に背を向けて立っているだけで、こちらのことなど知らぬ存ぜぬという態度を貫いている。貴族中の貴族の従兄弟たちではなく、侍女頭に対してなのだから間に入ってくれてもいいのに。


「じゃあ、できるだけしゃべらないようにします」


「ええ、まあ……それが賢明でしょうね。ですが、聞かれたことには答えること! ボロが出ないようにできるだけ簡潔に!」


「ボロもなにも、向こうも私が庶民中の庶民であることは十分承知していると思いますが」


「口答えはおやめなさい」


 じゃあ、適当に流しておけばいいのかと、ヴィクトリアはマーサの言葉に口を挟まずにうんうん聞いていた。だが、その態度もまた彼女の癪に障るらしく、あまり愉快でない表情だ。


 本当にどうしたらいいのよ、と考えているうちに、先触れの使者が間もなくヒューバートたちがやって来ることを告げた。

 そうしてマーサはようやく下がった。


 それからしばらくして扉の外が俄に騒がしくなり、そうして扉が大きく開け放たれた。

 部屋に入ってきたのは背がすらりと高い青年だった。彼がヒューバートかと思っていたら、もうひとり、同じくらいの上背の青年が入ってきた。

 なんだかおかしい。

 次男のアーロンはまだ十三歳だと聞いていたのに、こんなに背が高いのかと思っていると、


「ほら、やはり驚いているではないか、ノーラ。お前がそのような格好をしているから」


「なにを言っているのだ、兄上。私の方が兄上よりも男性らしく、ハンサムだから驚いているのだろう? ねぇ、そうだろう? ヴィクトリア?」


 確かにこちらの男性の方が甘いマスクをしている……と思ってから、彼……ではなく彼女がノーラと呼ばれていたことを思い出して驚愕に目を見開く。

 絹のように細い金色の髪を後ろで束ねており、涼しげな蒼色の瞳とすっと通った鼻筋が魅力的である。そうして軍服ふうの姿で当然のことながらドレスではなく脚衣を穿いている。

 一方のヒューバートは同じ髪色だが瞳は緑がかっている。王者の鼻、といわれる鷲鼻で彫りが深く、頼りがいがある雰囲気である。


「兄さんは、姉さんの方が女性に人気があるからやっかんでいるんだよ」


 そう言う彼がアーロンなのだろう。

 まだあどけなさが残る顔立ちの少年だった。少々巻き毛かかった金髪に、碧色の瞳の少年だ。将来は凜々しい青年になるだろうと期待したくなる顔立ちをしている。


「特にやっかんでなどいない。年頃の娘なのだからそれなりの格好をし、それなりの行動をするべきだと思っているだけだ」


「最近、父上よりも口うるさくなって参るよ。あ、ここ、座ってもいいかな?」


 三人のやりとりに圧倒されつつ頷くと、三人はヴィクトリアを取り囲むように座った。

 こうして見るとなかなか爽快だな、とついつい目を奪われてしまう。


 真ん中にヒューバートが座り、その右にノーラが、左にアーロンが座っている。

 この三人が自分の従兄弟だとはとても思えないし、彼らにしてもそうだろう。急に現れたヴィクトリアを従姉妹だとは思えなくて当然だ。


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